コラム

ケーブルテレビ会社が「だれでもできる農業」に挑戦!【後編】地域密着型の植物工場を取材

公開日:2025.05.29

入間ケーブルテレビが手掛ける新事業「スマート農業」を取材しました!
2018年に「株式会社ICTVスマイル農場」を設立し、2020年には埼玉県東松山市にリーフレタスなどの葉物野菜を栽培する植物工場を建設しました。さらに、2021年には埼玉県入間市にいちご農園を、2022年にはトマト農園をそれぞれ開設し、事業を拡大しています。 栽培された野菜は、「スマイル農場直売所」にて販売されており、地域住民に新鮮で安心な農産物を提供しています。

実は、スマイル農場で育てられている野菜は、農業未経験のケーブルテレビ社員たちが、日々試行錯誤を重ねながら栽培管理をしています。ケーブルテレビ会社が“だれでも栽培できる農業”を目指したきかっけとその取り組みとは?

後編の記事では、植物工場の取り組みをご紹介します。

1.スマイル農場「植物工場」を見学!一番重要な育苗方法


スマイル農場の植物工場とは?

埼玉県東松山市の植物工場では、栄養価が高く、えぐみやアクの少ない葉物野菜を栽培しています。「安全・安心」のおいしい野菜で地域に笑顔を届けたいとの思いで日々栽培に取り組む中、埼玉県の農作物認証制度である「S-GAP(埼玉県独自のGAP規範)」を取得。日本農林規格・JAS0012(人工光型植物工場における葉菜類の栽培環境管理)の認証も受けています。

今回は特別に植物工場内部を見学させていただきました。

植物工場を見学!

クリーンスーツと専用の長靴に着替えました。フードとマスクを着用し、手順書に沿ってしっかり手洗いをします。更衣室からエアーシャワーまでの順路はL字に曲がったあと階段を使って2階から1階に降りていきます。少し長くて複雑な道のりは虫が侵入しないようにするための工夫だそうです。農薬を使わない栽培だからこそ、衛生管理が徹底されています。

植物工場の内部は工場責任者の木村さんに案内していただきました。
スマイル農場には播種室、育苗室、試験室、栽培室1、栽培室2、栽培室3があります。順番に見ていきます。

播種室

フリルレタスをメインにグリーンジャケット、グリーンオーク、サラダ菜(注文制)の種を育てています。すぐに芽が出てくるので、2日後には育苗室へ移動します。
専用の白色LEDを使って発芽率を上げる工夫をしています。品種によって異なるものの、通常8~9割と言われる発芽率。環境に左右されることもあるため、エアコンや加湿器を使って部屋の温度・湿度を管理しています。





育苗室

芽が出たあとは育苗室に移動し、DFT方式の水耕栽培システムで苗を育てていきます。
システムメーカーの“栽培レシピ”に沿ってEC値(電気伝導度)などを設定します。 育苗は一番重要な工程です。

木村さん:ここで苗が大きく育たなければ、定植後も大きくなりません。育苗室でしっかり苗を育て、さらにその中からより大きく育ちそうな苗を選び、定植します。

システムは白色のLEDを使う棚と、青と赤のLEDを使う棚に分かれており、照射する光の色によって効果が変わるそうです。

木村さん:白色には赤、青、緑が含まれているため葉が肉厚に育ちます。赤の光は光合成を促進し、青の光は葉の形を整える、養液やCO2の吸収率を上げるなど、色によって野菜に与える影響が異なります。
赤の光だけ当てると徒長するため、青の光と交互に当てたり、同時に当てたりなど、組合せが大事です。赤と青の光を同時に当てると肉厚で茎が太くなる上、徒長もしづらいし形も整います。さらに当施設では光量も調整しています。

△光量を調整する木村さん





光の効果は品種によっても異なるため、光を当てない時間を作ったり、24時間光を当て続けることもあるそうです。

木村さん:どうやって光を当てたらよいのか、葉の大きさや形を観察しながら、日々勉強しながら、スマイル農場としてのレシピを模索しています。

2.200gの大株栽培で「コスト削減」を目指して

栽培室1

100グラムほどのリーフレタスやグリーンジャケットをメインに栽培しています。
定植から17日程度で収穫できます。(他の部屋の分と合算すると)1日2,700個ほど収穫して、主にスーパーなどへ出荷しています。

△直売所で販売されているグリーンジャケット(100g)






