コラム
公開日:2018.08.20
マルハナバチはトマトのように風で花粉が運ばれて受粉する風媒花の受粉を助けてくれる益虫です。特に風の吹かない施設栽培では労力の大きいホルモン処理による受粉に替わり、マルハナバチの活用が省力化に役立っています。マルハナバチは販売されているので導入は簡単ですが、環境が合わないとすぐに逃げ出したり死んだりしてしまいます。
特に従来使われてきた“セイヨウオオマルハナバチ”は2006年に特定外来生物に指定され、利用には環境大臣の許可を得るなど一定の条件を満たすことが必要になりました。そこで許可などの不要な在来種の“クロマルハナバチ”が利用されるようになってきたのですが、“思ったような働きをしてくれない“ということがよくあるようです。
しかし、“クロマルハナバチ”は働きやすい環境を正しく整えてあげれば、セイヨウオオマルハナバチと同等の働きをしてくれます。そこでここからはマルハナバチ、特に“クロマルハナバチ”について紹介しつつ、効果的に働いてもらうための3つのポイントをお伝えしたいと思います。
丸みのある体は黄色や黒色などの長い毛に覆われており、その姿からかわいいハチと評判です。ミツバチと同じように花の蜜を吸って花粉を集めます。羽音は大きいですが温厚な性格で刺すことはめったにありません。トマトやナスの受粉に使われるのはセイヨウオオマルハナバチとクロマルハナバチという種類です。花に潜り込んで蜜を集める際に体に花粉をくっつけるミツバチとは違い、花にぶら下がって体を揺することで落ちてきた花粉をお腹で受けとめるので、トマトのように蜜の無い風媒花の花粉も集めることができます。
活発に活動するのは17℃~27℃です。巣内の卵・幼虫・蛹は10℃以下では凍死し始め、30℃以上では蒸されて死に始め、35℃以上では深刻な被害が出ます。特に夏のハウスは気温が上がりやすいので巣箱は高さ60cm以上の台に設置し直射日光が当たらないように、すだれ等による日避け対策が必要です。あまりに暑さが厳しい時にはタオル等で包んだ保冷剤を巣の上部に置くことも効果的です。巣箱の温度を自動で調節してくれる「てきおん君®」という装置も販売されています。
マルハナバチは5mm程度の隙間があればハウス外へ逃げていきます。4mm×4mm以下の目あいで、網目が広がりにくいラッセル織りや熱融着されたネットを使い、出入口だけでなく天窓や側窓、換気扇にもしっかり張っていきます。端などネットだけでは難しい部分はスポンジやシリコンなども使って丁寧に隙間を埋めることが重要です。
マルハナバチは紫外線を捉えて巣の場所を視認しているので、トマトの裂果防止等のためにUVカットフィルムを使っている場合はマルハナバチが巣に戻れなくなることがあります。特にクロマルハナバチはセイヨウオオマルハナバチに比べUVカットフィルムの影響を受けやすいと考えられています。セイヨウからクロマルに切り替えて働きが悪くなった場合にはUV透過率の高いフィルムに替えると効果的です。全面張り替えが難しい場合は天窓から替えていきましょう。
※適切な管理をした場合、巣箱の平均寿命は約2ヵ月です。30日もしないうちにハチがいなくなってしまうような場合には管理に問題が無いか見直してみましょう。
今回ご紹介した3点に加え、農薬の影響や餌の補給状況なども確認してくださいね。マルハナバチが気持ちよく働ける環境を整え、受粉にかかる労力を効果的に減らしましょう。
■参考文献
・マルハナバチ取扱いマニュアル、ホクレン農業協同組合連合会 施設資材部 資材課、2007.
・知ってとくとくマルハナバチの利用法、愛知県農業総合試験場、2006.
・トマトの受粉に役立つマルハナバチ、小出哲哉、豊田市矢作川研究所月報、2007, No.104.
・日本在来のマルハナバチ ハニートーン、GREENJAPAN
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。