コラム
公開日:2021.06.29
深谷市は埼玉県北西部に位置し、深谷ねぎをはじめとした様々な農作物の一大産地として首都圏の食を支えています。また、日本近代経済の父、渋沢栄一ゆかりの地としても知られる、今大注目の都市。 今回はそんな深谷市の新しい取り組みと、今年3月にオープンした農業体験施設「ONE FARM深谷Works」について取材しました。
深谷ネギやトウモロコシ、ブロッコリーなどたくさんの農作物を生産する深谷市ですが、多くの地方都市と同じように人口減少や高齢化など様々な課題をかかえています。これらを解決するために農業とテクノロジーの融合を目指して立案されたのが「アグリテック集積戦略」。農業をより良くする知識やノウハウ、技術を持つ企業を深谷市に集めることで、人口減少や高齢化による農業課題の解決や、農業生産性の向上、儲かる農業を実現していこうというものです。
深谷市はアグリテックを集めた農業シリコンバレーを目指して4つの戦略をうちたてました。
アグリテック企業に協力する農家さんや、実証できる場所や農地を集め、現場で起きている課題のデータバンクを創設します。
アグリテックコンテストを開催して先進的な企業を表彰し、製品化・事業化を深谷市で支援します。また、アグリテック企業と地域の企業や農家さんとの交流を促進します。
深谷市の農業課題と技術のマッチングや、農業者・企業の相互理解を促進する活動を行い、技術の活用や企業活動の定着化を推進します。
起業者同士、農業従事者と企業の異業種交流の促進を図り、展示館の出展やイベント開催などを支援します。
深谷市ではこのようなアグリテック集積戦略の一つとして、2019年から農業の課題を解決する優れた技術を表彰するDEEP VALLEY Agritech Awardを始めました。
DEEP VALLEY Agritech Awardとは深谷市が抱える農業の課題解決をする優れた技術(アグリテック)を表彰する取り組みです。受賞者は深谷市の協力のもと、アイデアや技術を事業として開始できるように、現場とのマッチング支援や実証フィールド提供、出資など様々な支援を受けることができ、毎年たくさんの企業がエントリーするアワードです。 そして2019年に受賞をしたのが、グリーンラボの「スマートアグリファクトリー」です。
スマートアグリファクトリーとは、独自の縦型水耕栽培にIoTと太陽光や地熱や風力などの様々なエネルギーを活用した新しい農業システムです。地域で眠っているエネルギーを利用しつつ、スマート農業の担い手や移住者を増やすことで地域を活性化させることを目的にしています。 例えば、岩手県八幡平市では地熱発電所から供給される熱水をビニールハウスの暖房に、佐賀県佐賀市ではごみ処理場で出たCO₂と余熱を作物の光合成に利用した植物工場が稼働中。特に佐賀県では地産地消のコラボで、栽培・収穫したバジルをピザ屋さんへ提供しており、世界中で注目されています!
スマートアグリファクトリーには大きく3つの特長があげられます。
【特長1】縦型水耕栽培システム
コンパクトな面積で高収量を実現する縦型水耕栽培システム「Bi-GROW」。縦方向の空間を利用することで、同じ面積の畑と比べて100倍以上の収穫量と50種を超える野菜の栽培が可能。
【特長2】IoTシステム
遠隔制御やモニタリング操作を可能にしたIoTシステム。ITで集めたデータを活用すれば適切な環境づくりや病害予測、土壌管理が可能。
【特長3】循環型社会づくり
太陽光・地熱・風力など地域の再生可能エネルギーを活用することで、環境に配慮した循環型社会づくりが可能。
グリーンラボ(株)社長 長瀬さんより
私はもともとグリーンリバーという太陽光発電の会社におり、晴れた日に瞬く間に発電できるイノベーティブな発電機があるのだから、そこで作られたエネルギーを使って「農業を便利にできないか?」と考えグリーンラボを作りました。
農業において今までの人材育成は、少ない人数に対して長年の月日をかけてノウハウや技術を伝承してきましたが、AIやITの技術を活用すれば蓄積したデータを活かし、育成・管理を行って農業技術者を増やしていくことができます。このシステムを見て「データを使った農業っていいな」「面白そう」と農業に興味を持って本格的に就農する人が1人でも出てくれば大成功だと考えています。また、農福連携の面でも最新技術を活かし、農作業がしたくてもできない・難しいと思っている方のサポートができるデバイスの開発にも取り組んでいます。
このスマートアグリファクトリーのシステムを使った施設「ONE FARM 深谷Works」が今年3月にオープンしました。深谷市内の同施設は、農業を「学ぶ」・「とことん楽しむ」にフォーカスし、楽しみながら農業にチャレンジすることができます。
施設内にあるコンテナ型の太陽光利用型植物工場は、太陽光パネルの他、縦型水耕栽培装置や養液管理装置も搭載されており、設置場所を選ばず水耕栽培をすることができます。 また、IoT技術を使った最新の農業を体験でき、収集したデータの活用や分析などを初心者でも出来るように手厚いサポートも受けられます。
Wi-Fi完備の環境でリモートワークをしながらの農業、週末には家族でグランピングやバーベキューも楽しめるなど、ONE FARMは利用する人に応じて様々な過ごし方ができます。コロナ禍の中での新しい働き方を提案すると同時に、家族で農業体験をすることで食について学ぶ機会も与えてくれます。
ONE FARMは最新の農業技術を体験できるだけではなく、農業の新しい可能性を見せてくれる施設であると感じました。深谷市が農業の未来を考え、いち早く動き出した取り組み「アグリテック集積戦略」。始まったばかりの取り組みですが、今後どのような技術が集まり実現していくのか注目です。
今回取材させていただいたのは…
グリーンラボ株式会社
代表取締役 長瀬勝義さん
太陽光エネルギー会社の知識を生かして、新たな農業の形を提案する長瀬社長。冗談も織り交ぜながら軽快にトークする快活な印象の方でした。何事もまず自ら実証をするひたむきな姿勢は、幼いころから「どうやったら地方の農業が豊かになるのかな?」と考えていたからこそなのだと強く感じました。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