コラム
公開日:2025.01.31
△提供:アキレス(株)
生分解性マルチの活用は農林水産省が推進する『みどりの食料システム戦略』のうち<グリーンな栽培体系>に盛り込まれており、廃プラスチック削減に貢献できる資材として注目が高まっています。
しかし、名前は聞いたことがあるけど、どんな資材なのか詳しくはわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回編集部は、20年以上前から生分解性マルチの研究開発・普及促進に力を入れているアキレス株式会社に生分解性マルチについて教えていただきました。インタビューに応えてくださったのは農業資材課の中世さんです。
生分解性マルチを使用するメリットとは?
△提供:アキレス(株)
生分解性マルチと一般のポリマルチは原料も使い方も異なる資材です。
一般のポリマルチは、収穫後にポリマルチの剥ぎ取り作業と剥ぎ取った後の片付け、さらに廃棄物処理が必要です。しかし生分解性マルチは、使用後に土壌へすき込むことで土壌中の微生物のはたらきによって水と二酸化炭素に分解されます。
剥ぎ取り作業の時間と労力が不要になることが大きなメリットです。また、廃棄物処理を行うための費用や時間の縛りからも解放されます。
生分解性マルチは微生物だけではなく空気中の水分や土壌中の水分などによっても加水分解されます。他にも太陽熱や紫外線によって徐々に分解が進むため長期保存ができません。そのため在庫が無く、予約受注生産制になります。
メーカーや規格によっても異なりますが約3ヶ月前の予約が必要です。
<アキレスの規格について>
■ 代表的な規格:厚さ0.016~0.02mm。幅95~210cm、長さ200~800m
その他、色や穴の有・無を選択。穴の開け方や大きさ、数も多種多様なので希望に合わせてオーダーメイド可能。
※価格や受注条件については各メーカーにお問い合わせください
次に、同じ商品を使っていても使用環境によって分解スピードが異なります。
たとえば、微生物がたくさん生息している土壌では、分解速度が速まります。他にも雨や潅水量によっても分解が進むスピードが異なるのです。
△分解前(左)と分解後(右)/提供:アキレス(株)
※メーカーによって成分や配合が異なるため、分解するスピードが異なります。
※あまりにも早い時期にすき込んでしまうと、トラクターの歯に引っかかってしまう可能性があるため、注意が必要です。
商品単価だけで比較すると高いと感じられますが、生分解性マルチは剥ぎ取り作業や廃棄物処理が不要になるため「労力の削減」と「ポリマルチの処分にかかわる費用を¥0にする」ことができます。
どちらのマルチが良いか、使い方とコストのバランスをみて選択いただければと思います。
生分解性マルチの使用を迷われている方は、まずは使ってみてほしいですね。
マルチの剥ぎ取り作業や回収作業がなくなることで、どれくらい作業負担が軽減できるのか、体が楽になるのか。イメージはつくかもしれませんが、体感するとさらに実感が湧くと思います。
△提供:アキレス(株)
設置方法はポリマルチと同じです。ただし、素材が異なるため初めて展張される場合はトラクターのテンション(引っ張り方)をゆるめに調整してください。
最初の1回、2回はブチっと切れてしまっても良いので、まずは感覚を掴んでいただければあとは最後まできれいに展張することができます。
使用後はトラクターで2回以上しっかりすき込むことが重要です。すき込むことが廃棄物の中間処理となります。十分すき込まず土壌に触れていない生分解性マルチは微生物分解が進まず、破片が残ってしまうことがあります。
※有機JASでは使用できません。(2025年1月時点)
代表的な露地作物では、トウモロコシ、サツマイモ、カボチャ、大根、レタスです。キャベツや里芋、枝豆などにも導入実績があります。ハウス栽培では、イチゴ、トウモロコシで導入実績があります。
(※きゅうり、トマトも試験導入中)
一番導入が早かったのは、ポリマルチの剝ぎ取り作業が大変なトウモロコシです。
トウモロコシの場合、ポリマルチを剥ぐ際に茎が食い込んでしまうため、茎を除去しながら剥ぎ取ります。また、成長が速いため生分解性マルチの分解スピードが速くても使用ができるという点も、普及が進んだ要因です。
剥ぐ手間をどれだけ苦労に感じるか、作物がどれくらいの期間で生育するかによって生分解性マルチの良さが発揮されます。
△トウモロコシの苗
△提供:アキレス(株)
アキレス(株)の生分解性マルチは20年以上前に開発しました。
しかし、開発したばかりの頃は、「ほ場でどれくらいの期間で分解されるのか一概には言えない」「ポリマルチと同じように使用すると上手くいかない」といった課題を解消することと、「生分解性マルチの特性を農家のみなさんにご理解いただくこと」に時間がかかりました。
弊社だけではなく、ABA 農業用生分解性資材普及会を中心に、生分解性マルチのブランドオーナーや流通の方々と共に農家さんの声を聞きながら改良を重ねてきた歴史があります。
最近では廃プラスチック削減や省力化の観点から注目されることが増え、お問い合わせの数も年々増えてきました。
生分解性マルチは原料由来の特性として水分が透過しやすいため、ポリマルチに比べて土壌が乾きやすい傾向にあります。その点に注目して改良したのがアキレス(株)の新商品『ビオフレックスマルチプラス』(2023年8月発売)です。他社にはない「保水性」の機能を付与しました。
【特徴】
・分解まで4ヶ月前後と他社製品に比べて長めの傾向がある
・カラーが4色から選べる(白黒、黒、透明、銀ネズ)
・アキレス従来品に比べて保湿効果が向上
アキレス(株)は1957年(昭和32年)から農業用のビニールフィルムの生産・販売を開始し、2002年には生分解性マルチ「ビオフレックスマルチ」を発売しました。
日本がプラスチックゴミを減らし、環境に負荷がかからない体系を作っていこうと指針を示す中、「生分解性マルチの商品開発・普及」は私たちアキレスが貢献できることの一つだと考えます。
現在日本の農業現場では約90%のほ場でポリマルチが使用されています。
しかし、農家の高齢化や人手不足の問題を鑑みるに、「省力化」は今後の重要なキーワードになるでしょう。
一方で、様々な資材費が高騰している中、生分解性マルチのコストバランスを農家さんたちに理解していただけるまでには、まだ時間がかかるかもしれません。
今後も生分解性マルチの研究・改良を進め、農家さんたちによろこんで使っていただける商品を作りたいと考えています。また、『生分解』をキーワードに、マルチフィルムだけではなく省力化や温室効果ガス削減につながる商品を開発・展開していきたいですね。
今回取材させていただいたのは…
アキレス株式会社 中世隆三さん
やさしい口調とはにかむ笑顔が印象的な中世さんは、今年で入社11年目。関東・東北エリアを飛び回り、生分解性マルチや農業用ビニールフィルム、遮光剤などの営業活動を行っています。
販売店さんへの訪問や、生分解性マルチをご利用いただいた農家さんのほ場に訪問し、使用後の評価確認も担当されています。
知識が豊富でどんな質問にも軽快に答えてくださり、何でも気軽に相談できそうな方でした。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