コラム
公開日:2021.05.07
神奈川県川崎市から静岡県伊豆の国市へ移住し、システムエンジニアから農家へ転身した高橋さん。独立し、家族で出来る仕事を探していたときに「農家になる道」を見つけた。就農10年経った現在は、果菜委員会の役員として56人の個性豊かな仲間達と共に産地の活性化に力を入れている。また、新規就農者の独立をサポートする研修受入農家として、受け入れた研修生を一人前の農家にするべく日々奮闘している。農業・経営の知識や経験がなかった高橋さんが農家として成功できたのは「伊豆の国市の就農サポートが整っていたから」だという。
今回は就農の経緯やトマト土耕栽培の魅力、農家として成功できたその秘訣について取材しました。
農家になる前、私は企業のシステムエンジニア、妻は親の会社を手伝っていました。サラリーマン生活を8年間楽しんだので、そろそろ独立しようかなと思ったとき、システムエンジニアとして独立するのは難しい。ゼロからスタートできるもの、家族で出来るものを探した結果、農家になる道を見つけました。
サラリーマンをやめてから1年間、長野県でキャベツ、山形県でさくらんぼなど日本各地を回って夫婦でできる農業を探しました。長野県でのキャベツ栽培に魅力を感じたものの、あまりにも規模が大きくて、夫婦では出来ないと思いやめました。そして、「施設園芸なら夫婦でできるし儲かるのではないか」と思い、施設園芸の中で反収が一番いい野菜を調べたところ、ミニトマトかイチゴという選択肢が出てきました。
「じゃあ次はどこでやろう?」そう思ったとき、当時(約10年前)ネット検索に引っかかったのが静岡県主催の「がんばる新農業人支援事業」でした。
各地を回っていたとき、茨城県にある農業実践学園で2週間の農業体験ができるコースに参加したのですが、そこで「静岡で農業を失敗するやつは他のところでも失敗すると言われるくらい、農業をやるのに向いているよ!」と聞いたことを思い出しました。地元川崎にも近く、温暖な気候で新規就農者を募集している。まさに希望の条件がそろっていたのが、ここ伊豆の国市でした。
見学会に参加し、ミニトマトとイチゴ、どちらの話も聞いたうえで、自分のスタイルに合うと思ったのがミニトマトでした。本当はミニトマトが大嫌いで食べられないのですが、ここは収益性で選びました。
静岡県は縁もゆかりもなく来たこともなかったのですが、伊豆の国市は独立後の農地を用意してくれ、農協に全量出荷できる販路もありました。経営において考えておかないといけないことが、最初から全て整っていたのです。これなら農業ド素人でもなんとかなるんじゃないか!?と思いました。
経営が上手くいくか心配でしたね。サラリーマンには考えられないような借金を背負うため、それを返せるのかという不安が大きかったです。一反のハウスを建てるのに一千万円。二反なら二千万円、さらに暖房機などの設備を買うには大金が必要です。就農前にお金を貯めておいた方がいいと言われていたので、私たちは頑張って一千万円を貯めました。これはいわゆる設備投資なのですが、ハウスを一棟建てたらあっという間になくなってしまいました。
(奥様)最初は心配も不安もあったけど、見学会に行って全国各地から新規就農した人が沢山いるということを知りました。また実際に農家さんの話を聞いていくうちに、自分自身も「農業やってみたいな!」って思うようになりました。最初は早く借金を返さないと!と思ってすごくがんばりました。いまは農業が楽しくて、移住就農してよかったと思っています!
▲農作業中の奥様
よく「田舎は近所付き合いが大変だから、苦手な人はやめたほうがいいよ」なんて話もあるけど、全くそんなことはなくて、住めば都です。地域のコミュニティに入ると、様々な活動を通して地域の人たちと仲良くなってゆき、野菜をもらったりあげたり、「こうゆうのも悪くないな」って思いました。地域の人々も私たちに興味津々。もともと新規就農者が多い地域だから、またトマトか!って(笑)みんな温かく受け入れてくれました。
就農5年目のとき、経営が安定していたのと、いい土地が見つかったタイミングで家を建てました。憧れのマイホームです。大きな家を建てる!という夢が叶いました。これも田舎に来たメリットだと思います。 山と海があって東京も近く、すごいいいところ!温泉もあるし、食べ物もおいしいし、全てが整っています。伊豆の国市に来てよかったなって思いました。
▲高橋さん(左)と奥様(右)
就農前に、一年間の研修があります。がんばる新農業人支援事業では、研修を受けた地で就農しなければならないというルールがあるため、伊豆の国市で研修を受けたら伊豆の国市での就農となります。研修中はわずかな補助金しか出ないので、生活費は貯めておいたほうがいいですね。
「農業は毎年一年生」って言うのは本当で、いくら環境制御をやっていても天候は毎年変わるし、条件が同じ年なんてありません。私たちは土耕栽培なので、土の状況が変わっていくことにも対応が必要です。
研修で身につくことはトマトの仕立て方。発生する病気や害虫も毎年違うため、研修中には出なかった病気が出ることも。就農して初めて知ることのほうが多かったです。
ハウスを建てる前、ここは田んぼでした。田んぼを施設化するのがここ韮山地域の特徴で、田んぼをやめたい人から土地を借ります。田んぼからの農地転換って難点もありますが、水を引き込めるため色々なことが出来ます。例えば、夏の土壌消毒のときは用水から水を引っ張って、一度田んぼ状態にすることで土壌をリセットできる。よく水田から栽培を始めると土壌改良が大変だって話があるけど、そんなことはなくて、むしろ最初の土はすごく元気でバランスがいい。
私は就農一年目の品評会で金賞を取り、一番いいときは反収18トン超えでした。(地域の平均反収13トン)だから最初は調子に乗って、「なんだ、トマト作るのって余裕じゃん!」って思っていました。それくらい栄養たっぷりのいい土だったのです。
