コラム

施肥の適量とは?【作物別】ムダのない施肥量とその計算方法

公開日:2018.09.13

肥料代は作物生産にかかる費用の多くを占めます。肥料を使わないと大した収量は見込めないので使用しないわけにはいきませんが、価格が高騰している昨今、できるだけムダな肥料の使用は省きたいところです。特に「窒素」、「リン酸」、「カリ」の主要3要素は使用量が多いのでムダを省くことができれば大幅なコスト削減が見込めます。

どのような肥料を使うかの選択は悩みどころであり栽培の醍醐味でもありますが、肥料の計算は難しそうだったり面倒だったりとこれまで避けていたという方もいるのではないでしょうか。しかし、肥料の計算自体は小学生程度の知識で十分なので、やってみると想像よりずっと簡単だと実感できると思います。

そこで今回は作物別に適した施肥量を求められるように、まずは窒素、リン酸、カリの主要3要素についての計算方法を紹介し、最後に肥料の無駄の省き方を見ていきます。

1.施肥設計は難しそう。基本的な考え方は?

日本では気候や土壌の違いから都道府県ごとに主要な作物についての適切な施肥量が調べられています。一般的に施肥基準と呼ばれるもので、10aあたりの窒素(N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)の基肥量と追肥量などが示されており、ネット上でも確認することができます。

同じ作物でも作型や土壌の種類によって施肥量は異なります。例えば東京都のトマトの施肥基準を見てみると、作型として「促成(長期どり)」、「半促成(加温)」、「半促成(無加温)」、「早熟(トンネル)」、「早熟(露地)」、「抑制」の6種類があり、さらに土壌の種類として「黒ボク土」と「褐色森林土または灰色低地土」の2種類があるため、計12種類に細かく分類されています。

実際に施肥する際には、さらに地力を加味して施肥量を増減します。そのために土壌分析の結果を土壌診断基準と照らし合わせます。土壌に肥料成分が過剰に蓄積している場合には減肥基準を参考に施肥量を減らします。

今回、土壌の状態は土壌基準診断の適正な範囲に収まっていると仮定し、施肥基準に従い施肥することを考えます。東京都の黒ボク土を例に具体的な計算方法をみていきます。計算方法を理解したらご自身の県や土壌タイプの施肥基準を使って同様に計算してくださいね。

2.適切な施肥量の計算方法<基本>

ステップ0. 表の見方

表1の右肩の単位に注目してください。これは10aあたり、何kgの肥料を施肥するかを示しています。
追肥が3回あるのはトマトの追肥のタイミングの第一、第二、第三果房肥大期にあたります。多段栽培する場合はさらに追肥を行います。




ステップ1. 使い慣れた面積単位へ変換する(”a”を使い慣れている方は不要)

1kg=1000g、10a=1000m2 なので表2のように一旦「kg」を「g」に、「a」を「m2」にしてから、施肥量と面積それぞれを1000で割り「g/m2」に変換します。結果として、表の数値はそのままに「kg/10a」と「g/m2」の読み替えが可能です。




ステップ2. 肥料の組み合わせを決める

実際の場面では肥効の遅速や肥料の使い易さ、価格などを考えて肥料を選択しますが、今回は最も簡単な窒素、リン酸、カリのうち1成分のみを含む単肥を使うこととします。
代表的な単肥には窒素肥料として硫安・尿素・石灰窒素など、リン酸肥料として過リン酸石灰・溶リンなど、カリ肥料として硫酸カリ・塩化カリなどがありますが、今回は窒素肥料に「硫安」、リン酸肥料に「過リン酸石灰」、カリ肥料に「硫酸カリ」を使用すると考えます。




ステップ3. 1m2あたりの肥料の必要量を計算する

窒素、リン酸、カリの施肥量の比は面積が増減しても変わらないので、1m2あたりの値を基準として考えていきます。肥料袋に記載されている成分表示から肥料の施肥量を計算しましょう。
今回は以下の値を使います。
【硫安】窒素21%  【過リン酸石灰】リン酸20%  【硫酸カリ】カリ50%



  • ●基肥窒素

硫安の窒素含有量は21%なので、硫安100gに窒素21gが含まれています。

①窒素1gを施肥するために必要な硫安の施肥量を求める
100g÷21g=4.8g(窒素1gを与えるために必要な硫安の施肥量)

②基肥(窒素10g)に必要な硫安の施肥量を求める
4.8g×10=48g

よって基肥(窒素10g)に必要な硫安は48gとなります。

他の肥料についても同様に計算していきます。


  • ●基肥リン酸

100÷20×25=125g

  • ●基肥カリ

100÷50×10=20g

  • ●追肥窒素

100÷20×4=20g

  • ●追肥カリ

100÷50×4=8g




ステップ4. 1m2から作付面積の施肥量に変換する

ここまでは1m2を基準に施肥量を考えてきたので作付面積の値に変換します。作付面積が10m2ならステップ3で求めたそれぞれの施肥量を10倍に、30m2なら30倍にします。

以上で必要な施肥量が求められます。順を追えばそんなに難しくないですよね?

3.適切な施肥量の計算方法<応用>

応用1. 二つ以上の要素が入った肥料を使う

例えば基肥にリン酸19%、カリ14%の含有される草木灰を使う場合に必要な施肥量は下記の計算で求められます。



  • ●基肥リン酸

100÷19×25=132g

  • ●基肥カリ

100÷14×10=66g

リン酸の場合は132g、カリの場合は66g必要です。リン酸に合わせるとカリが無駄になるので、カリに合わせて66gを施肥します
その場合、草木灰66gに含まれるリン酸は13gなので、リン酸の残り必要量は12gになります。この12gは他の単肥などで与えるようにします。




応用2. 追肥に8-8-8化成肥料を使う

単肥を使えば肥料の無駄は出ませんが、使う肥料の種類が多くなるので手間がかかるため、追肥に8-8-8化成肥料を使いたい場合もあると思います。そこで表3のように基肥と追肥の値を変えるのも1つの手です。ただこの方法で第6果房まで栽培する場合にはカリの基肥がゼロとなり、望ましくない状態になるので、現実的には基肥と追肥のバランスの試行錯誤やカリの無駄を許容する必要があるでしょう。

4.【作物別】肥料の効かせ方から施肥のムダを省く!

作物によって肥料が欲しい時期は異なります。果菜類では初めに窒素肥料を与えすぎると、つるぼけして実なりが悪くなるということは有名ですよね。

作物は大きく3タイプに分けられ、「最初に多くの肥料が欲しい作物(前半タイプ)」「栽培期間中に平均してずっと肥料が欲しい作物(一定タイプ)」「最後に多くの肥料が欲しい作物(後半タイプ)」になります。このことを加味して肥料の与え方を考えると更に施肥の無駄を省けます。

この3タイプを頭に入れて施肥基準の基肥と追肥の割合を見てみるのも面白いですよ。また施肥基準には施肥の基本的な知識から専門的に踏み込んだことまで多くの内容が記述されていますので、ぜひ一度目を通してみてくださいね。肥料の使いすぎはコストのムダだけでなく肥料成分の過剰障害による収量の減少や環境汚染にも繋がります。栽培前に綿密な施肥設計をして作物ごとに最適な施肥を行ってくださいね。



【参考文献】
農作物施肥基準 穀類・野菜・果樹・花き・茶、東京都産業労働局農林水産部
施肥の種類と効果的な効かせ方、山田式家庭菜園教室、監修 山田貴義、タキイ種苗株式会社

ライタープロフィール

【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。








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