コラム

ケーキ屋スタイルの直売所が大人気!埼玉県熊谷市の嶋村屋熊谷いちご園を取材

公開日:2025.06.16

今年3月に、日本野菜ソムリエ協会から“もっともおいしいいちごを生産する県”として認定された埼玉県で、ケーキ屋スタイルの直売所が人気の嶋村屋熊谷いちご園を取材しました。
嶋村屋熊谷いちご園は、“日本一暑い街”として知られている埼玉県熊谷市に位置し、「かおりん」「あまりん」「べにたま」「あきひめ」「紅ほっぺ」「おいCベリー」6品種のイチゴを栽培しています。

園主の嶋村正樹さんは、『養液いちご研究会』の8代目会長も務めていらっしゃいます。養液いちご研究会では最新技術を積極的に導入し、イチゴ農家同士で意見交換しながら、高いレベルでのイチゴ生産に努めており、現在は120人の農家と46社の企業が所属。その取り組みが評価され、「あまりん」「かおりん」「べにたま」の栽培権利が付与されています。

今回はイチゴの栽培から販売までのこだわり、養液いちご研究会の取り組みについて取材しました。

1.制服で差別化!接客にこだわる嶋村屋熊谷いちご園の取り組み

△全3棟(約3471平米)のビニールハウスで栽培




制服を採用されているのはなぜですか?

就農する前は飲食店で働いていたので、制服は慣れ親しんだものです。
ハウス内に売店コーナーがあるのですが、農作業着で接客するよりも制服のほうが身が引き締まり、気分を新たに接客できます。また、数あるイチゴ農園の中からお客様に選んでいただける農園になるために、”きちんとした接客ができる”ことを売りに差別化を図りたいと思い、制服スタイル”を採用しました。

栽培品種を教えてください。

今年は「あきひめ」、「紅ほっぺ」、「おいCベリー」、「べにたま」、「あまりん」、「かおりん」の6品種を栽培しています。一番人気はやはり「あまりん」です。


画像提供:嶋村屋熊谷いちご園

「あまりん」の魅力は何ですか?

口にしたときに感じる圧倒的な糖度の高さと、香りの良さだと思います。果肉が固くてしっかりしているので、食感もほどよく、お客様に喜ばれるイチゴだと思います。
実は、「あまりん」には開発段階から注目していました。試験栽培時の試食で、「これだ!」と直感したのです。その魅力に惚れ込み、まだ「あまりん」という名前もついていない、生産が始まった初年度から栽培しています。

実際に栽培してみると、抜群に育てやすいことがわかりました。花数が少ないため作業の効率化につながることや、比較的“素直に育つタイプのいちご”でクセがなく、おいしいイチゴが収穫できる、まさに“優等生”です。


栽培スケジュール

2月末~3月:苗の準備を開始
6月~7月:苗を増やす
9月末~10月上旬:花芽分化のタイミングで定植
10月~11月:イチゴの花が咲いたら蜂を入れて受粉作業
12月~5月下旬:収穫




導入設備を教えてください。

慣れ親しんだものが良いと思い、研修先で使用していたものと同じ鉄骨のビニールハウスと高設栽培のシステムはを導入しています。

高設栽培のシステムはあえて“背が高いもの”を選びました。作業時に腰への負担が軽減できること、イチゴ狩りに車椅子のお客様がお入りになった際、肩にイチゴがぶつからないようにと考えました。

※現在はイチゴ狩りを休止しています。

また、“日本一暑い街”として日本記録41.1℃を記録した場所なので、暑さ対策として細霧冷房システムを導入しています。気化熱の作用でハウス内の温度を下げる効果があるため、少しでも涼しい環境を作れればと思っています。




2.一番大事なのは苗作り!高品質のイチゴを届けるためのこだわりとは

栽培のこだわりを教えてください。

一番は苗作りです。無病、無害虫の苗を夏の間に育て、ハウスに定植する際には根を傷めないように工夫しています。根は植物が栄養分や水分を吸収する重要な器官なので、“根の健康が一番重要”だと考えています。また、イチゴ農家では少ないかもしれませんが、私はあえて大苗気味に育てています。イチゴの葉が大きい方が、光合成能力が高まり、味がのって美味しいイチゴになります。

定植先の土にもこだわっています。土の中に空気を取り込む層をつくるために(ヤシ殻を使った土壌改良剤などを使って)土壌を改良し続けています。

そして、やはり肝になるのは“商品の品質”です。高品質のイチゴを収穫するためには長年の経験と熟練の技が必要なので、収穫作業は私と妻の2人だけで行っています。 深夜1:30からヘッドライトをつけて収穫を行い、パック詰めをしています。

販路について教えてください。

店頭販売のみ行っています。園内に併設した売店コーナーには、特注のショーケースを導入し、ケーキ屋さんのような注文スタイルを採用しています。
一番の理由は8~10℃の冷蔵保存でおいしさをキープできることです。他にも、砂ぼこりや虫の侵入を防ぎ、清潔に保管することができることも大きなメリットです。高品質のイチゴを販売したいとの思いで導入しました。






3.埼玉県のイチゴ高設栽培の原点『養液いちご研究会』とは

養液いちご研究会について教えてください。

2008年に発足した当時、埼玉県のイチゴ栽培は土耕栽培が主流で、高設栽培などの最新設備を使った取り組みが普及していませんでした。

そこで、私の研修先だった、いちご畑花園の髙荷さん(発足時会長)と花園いちご園の飯島さん(初代会長)のお2人が、高設栽培システムを導入して新しい栽培にチャレンジするんだ!と取り組まれたところ、高設栽培に興味をもった生産者たちが見学や意見交換に訪れるようになりました。
そこで作られたコミュニティが『養液いちご研究会』だと聞き及んでいます。

年に3回ほど活動しています。
1回目はイチゴの栽培が終わった頃、6月~7月に視察検討会が行われます。
8月には総会(講習会)、栽培が始まる11月に現地検討会が開かれます。現地検討会では会員のハウスを周って意見交換を行います。

画像提供:養液いちご研究会





イチゴ栽培に日々真剣に取り組む姿勢を認めていただき、埼玉県の「あまりん」「かおりん」「べにたま」を栽培する権利を付与されています。現在この3品種については、『養液いちご研究会』または『埼玉いちご連合会』に所属する埼玉県内のイチゴ農家しか栽培ができません。

最後に、今後の目標を教えてください。

安心、安全でないと食への信頼が薄れてしまいます。
安心で安全な美味しいイチゴを、納得いただける値段で提供し続けたいと思っています。

取材動画




今回取材させていただいたのは…

嶋村屋 熊谷いちご園
代表 嶋村正樹さん

大手飲食店で働いていた嶋村さんは、就業時間が長く不規則だったことから、“家族と過ごす時間を増やしたい“と考え、就農の道を選びました。埼玉県のイチゴ生産者のもとで研修を受けた後、2012年に嶋村屋 熊谷いちご園を創業。高品質のイチゴを提供するために特注のショーケースを導入した直売所(販売コーナー)は開店前から行列ができる人気ぶりです。
飲食店勤務の経験から接客・サービス・品質にこだわり、安心で安全なイチゴを提供し続けています。 また、現在は養液いちご研究会の8代目会長を務めていらっしゃいます。


ライタープロフィール

【施設園芸ドットコム 編集部】
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新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪









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