コラム

みどりの食料システム戦略【事例⑥】コナジラミから作物を守るためには?最新の防除対策を紹介

公開日:2025.07.29

コナジラミは、トマトをはじめ、キュウリやナス、イチゴやミカンなどの作物に深刻な被害を与える重要害虫として知られています。
コナジラミ類の防除には化学農薬が使用されていますが、近年、主要薬剤に対するコナジラミ類の感受性が低下しています。そのため、化学農薬のみに依存した防除が困難となってきました。
そこで、天敵の利用、防虫ネットの使用、病害虫に対する抵抗性品種の利用など、複数の防除法を組み合わせて総合的に防除する体系の構築が急務となっています。

農林水産省は、2021年に策定した政策指針「みどりの食料システム戦略」において、化学農薬の使用量を2030年までに10%削減する目標を掲げ「農業での環境負荷低減の実現」を目指しています。その一方で、新薬(新規農薬)の開発には少なくとも10年以上の時間がかかります。このことから、同戦略では具体策の1つとして病害虫の発生予防に重点を置いた総合防除を推進しています。

本記事では、農林水産省「技術カタログ」の中から、施設栽培のトマト・キュウリにおけるコナジラミ類の総合防除技術をご紹介します。

1.【トマト】コナジラミの爆発的増加を抑えて農薬半減!

△タバコカスミカメ

栽培初期からタバコカスミカメと天敵温存植物を導入|静岡県農林技術研究所

コナジラミ類の有力な天敵として、タバコカスミカメが広く知られています。
タバコカスミカメとは、体長3~4mm程度のカメムシの仲間です。成虫1頭あたり、コナジラミの幼虫を1日最大40~50頭食べます。ヨーロッパを中心に害虫防除に広く利用されています。日本では2021年、施設栽培トマトにおけるコナジラミ類を対象に生物農薬として登録されました。タバコカスミカメ製剤が市販されています。

タバコカスミカメは害虫に対する捕食能力が高いため、害虫の発生直後に速やかに抑制できる強力な防除効果を持ちます。

一方、雑食性であるタバコカスミカメは、害虫など動物質のエサがなくても特定の植物をエサとして増殖することが可能です。この植物を「バンカー植物(天敵温存植物)」と呼びます。バンカー植物を利用することにより、害虫密度が低くてもタバコカスミカメは高い定着性でハウス内に残存して、防除効果が長期間持続することが期待できます。

静岡県農林技術研究所は、大玉トマトの栽培初期からタバコカスミカメとバンカー植物をセットでハウス内に導入することで、タバココナジラミを防除する技術を開発しました。

【概要】

△出典:『「みどりの食料システム戦略」技術カタログ~現在普及可能な新技術~(Ver.5.0)』(農林水産省作成)

① 施設内で長期栽培する大玉トマト品種を対象とする。大玉トマトは、8月に定植して翌年の7月までに収穫。
② タバコカスミカメは、大玉トマトの栽培初期(8月の定植時から9月上旬まで)に放飼する。放飼の割合は、1回につきトマト2株あたりタバコカスミカメ1頭。必要に応じて追加放飼も可能。
③ バンカー植物としては、クレオメとバーベナが利用可能。バンカー植物は、タバコカスミカメの放飼と同時にハウス内に導入する。
④ タバコカスミカメとバンカー植物のほかに、タバコカスミカメに影響の少ない農薬(選択性薬剤)を使用。
⑤ タバコカスミカメの効果を最大限に高めるために、黄化葉巻耐病性品種の利用のほか、防虫ネット(0.4mm以下の目合い)の使用や粘着トラップの設置、発病株の迅速な除去など、複数の防除法を組み合わせて総合的に防除する。