しかし、四年目に入り失敗しました。年々土は変わっていくので、栽培が難しくなったのです。私は人に教わるのではなく「自分で考えて挑戦してみたい!」と思うタイプで、やめとけって言われたことでも「やってみないとわからない!」ってやって、失敗するんです(笑)まだ1人で作業をしていた頃、誘引が追い付かなくてハウスの外から見えるくらい伸びてしまい、みんなから「木だ!」って笑われました。最近は失敗が少なくなってきたので、「きれいだね」「面白くないね」って言われています(笑)
研修中に「自分のオリジナルだすやつは絶対失敗する、だからお前は失敗する」と先輩に言われました。でも私は「失敗して学ぶタイプだからいいんだ!」って笑い飛ばしました。農業は失敗から学んで経験を積み重ねていくほうがいいと思っています。生き物相手はマニュアル通りにいかない。でもそれが楽しいのです。
▲高橋さん
委員会(伊豆の国農業協同組合 果菜委員会)ではレギュラーパックと言われている伊豆ニューミニトマトを作っています。56人が同じ規格にして出荷しているため、収入を上げるためには量を採る必要があります。
▲伊豆ニューミニトマト
現在私のハウスの収量は3反5畝で、約60トン。反収16トンです。うちの産地では一反あたりの平均が13トン、養液栽培では20トン採っている人もいます。 しかし、去年の売上は4000万円弱で、56人の中でもトップクラスでした。うちでは単価がいいときに量を採るようにしています。これは毎年博打のようなものですが、売れる時期を考えて、このくらいの時期に実をたくさんつけて赤くしようとか、計算しながらやっています。だから反収は少なくても、売上は常にトップクラスです。現在は反収900~1000万円で安定しています。うちでは「反収入を増やしながらどう経費を削減し、自分の手取りを多くするか」を考えています。
▲研修生(左)と高橋さん(右)
今年、静岡県伊豆の国市の指導農家(受け入れ農家)に選ばれました。若い人たちを育てるという新しい目標ができたので、そこにも力を入れていきたいと思っています。
以前、個別で見学に来てくれた人がいました。農家仲間とみんなでお酒を飲ながら、農業の厳しさやお金に関する話など、農業について語り合いました。いいことばかり教えても良くないと思ったので、大変なことや苦労することも伝え、それでもやりたいなら来たらって言ったら、次の年に来てくれました。今は独立してがんばっています。
現在私のハウスには一人研修生がいます。先日面接に合格し、農家として認められたので、来年には独立する予定です。
◆研修生の声
農業に興味があり、以前は農協で働いていました。しかし、いざ自分がやるとなると自信が持てずにいました。30歳のときに行ったワーキングホリデーで農業体験をしたことで、より農業への興味が深まり「農業やりたい!」と強く思うようになりました。
いま研修を始めて3ヶ月ですが、とても楽しいです。農作業も楽しいのですが、何より高橋さんと一緒にいることが楽しいです。私は思っていることを人に伝えるのが苦手なのですが、高橋さんとは兄弟のように気軽に話せるし、親身になって聞いてくれる。集中して作業ができています。
独立したら家族みんなで農業をやる予定です。がんばります!
農家になって一番よかったことは、10年間経営を続けて来られたことです。まったく知らない農業という分野で成功できた。また、去年の大型台風でハウスの中もトマトもすべて浸水してしまったけど、乗り越えることができた。災害を含め様々な逆境を乗り越えてきたことが今大きな自信になっています。昔からの夢であった一軒家も建てられたし、地域の人たちとも仲良くなれた。伊豆の国市は第二の故郷です。
また、独立するときの夢だった家族で農業が出来ました。まだパートさんがいなかったとき、親が川崎から泊まり込みで来て、手伝ってくれました。妻の親も来てくれて、みんな楽しそうに農作業を手伝ってくれました。最近はコロナでなかなか来ることができませんが、来たくて仕方ないようです。もう70歳だけど、すごく元気です。農業には親や家族と一緒に出来る楽しさもあります。
伊豆の国市には初めて農家になる人のための、農地と受け入れ体制と販売体制が整っています。また、相談できる先輩たちがいます。金銭面も精神面も、サポート体制が整っているからこそ伊豆の国市では全員が独立に成功していると思います。今回自分の就農体験談を通して、伊豆の国市で農家になる楽しさを多くの人に知ってほしいです。
●募集期間:2021年4月12日(月)~6月25日(金)
「本気で独立就農したい方、ぜひ一度見に来てください。大歓迎です!生活に関すること、収入関することなど、なんでも相談も乗りますよ!農家は夢のある職業です!」【果菜委員会 委員長より】
●お申込み
JA伊豆の国 営農販売課 【電話】055-949-7111
お申込み ※お問い合わせ内容欄に「伊豆の国 新規就農者見学会希望」と記載ください。
●もっと詳しく知りたい方はこちら
今回取材させていただいたのは…
静岡県伊豆の国市 高橋さん
脱サラし、ゼロから始めた農業で努力を積み重ねてきた高橋さん。チャレンジ精神が強く、失敗も含めてミニトマト栽培のすべてを楽しんでいる。奥様とパートさんたちとの農作業は「笑いが絶えない!毎日が楽しくて仕方がない!」という。また、産地の活性化にも力を入れ、伊豆の国市をミニトマトで盛り上げていきたいと尽力中。研修生からも慕われる高橋さんの下なら、どんな困難にも立ち向かえる強さと、農業の楽しさを学べるに違いない。
●趣味:トマト栽培、アーチェリー、釣り
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