栽培室2

200グラムほどの大きな野菜を栽培する大株専用の部屋です。1箱2キロ単位の契約でレストランや飲食店、テーマパークなどに出荷しています。

木村さん:定植の間隔を開けたり、(白色LEDの)光量を上げたり、ちょうど良い場所に風を当てることができる新しいシステムを導入しています。
野菜にとって一番よい環境を短時間で作ることができるため、栽培室1よりも1日短いサイクルで栽培することができます。他にも、強めに水を流して循環を良くすることで、チップバーンが発生しづらく生育が良くなるように工夫しています。

大株の栽培は、作業効率を上げて単価を下げることが目標です。

木村さん:100グラムの野菜をたくさん栽培するよりも200グラムの大株野菜を栽培して作業量を減らし、重量を増やすことで「販売価格を抑える」ことを企業として目指しています。

植物工場のメリットは、何度も試験ができること。

木村さん:露地栽培やハウス栽培は作の回数が限られていますが、植物工場は年間で何十回も試験することができるため、長年かかるノウハウをたった1年で習得することができます。

こぼれ話👂レタスのおいしい食べ方

木村さんにおすすめしていただいたのは、フリルレタスとサラダ菜をミックスして食べること。フリルレタスのシャキシャキとした食感とやわらかいサラダ菜が組み合わさると、ふんわりしてとても美味しいそうです。 ぜひみなさんもお試しあれ!

3.新鮮でおいしい野菜を届けるために

新鮮な野菜をお届けするために、毎日収穫・梱包・出荷しています。 収穫後は必ず1日冷蔵庫で保存してから出荷しているそうです。

木村さん:そのまま冷蔵トラックに積んでしまうと、袋の中に汗をかいてビシャビシャになってしまいます。一晩冷蔵庫で寝かせることで寒さに慣れてもらってからトラックに積んでお客様にお届けします。

4.ケーブルテレビ会社が農業を始めた理由

△左)木村さん、右)斉藤さん




Q.なぜケーブルテレビ会社が農業分野に参入したのですか?

斉藤さん:地域貢献をしながら事業の柱を作るために農業へ参入しました。
ケーブルテレビは成熟産業で売り上げが頭打ちになってきているため、次の事業の柱を作る必要があったのです。常日頃、社長が言っていることは「地域に貢献しよう」。私たちに何が出来るのか?と考えたときに、地域の耕作放棄地を活用することが地域貢献につながると思いました。

Q.植物工場の立ち上げメンバーだと伺いました。どのような道のりでしたか?

木村さん:農業に参入すると聞いたときは、正直とても驚きました。経験のない私たち社員に一体何が出来るのだろう… と考え、実際に露地栽培やハウス栽培の農家さんを訪問させていただきました。そこで実感したのは「農業はノウハウや経験がないと難しい」ということ。

それならば、「機械的な栽培であればノウハウがなくても出来るのではないか?」と思い、社長と対話を重ねる中で機械的な栽培が可能な“植物工場”という選択肢にたどり着きました。

土地を探し、工場を建設し、そして農業法人として「株式会社ICTVスマイル農場」を立ち上げました。多くの苦労がありましたが、それでも今こうして思い返してみると、「よくここまでやってこられたな」と感じます。ここまで事業を継続できていることをうれしく感じます。

Q.今後の展望を教えてください。

斉藤さん:私たちケーブルテレビは地元のみなさんに支えていただき、今年35周年を迎えました。これからは、支えていただいた地域のみなさんに恩返しをしていくつもりです。新しいことに挑戦するのが大好きな社長のもと、今後は品目の拡充や観光事業の開始など、さまざまな可能性が広がっています。加工品や飲食事業など、あらゆる選択肢の中からベストな選択をしていくことが今後の展開です。

私たちケーブルテレビ会社の最大の強みは、これまでの事業を通じて築いてきた「つながり」です。この「つながり」を活かし、地域に貢献できる新たな事業の展開を目指していきます。

  • ▼記事の【前編】はちら

取材動画




今回取材させていただいたのは…

スマイル農場
スマイル農場は入間ケーブルテレビ(株)が運営する地域密着型の農園です。入間市の農園ではミニトマトといちごを、東松山市の植物工場ではリーフレタスなどの葉物野菜を栽培しています。
農業への参入は、耕作放棄地の活用と地域貢献を目指し、新たな事業の柱としてスタートしました。また、食品ロスの削減にも力を入れており、レタスを使ったクラフトコーラや、いちごを使ったジャムやソースなど加工品づくりにも積極的に取り組んでいます。
2025年には創立35周年を迎え、地域に貢献できる新たな事業の展開を目指しています。


ライタープロフィール

【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪









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