メリット ①化学合成殺虫剤の散布回数・使用成分数が半減

農薬散布による防除が主体の慣行防除と比べて、コナジラミ類を対象とした化学合成殺虫剤の散布回数と使用成分数を半減できた。


②収穫間際のコナジラミの爆発的増加を抑制

栽培期間を通してタバココナジラミは低密度に抑えられ、栽培後期によくみられる爆発的増加を防げた。これにより、近隣ハウスなどの周辺環境へのトマト黄化葉巻ウイルスやウイルスを媒介する害虫の飛散を防止することが期待できる。

2.【トマト】栽培初期から高い防除効果を発揮!コナジラミ対策

定植前のトマト苗と天敵を同居させてみた|茨城県農業総合センター

コナジラミ類の天敵であるタバコカスミカメは、放飼後の増殖に時間がかかるためコナジラミ類の増殖を十分に抑制できない場合がありました。

タバコカスミカメのトマトへの初期定着性を向上させるために、「苗放飼」という放飼法が考案されています。苗放飼は、定植前のトマト苗をネットなどで被覆してタバコカスミカメを放飼することで、定植までの数日間、苗とタバコカスミカメとを同居させるものです。

茨城県農業総合センターは、トマト苗を定植する数日前にトマト苗にタバコカスミカメのエサとなる「アルテミア資材」を設置してタバコカスミカメを放飼することにより、タバココナジラミを防除する技術を開発しました。

【概要】

△出典:『「みどりの食料システム戦略」技術カタログ~現在普及可能な新技術~(Ver.5.0)』(農林水産省作成)

①トマト苗を(育苗ハウスから)定植するハウスにあらかじめ移動させ、トマト苗の定植1~3日前にタバコカスミカメをアルテミア資材の設置とともに、1回につきトマト2株あたり1頭を放飼する。
② アルテミア資材は、麻ひもにタバコカスミカメのエサとなるアルテミア属(Artemia)の小型甲殻類の卵を付着させ、糖蜜を染み込ませたもので市販されている。
③ タバコカスミカメとアルテミア資材のほかに、コナジラミ類増加時にタバコカスミカメに対して影響の少ない殺虫剤、タバコカスミカメの野外への逃亡を防ぐための防虫ネット(赤黒色/0.8mmの目合いなど)を使用。

メリット ①定植後放飼よりも1~2か月早くタバコカスミカメが増加

定植前のトマト苗にタバコカスミカメを放飼すると、苗の定植後に放飼する場合と比べてタバコカスミカメの密度が1~2か月早く増加した。また、タバコカスミカメの放飼回数は、定植後に放飼する場合は2回必要だったが、苗放飼の場合は1回のみで十分な増殖・定着が認められた。苗放飼は、定植後放飼と比べて定着性が良い。


②化学合成殺虫剤の使用回数が2割減

タバコカスミカメの苗放飼、アルテミア資材の設置、ハウス開口部への防虫ネットの設置を組み合わせることで、農薬散布による防除が主体の慣行防除と比べて化学合成殺虫剤の使用回数を2割削減できた。
さらに、化学合成殺虫剤の散布回数を減らしつつコナジラミ類を栽培初期から低密度に抑制でき、栽培期間を通して高い防除効果が得られた。
※本技術による成果はトマトの抑制栽培(通常よりも遅い時期に収穫する栽培法)により得られたものです。現在、促成栽培での本技術の適応性について検討中とのこと

3.【キュウリ】2種の天敵でコナジラミ類&アザミウマ類を効果的に防除!

あの厄介なミナミキイロアザミウマもたじたじ|高知県農業技術センター

キュウリのハウス栽培でもコナジラミ類の発生は多く、その被害が問題になっています。
コナジラミ類だけではありません。アザミウマ類も多く発生します。アザミウマ類の中でも特に、ミナミキイロアザミウマはメロン黄化合えそウイルスを媒介することから、多発すれば作物に深刻な被害をもたらします。

