コラム
公開日:2026.05.15

夏の高温により、「花芽分化がそろわず収量が安定しない…」。そんな悩みを抱えている生産者の方も多いのではないでしょうか。
いちごは、北米東部原産のバージニア種と、南米チリ原産のチロエンシス種を交雑させた「フラガリア×アナナッサ デュセーヌ種」が欧州で品種化された後、日本へ導入されました。夏が涼しい地域で成立した作物であるため、日本のように夏が高温になる環境では、育苗期の暑さ対策が欠かせません。
特に近年は、夏の温度が高いことから、通常の育苗方法では花芽分化(=花になる芽ができること)が不安定になっています。また、分化した苗でも、定植後に高温が続くと、花芽の発達が阻害されてしまいます。
そこで重要になるのが、育苗後期または定植直後に行う「花成分化促進処理」(=安定的に花芽分化させる技術)です。
本記事では、いちごの花芽分化の仕組みやそれを応用した「花成分化促進処理」について解説した後、本圃で行ういちご夜冷処理の方法と効果、実際の成功事例について解説します。

花芽分化促進処理を理解するために、いちごの花芽分化条件と温度・日長の関係を表1に整理しました。

▲クリックで拡大
日本で促成栽培に用いられる品種は、ほぼ全てが「一季成り品種」なので、25℃以上の温度では花芽を分化しません。つまり“夏の夜温が高い状態が続くと花がつかない”ことが問題になります。
ところが、実際の育苗は6月末にランナーから切り離し後、7~8月の高温期に育苗が行われます。最低気温が25℃を下回らない日も多く、自然条件では花芽分化が進みにくい環境です。
地域により若干差がありますが、関東以南では最低気温が25℃を下回る日が続くのは9月中旬以降となり、9月23日以降は日長が12時間を下回る(短日条件)ので、9月末にやっと花芽分化することになります。
これでは、開花期が11月中旬以降、収穫期は12月下旬以降になるので、単価が高い時期の収量が期待できません。
そこで、25℃以下かつ短日条件の環境を人為的に作り、その中にいちごの株を置くことで、花芽分化を7~15日程度早めることが、花芽分化促進処理の基本的な考え方です。

いちごの花芽分化促進処理は、大別すると夜冷処理(夜冷短日処理)と株冷処理(低温暗黒処理)に分けられます。
| 夜冷処理 | 株冷処理 | |
|---|---|---|
| 正式名称 | 夜冷短日処理 | 低温暗黒処理 |
| 処理場所 | 専用夜冷施設 | 予冷庫等 |
| 処理期間 | 8月中下旬より20~30日間 | 8月中下旬より14~22日間 (品種間差が大きい) |
| 昼間の環境 | 車高率50%程度の寒冷紗 (8時間/日) |
12℃前後の暗黒条件で管理 |
| 夜間の環境 | 光を完全に遮断した環境下で、 15~18℃で管理 (16時間/日) |
|
| 処理前の 窒素中断 |
必要だが、株冷処理ほど厳格な管理は不要 | 葉柄搾汁液の硝酸態窒素が50ppm以下にするなど厳格な管理が必要 |
| メリット | 株冷処理より株の消耗が少ない | 低コストで可能 |
| デメリット | 夜冷施設などのコストがかかる | 処理前の育苗が難しい (窒素中断、処理による株の消耗) |
昼間(8時~16時)を露地の環境条件に近い条件で育苗し、夜間(16時~翌8時)をヒートポンプなどで15~18℃に維持し、その時間帯は光が入らないように育苗することで、花芽分化に適した「15~25℃の短日条件」を人為的に作り出す方法です。
毎日光が当たっているため、処理中の株の消耗が少ないメリットがあります。一方で、夜間に温度を下げるための冷却設備(ヒートポンプなど)と、遮光するためのカーテンなどを組み合わせた専用設備が必要です。
体内の窒素分が非常に少ない苗を、12℃前後の暗黒条件下に一日中置くことで、花芽分化に適した「5~15℃の短日条件」を人為的に作り出す方法です。(実際には株の消耗を抑えるため、7日ごとに屋外に移して光を当てる「陽光処理」を行う例が一般的です)
予冷庫など既存の設備を利用できるのでコストがかからないメリットがあります。
ただし、処理中の株の消耗が夜冷処理より大きいのに加え、育苗期後半に肥料を与えることができないなど、育苗が難しいのが短所です。
なお、「夜冷処理」、「株冷処理」とも、無処理より頂花房と第一次腋花房の花房間葉数が多くなりやすい(=収穫の中休み時期が生じる)という欠点もあるので注意が必要です。
ここまで紹介した花芽分化促進処理は一般的な技術で、すべて育苗期後半に行うものです。
育苗期に夜冷処理を行う場合は、育苗床とは別に専用の夜冷設備が必要であり、処理中の株の消耗が多少あるなどの課題もありました。
そこで、6月下旬に花芽分化していない苗を本圃(高設栽培ハウス)に定植し、6月末から9月中旬までいちごの株元をスポットクーラーの風で冷やしながら畝ごとに遮光することで確実に花芽を形成する「短日・スポット夜冷処理」技術が、2007年に愛知県で開発されました。
この技術により、「とちおとめ」や「章姫」では収穫開始を1か月早めることができ、収量が15%増加する効果がありました。そして、近年開発された本圃での夜冷処理技術の多くが、「短日・スポット夜冷処理」技術の改良型であると言えます。
最後に、現場での活用事例を紹介します。

