コラム

有機質肥料を活用した養液栽培!注目の新技術とは?

公開日:2020.12.07

1.差別化の求められる施設園芸農業

異業種から施設園芸農業への大規模参入が増えており価格競争は厳しさを増すことが予想されます。養液栽培で他の農産物に負けない特色を出してより高値で野菜を売るにはどうしたらよいでしょうか?トマトやイチゴなら「高糖度」など高品質化、葉物なら「珍しい品種」にチャレンジするなどが考えられると思います。しかし、高い技術力が求められたり栽培マニュアルが無く試行錯誤で栽培方法を確立しなくてはならなかったりとハードルは高めです。

そこで今回は 「マニュアルに沿って有機質肥料だけで養液栽培をする」という選択肢をご紹介したいと思います。

2.有機質肥料だけで養液栽培が可能に!

これまでの養液栽培、特に水耕栽培では無機質の化学肥料を使うことが大前提でしたが、近年、100%有機質肥料で養液栽培ができる技術、 「有機質肥料活用型養液栽培(通称:有機養液栽培)」が国立研究開発法人の農研機構にて開発されました。しかも無料のマニュアルも公開されており露地の有機栽培に比べるとずっと簡単です。
ここからは新技術として注目されている 有機養液栽培についてお伝えしてゆきます。


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3.有機養液栽培の仕組みとメリット

普通は水の中に有機物を投入したら腐ってしまいます。ところが有機養液栽培では 土壌由来の微生物たちが有機物を硝酸イオンにまで分解してくれます。有機養液栽培ではまず土作りのように 「水作り」といって、“養液中に有機物を硝酸イオン(NO₃)まで分解してくれる有用な微生物生態系の構築プロセスを行ってから栽培する”ことに最大の特徴があります。

※参照:有機質肥料活用型養液栽培マニュアル(農研機構)



「水作り」が完了した養液は 追肥も可能です。投入した有機質肥料はすぐに硝酸イオンにまで分解され植物に吸収されます。効き目が早く 有機質肥料の持つ窒素成分を効果的に利用できるので土壌改良材の意味合いが強い堆肥とは違い、 化学肥料も不要です。


曝気(ばっき)とは?

水に空気を送り込むことをエアレーションと呼びますが、水に酸素を送り込むことを曝気と言います。浄水処理方法の一つで、水中への酸素供給により微生物の有機物分解を促進します。

使える有機質肥料の種類は多く、簡単に分解される液体のソリュブル(カツオ節の副産物)やコーンスティープリカー(コーンスターチの副産物)がよく使われます。使い方に注意すれば固形の油かすや魚粉なども使えます。リンやカリは天然有機カリ肥料で、その他の養分は貝殻が主体の粒状石灰肥料で補います。

△油かす




以下の写真は農業経験に乏しい学生時代の筆者がソリュブルでトマトを栽培した時のものですが、化学肥料の栽培と遜色なく栽培できました。

具体的な栽培方法は「有機質肥料活用型養液栽培マニュアル」がインターネット上で無料公開されていますのでそちらをご参照ください。

4.バイオフィルムが病原菌から根を守る!

有機養液栽培では有機質肥料で栽培できることに加え 「根の病気に強い」というメリットもあります。一般的な養液栽培では養液中をいかにクリーンに保ち病原菌の混入を防ぐかが重要で、一度病気が発生すると養液の流れにのって病気があっという間に広がってしまうこともざらです。
一方の有機養液栽培では 養液中に青枯れ病のような病原菌が混入しても発病することは無く、根部病害に対する農薬は不要です。有機養液栽培では養液中に微生物生態系が構築されるのはもちろん、植物の根には バイオフィルムという微生物の集合体が形成されます。これらが植物を病原菌から守っていると考えられています。


施設農業では企業の参入の増加によって競争の激化が予想されます。養液栽培で他との差別化を図るなら、ぜひ「有機養液栽培」も検討してみてくださいね。より詳しい情報を得るには「有機質肥料活用型養液栽培研究会」のH.P.もおすすめですよ。




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▼参考文献
〇農研機構
https://www.naro.affrc.go.jp/index.html
〇有機質肥料活用型養液栽培研究会
https://sites.google.com/site/yuukiyouekisaibaikenkyuukai/home

ライタープロフィール

【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。








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