(ハウス栽培の)キュウリにおいて、コナジラミ類とアザミウマ類の両方に対して高い捕食能力を持つ天敵としては、タバコカスミカメとスワルスキーカブリダニが知られています。タバコカスミカメは、コナジラミ類のほかにアザミウマ類に対しても防除効果が期待できます。施設栽培キュウリにおけるアザミウマ類を対象に2021年、生物農薬として登録されました。

一方、スワルスキーカブリダニは、体長約0.3mm(雌の成虫の場合。見るにはルーペが必要)のダニの仲間です。成虫1頭あたりコナジラミの幼虫を1日約15頭、コナジラミの卵を1日10~15個、アザミウマの幼虫を1日5~6頭食べます。キュウリ、ナス、ピーマンなどでは、定着性が高いことが確認されています。
施設栽培野菜類におけるアザミウマ類を対象に2008年に、生物農薬として登録されました。スワルスキーカブリダニ製剤が市販されています。

高知県農業技術センターは、防虫ネットを設置したハウスにおいてキュウリの定植直後に、天敵温存植物を導入してタバコカスミカメとスワルスキーカブリダニを放飼することで、タバココナジラミとミナミキイロアザミウマを防除する技術を開発しました。

【概要】

△出典:『「みどりの食料システム戦略」技術カタログ~現在普及可能な新技術~(Ver.5.0)』(農林水産省作成)

① キュウリの定植後、できる限り早くタバコカスミカメを成虫主体で2回に分けて10アールあたり3000頭、スワルスキーカブリダニを10アールあたり50000頭放飼する。
② タバコカスミカメは、ハウス内に定着して効果を発揮するまでに2~3か月かかる。そのため、タバコカスミカメが定着するまでの間、コナジラミ類およびアザミウマ類の防除にはスワルスキーカブリダニを使用する。
③ 天敵温存植物としては、タバコカスミカメおよびスワルスキーカブリダニに対する維持効果が高い、スカエボラとバーベナ(タピアン®)が利用可能。天敵温存植物はキュウリの株間に植える。
④ 防虫ネットは、白色/0.4mmの目合いまたは赤色/0.6mmの目合いのものを使用。これをハウスの開口部に被覆することにより、害虫類のハウス内への侵入を抑制する。
⑤ 2種類の天敵、天敵温存植物および防虫ネットのほかに天敵に対して影響の少ない農薬(選択性薬剤)を使用。

メリット ①アザミウマ類を効果的に防除

ミナミキイロアザミウマは殺虫剤に対する感受性が低く薬剤による防除が難しかったが、本技術を導入することにより、栽培期間を通してミナミキイロアザミウマを低密度に抑えられる。


②アザミウマ類防除剤の使用数が大幅に減少

ほ場で実施した実証試験において、本技術の導入前と比較して、アザミウマ類防除剤の使用薬剤数を1/4以下に削減できた(17剤→4剤)。 なお、タバコカスミカメの密度が高くなりすぎると、キュウリの果実表面に傷(傷果)が発生する可能性があることに留意する必要があります。この傷は、タバコカスミカメの吸汁(植物の養分を吸い取ること)が原因と考えられています。

△アザミウマ

農業において、生産現場の植物に発生する問題の約8割は病害虫に起因するものです。 そのため、病害虫管理が最も重要となります。
適切に防除しなければ病害虫制御が難しい露地栽培とは違い、ハウスに代表される施設栽培では作物を守る「屋根と壁」があるため、病害や虫害はある程度抑えられます。安定した栽培には、病害虫の侵入防止をはじめとして、さまざまな手段により環境を制御することが有効です。そうしたことから、施設栽培は、化学農薬に頼らずに病害虫を回避できる可能性が最も高い栽培法と考えられます。