▲イメージ
この技術は、7月中旬に「きらぴ香」を定植し、暖房用にも活用しているヒートポンプで9月1日~10月上旬まで夜間18℃を目標に夜冷処理を行うものです。また、夜冷処理中は遮光カーテンと保温カーテンを利用してハウス全体を遮光するとともに、8月下旬~9月下旬に窒素中断(=一時的に肥料を止めること)も同時に行います。
この結果、9月1日~10月上旬まで夜冷処理を行うと、花芽分化が慣行より8~10日程度促進され、収穫時期が15~17日程度早くなり11月下旬から収穫できるようになりました。また、8馬力のヒートポンプ3台の電気代は約15万円である一方、11月の10a当たり収量が約130kg増加するので、電気代は十分にまかなえるとされています。
さらに収穫期を早めたい場合は、苗への夜冷処理を経て8月中旬に定植し、以降10月上旬までクラウン部に冷却チューブを接触させて16℃程度の水を終日循環させる方法を用いれば、10月下旬から収穫が可能です。

▲イメージ
この技術は、「とちおとめ」において、7月上旬から約1か月間苗の夜冷処理を行った後に8月上旬に本圃に定植し、活着後に暖房にも活用しているウォーターカーテンを利用して8時間日長の夜冷処理を9月中旬まで行うものです。なお、苗への夜冷処理は頂花房、本圃での夜冷処理は第一次腋花房の花芽分化促進をそれぞれ目的としています。
本圃でウォーターカーテン(17℃の井戸水)による夜冷を実施した結果、約1時間でハウス内の気温は20℃前後まで急激に低下し、朝まで18℃程度を持続できました。
また、育苗期の夜冷のみでは11月上旬から収穫開始であったのに対し、本圃ウォーターカーテン夜冷を組み合わせると、10月上旬から収穫でき、第一次腋花房の分化遅れも見られませんでした。
ただし、保温前にビニルに張り替える必要があるほか、用水が十分に確保できる単棟ハウスでしか利用できないなど、適用条件が限られる点は注意が必要です。

▲イメージ
夜冷処理を行うことで、頂花房の収穫終了後~第一次腋花房の収穫開始まで日数が開きやすくなります。これを解消するためには、炭酸ガスの施用や施肥の適正化により生育を維持し続けることが重要です。
この結果、「いばらキッス」において、定植前の8月1日~9月3日まで夜冷処理をした場合、無処理より年内収量が3倍程度増加しました。また、夜冷処理をした株に、肥効調節肥料の全量元肥+12~3月に炭酸ガス局所施用すると、総収量が45%増加しました。
一方、10a当たり経費は、夜冷処理+炭酸ガス局所施用+肥効調節肥料の全量元肥により117万円増大しましたが、増収分が159万円/10aあるので採算性があると言えます。
経費増加分の80%以上は液化炭酸ガスの料金が占めるので、炭酸ガスの供給源を燃焼式にすることでさらなるコスト節減が期待できます。さらに、夜冷処理自体にかかる経費は約5万円/10aなので、低コストと言えます。
以上、本記事では、いちごの花芽分化の仕組みやそれを応用した育苗期や本圃での「花成分化促進処理」、夜冷処理の成功事例を方式別に紹介しました。
地球温暖化による夏の暑さは今後も続くと思われるので、まずは保有している施設をうまく利用しながら花芽分化を促進させることが、今後のいちご栽培では必須の暑さ対策と言えます。
また、夜冷処理を行って花芽が早く形成された株は、適切な栽培管理で収量が上がりやすいので、本圃での環境制御技術をセットで検討してみるとよいでしょう。
▼参考文献
〇山崎 篤「一季成り性イチゴの短日条件下に おける花芽分化可能な温度」, 東北農業研究センターたより27,2009
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/tohoku_news27p3.pdf
〇西貞夫 監修「新編・野菜園芸ハンドブック」,p61,2001
〇静岡県経済産業部「農畜産業における 暑さ対策事例集」,2025
https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/056/749/atsusataisaku4.pdf
〇家中達広・稲葉幸雄「ウォーターカーテンを利用した本圃短日夜冷処理によるイチゴの新作型開発」,2006
https://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/nousi/kenpou/kp_058/kp_058_04.pdf
〇茨城県農業総合センター園芸研究所「「いばらキッス」は早期夜冷育苗・炭酸ガス局所施用・肥効調節で収益が増加する」,2018
〇静岡農林技研・野菜生産技術科「イチゴ‘きらぴ香’の年内収量を増加する超促成作型の開発」,2023
https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/072/081/chousokusei.pdf
▼参考サイト
〇矢崎化工株式会社「アイポットを使った夜冷育苗」,2019
https://www.agricone.com/strawberry_diary/sw20191011/
〇JAふくおか八女「イチゴ株冷作業進む」,2024
https://www.jafyame.or.jp/news/detail?id=2601
〇愛知県「10月から出荷できるイチゴの新栽培法「短日・スポット夜冷処理システム」を開発しました」,2007
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/nogyo-keiei/0000006529.html
〇日本農業新聞「ヒートポンプによるイチゴ夜冷処理」,2026
https://pr.agrinews.co.jp/ad/archives/16783
〇農研機構「イチゴの花芽発達に悪影響を及ぼす高温遭遇の程度」,2007
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/warc/2007/wenarc07-20.html
〇株式会社阪中緑化資材「クラウン冷暖チューブ」
https://www.sakanaka.co.jp/products/products-1862/