コラム
公開日:2021.11.18
施設園芸に携わる人にとって、冬が近づくと気になるのが暖房コスト。ここ最近は重油価格の高騰で、暖房費はますます経営を圧迫するばかり。ビニールハウスの内側に保温用の内張りカーテンを張ったり、循環扇を利用して暖かい空気を行き渡らせたりと、暖房効率を少しでも高めるために、工夫を凝らしている人も多いかと思います。今回は、暖房のランニングコストを抑えるためにおすすめの「局所加温」についてご紹介します。
△画像提供:泉州電業株式会社「アビルヒーター線」
局所加温とは、温室全体の空気を暖める従来の暖房方法とは異なり、作物の特定の部分を集中的に加温する技術です。局所加温を取り入れることで温室全体の暖房が不要になったり、設定温度を低くしたりすることができるため、重油などの燃料消費量を削減することができます。局所加温にかかるエネルギーコストを含めて比較しても全体の暖房費を低く抑えることが可能です。
加温のターゲットとなる付近にダクトを通して直接温風を送る、チューブを這わせて温水を流す、テープ状の電気ヒーターを設置するなど、局所加温の方法はさまざま。コンテナやバッグを使った養液土耕栽培や養液栽培、育苗時の加温にも対応することができます。
局所加温は、作物の生育に良いと思われる部分を狙って暖めるため、収量のアップも期待できます。加温する部位は作物によって異なり、トマトやイチゴでは成長点付近、ナスやピーマンでは株元の土壌表層や地中の根に近い部分が有効とされています。暖房費を削減しながら生育アップも期待できるので、収益向上につながります。
温室全体を加温する場合と比較して、外気との温度差が小さくなるので、温室内に結露がたまって太陽光が遮断されたり、湿度が上がって病害が発生しやすくなったりするリスクも軽減されます。
最も一般的な局所加温は、畝に沿って配置したダクトと暖房機を接続し、ダクトにあけた穴から温風を流して作物を直接暖める方法です。既存の暖房設備にダクトや送風機を取り付けて、自分で施工することもできます。
このほか、最近はより手軽に局所加温にチャレンジできる資材も増えました。 泉州電業株式会社の「アビルヒーター線」は、畝に這わせたり埋設したりするだけで局所加温が出来るヒーターで、一般的なニクロム線より発熱効率が高く、広い範囲で安定した加温ができるのはもちろん、消費電力を大幅に抑えることができます。「試しに局所加温に挑戦してみたい」という方にもおすすめです。
農業用ヒーター線「アビルヒーター線」/泉州電業(株)
今回は、暖房効率を上げる技術として局所加温についてご紹介しました。暖房効率アップには、天窓・側窓や内張りカーテンの補修、暖房機の定期的な点検など、基本的なメンテナンスも重要です。さまざまな対策を組み合わせて、今年の冬も省エネを目指しましょう!
▼参考文献
○省エネ型の施設園芸を目指して,農林水産省生産局
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/pdf/manyuaru.pdf
○成長点局所加温とCO2施用を組み合わせたミニトマト栽培技術,農業・⾷品産業技術総合研究機構など
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/warc_man_Local_heating191202.pdf
○ピーマン類の株元加温の効果および簡易設置方法,鹿児島県園芸作物部
http://www.naro.affrc.go.jp/org/karc/qnoken/yoshi/no78/78-137.pdf
○局所加温の部位および時間帯がナスの形態および生理に及ぼす影響,園芸学研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/11/3/11_337/_pdf
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!