今後、個々の生産現場の状況に応じて種々の防除法を適切に組み合わせた「オーダーメード型」の病害虫対策が、未来の農業を切り開く鍵となるでしょう。

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▼参考
〇農山漁村文化協会編. 天敵活用大事典. 農山漁村文化協会, 2016.
〇中野明正. スマート農業. 創元社, 2024, (やさしく知りたい先端科学シリーズ ; 11).
〇三菱UFJリサーチ&コンサルティング編. 2025年日本はこうなる. 東洋経済新報社,
〇中野亮平. タバコカスミカメを活用した施設トマトのタバココナジラミ対策. 技術と普及. 2017, vol. 54, no. 1, p. 33-35, (特集 IPMの実際).
〇斉藤千温. 静岡のトマトでも! 土着のタバコカスミカメに手ごたえあり. 現代農業. 2022, vol. 101, no. 6, p. 144-147, (特集 減農薬大特集 ; 土着天敵大躍進 ; 期待の星、タバコカスミカメ).
〇下元満喜, 中石一英. タバコカスミカメを中心とした施設キュウリの総合的害虫管理技術の開発. 植物防疫. 2017, vol. 71, no. 11, p. 713-717
. 〇田中彩友美, 北村登史雄, 安達修平, 冨高保弘, 安部順一朗, 水谷信夫. タバコカスミカメ利用による冬春トマトの栽培終期におけるタバココナジラミ密度抑制効果の検証. 関西病虫害研究会報. 2024, no. 66, p. 27-36.
〇山中聡. スワルスキーカブリダニの特長と使い方. 植物防疫. 2009, vol. 63, no. 6, p. 381-384.
〇吉濱祐介. みどりの食料システム戦略の実現に向けて. 果実日本. 2023, vol. 78, no. 1, p. 42-48, (特集 環境保全型果樹農業).
〇久保牧衣子. 注目集まる「みどりの食料システム戦略」は何を目指すのか : KPI2030年目標の進捗状況と各取組(後編). 園芸新知識タキイ最前線. 2025, vol. 59, p. 52-55.
“〇“「みどりの食料システム戦略」技術カタログ~現在普及可能な新技術~(Ver.5.0)”. 農林水産省. 2025-03.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/catalog-68.pdf, (参照 2025-06-30).”
“〇“天敵の利用を核とした施設トマトの新たな害虫防除体系マニュアル-中部地方版”. 静岡県農林技術研究所. 2019-03-25.
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/SIPtomatomanual_4cyuubu.pdf, (参照 2025-06-30).”
“〇“あたらしい農業技術No. 684 天敵タバコカスミカメと黄化葉巻病耐病性品種を利用した施設大玉トマトにおけるタバココナジラミ防除技術 ”. 静岡県. 2023.
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/SIPtomatomanual_4cyuubu.pdf, (参照 2025-06-30).”
“〇“抑制トマトにおけるタバコカスミカメを用いたコナジラミ類の総合防除法”. 茨城県農業総合センター園芸研究所. 2023-05-29.
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“〇“抑制トマトでの苗放飼法による天敵タバコカスミカメの定着促進効果”. 茨城県農業総合センター園芸研究所. 2023-05-29.
https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/seika/yasai/tomato/documents/r4yasai6.pdf, (参照 2025-06-30).”
“〇“施設キュウリとトマトにおけるIPMのためのタバコカスミカメ利用技術マニュアル(2015年版)”. 農業・食品産業技術総合研究機構. 2015-12-01.
https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/seika/yasai/tomato/documents/r4yasai6.pdf, (参照 2025-06-30).”
“〇“みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~”. 農林水産省. 2021-05.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-10.pdf, (参照 2025-06-30).”
“〇“「みどりの食料システム戦略」KPI2030年目標の設定について”. 農林水産省. 2022-06.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-55.pdf, (参照 2025-06-30).”

ライタープロフィール

【清原 筆養父】
ライター・翻訳家・一級知的財産管理技能士の三刀流。農学修士。野菜(特に、小松菜、豆類、山芋)が大好き。農産物の栽培・加工・包装、農業資材、園芸用品、肥料、農薬、農機具などに関する技術・特許調査・分析、技術・法律文書作成、翻訳などの経験がある。アグリテックやフードテック、テロワールなどに注目している。







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