コラム
公開日:2019.12.19
シクラメンは鉢植えされた花の中で最も出荷量が多い主要な花きです。クリスマスが近づくと園芸店などにはピンクや赤の鮮やかな花をつけたシクラメンが並ぶようになり、戸外の花の多くが枯れるなか耐寒性のあるガーデンシクラメンは冬季の庭の彩りとして重宝されます。
シクラメンを出荷用に栽培したいと思ったらどのような設備や管理が必要になるでしょう?
シクラメンは出荷まで約1年と長く、鉢にコンパクトに収まっている姿からは想像もつかない程様々な管理が必要になります。
そこでここからはシクラメンの栽培を始めたいと考えている人向けに、基本の栽培管理方法についてお伝えしていきます。ちなみにここでは原種シクラメン(品種名“コウム”など)は扱わず園芸種(“ビクトリア”、“フェアリーピコ”など)についてみていきます。
シクラメンは15~20℃程の涼しい環境を好むので、夏季に夜温が20℃程まで下がる地域が好ましいです。高温の所では夏越しが難しく病害虫の被害も出やすくなります。
栽培はガラス室やビニールハウスなど施設内で行い、冬季には暖房も必要なため加温設備を備えた施設が必須です。新規就農などでハウスの新設から始めるという場合はかなりの初期投資が必要となるため経営計画をしっかり練りましょう。
球根植物として知られるシクラメンですが種から育てます。冬に播種して途中2~3回の鉢上げを行い1年程育てた後に出荷となります。
今回は標準的な5号鉢での出荷を想定した育て方についてみていきます。
12月頃に播種しハウスを加温します。播種から1ヵ月程すると発芽します。春に本葉が3枚程度になったら3号鉢に鉢上げし基肥として固形肥料を一鉢ずつ与えます。
水やりは底面吸水方式が省力的かつ一般的です。肥料は給液に溶かし液肥として与えます。水やりと施肥は出荷まで続け、暖房は4月中旬頃に切ります。6月中旬に5号鉢に鉢上げします。
夏越しは栽培管理の中で最も難しい作業になります。シクラメンは夏に休眠する性質がありますが出荷用として秋冬に開花させる株を育てるには夏でも気温を低く保ち休眠させないようにしなくてはいけません。
鉢は棚の上など風通しが良く涼しい場所に間隔を広くとって並べ、9月頃までは晴れた日の日中に30~40%程の遮光をして気温の上昇を防ぎます。病害虫の発生も多くシクラメンにとっては苦しい時期となるので気温管理や病害虫の防除に細心の注意を払いましょう。
9月頃から葉組みという作業を行い株の姿を整え株中央に光を当て蕾の発育を促します。中心部の葉を外側に引き出し葉を外側に花を中心部に集めることで美しい花姿を作り出します。この作業を出荷までに2~3回行います。
10月頃からは暖房を入れ、出荷が終わるまで加温を続けます。最近では葉組器や葉組み用リングが市販されており、葉組み作業の短縮ができます。
店頭に並ぶ美しいシクラメンは、加温設備の整った施設の中で大事に大事に育てられたものです。施設の新設には多額の初期投資が必要となり、出荷までには温度管理、鉢上げ、かん水、施肥、夏越し、葉組みなど沢山の手間がかかることを念頭に入れておきましょう。
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。