コラム

みどりの食料システム戦略【具体例①】きゅうり栽培農家が出来る取組み

公開日:2022.08.03

環境への負担をできるだけ減らし、持続可能な農業の実現を目指す政策「みどりの食料システム戦略」。農業の温室効果ガス(CO2)排出量をゼロにすることや、化学農薬・化学肥料の使用量を減らすこと、有機農業の面積を拡大することなどを目標に掲げ、新たな生産技術の開発やその導入を支援する交付金事業などが進められています。今回は、目標達成への貢献が期待される技術をまとめた「技術カタログ」の中から、キュウリの施設栽培で役立つ3つの技術をご紹介。それぞれの概要をわかりやすく解説します。

1.天敵・天敵温存植物・防虫ネットで農薬使用量を大幅削減

※タバコカスミカメ




施設キュウリにおけるミナミキイロアザミウマ、タバココナジラミの総合管理技術

キュウリ栽培で発生するミナミキイロアザミウマやタバココナジラミは、ウイルス病を媒介することもある厄介な害虫です。これらを捕食する 2種類の天敵(タバコカスミカメとスワルスキーカブリダニ)と、2種類の天敵温存植物※1(スカエボラとバーベナ)、害虫のハウスへの侵入を防ぐ防虫ネットという3つの対策を組み合わせると、栽培期間を通じて安定した防除効果を発揮してくれます。高知県の実証圃場では、この技術の導入によりアザミウマ類に対する殺虫剤の使用回数を前年の17回から4回に減らすことに成功。環境への負担を軽減できるだけでなく、薬剤抵抗性の発達で化学農薬の効き目が落ちてしまった害虫にも効果的です。

※1)天敵温存植物:天敵の飛来・定着・増殖などを助ける植物のこと

2.天敵&紫外線カットフィルムで定期的な薬剤散布が不要に




紫外線カットフィルムを被覆したキュウリハウスでのスワルスキーカブリダニを用いた防除体系

ミナミキイロアザミウマやタバココナジラミなどの害虫は紫外線を手掛かりに活動しているため、紫外線のない環境では物の形状や色を正しく認識できず、エサとなる植物を見つけるのが難しくなります。この生態を活用して、キュウリのハウス全体を紫外線カットフィルムと防虫ネットで覆うと、外からの害虫の飛び込みを効果的に防ぐことが可能です。さらに定植2~3日前にジノテフランまたはニテンピラム粒剤を散布した後、定植2~3週間後に天敵のスワルスキーカブリダニを放飼することで、通常は栽培期間中に何度も行う必要のある農薬散布が原則不要に。化学農薬に頼りきることなく、害虫による被害を簡単に抑えることができます。

3.可給態リン酸量を測定して肥料の無駄遣いを防止




キュウリ促成栽培における基肥リン酸施用要否のための可給態リン酸基準

「可給態リン酸」とは、土壌中のリン酸のうち作物が吸収できる状態のものです。リン酸施肥量が多くなりがちなキュウリの施設栽培では、新たに肥料を与える必要がないほど土壌中に大量の可給態リン酸が蓄積してしまっているケースがあります。この技術は、作付け前の土壌分析で可給態リン酸量が基準値(60mg/100g)以上であれば、基肥のリン酸は施用しなくてOKというもの。追肥のみを通常どおり施用すればキュウリの生育や収量が低下することはなく、リン酸肥料の過剰施用による水質汚染や、枯渇が指摘されているリン資源の無駄遣いを防ぐことができます。肥料コストの節約はもちろん、リン酸過剰による病害や生理障害の防止にもつながります。



以上、みどりの食料システム戦略の技術カタログから、キュウリの施設栽培で推進されている技術の一部をご紹介しました。「目標が高すぎる」などといった批判の声もしばしば聞かれる政策ですが、まずはこうした具体的な取り組みをチェックしてみるのがおすすめです。施設園芸ドットコムでも、引き続き普及可能な技術例をご紹介していきます。地域行政やJAからもさまざまな情報・資料が発信されていますので、ぜひ参考にしてみてください。




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▼参考文献
○みどりの食料システム戦略技術カタログ(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/midori_catalog_all.pdf
○紫外線カットフィルムを被覆したキュウリハウスでのスワルスキーカブリダニを用いた防除体系(熊本県農林水産部)
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/6271.pdf
○安全・簡便な畑土壌中リン酸の現場型評価法に基づく施設キュウリ栽培でのリン酸減肥マニュアル(農研機構ほか)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/narc_cucumber_reduceH3PO4_man.pdf
○昆虫の光に対する反応と害虫防除への利用, 「植物防疫」68巻10号, 2014
http://www.jppn.ne.jp/jpp/s_mokuji/20141004.pdf
○タバコカスミカメを中心とした施設キュウリの総合的害虫管理技術の開発, 「植物防疫」71巻11号, 2017
http://www.jppn.ne.jp/jpp/s_mokuji/20171105.pdf

ライタープロフィール

【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!









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