コラム
公開日:2021.12.24
トマト栽培を営む(株)ジンボ・アグリアート・モダニズムの神保さんは、地元であった栃木県小山市で就農し18年。現在は28人の従業員と共に「とちとまと」と名付けた大玉トマトを販売している。栃木といえばイチゴが有名だが、実はトマト農家も多い。その秘密は、冬に快晴が多いこと。たくさんの日光を浴びた美味しい野菜が栽培できるのだ。
一年半前、独自のブランディングを進めるため社名を「(株)ジンボ・アグリアート・モダニズム」に一新。そしてこの秋には、新たに10連棟(35a)の軒高ハウスを新設。大玉トマトは80a、残りの15aでミニトマトも栽培している。また別のハウス(8a)ではイチゴも栽培。「うちでは収量を重視するのではなく、食味でお客さんに選ばれるトマト作りを目指しています」と笑顔で語る。
そんな神保さんの経営管理や販売先との交渉に欠かせないのが、生産性データを一元化する『AGRIOS(アグリオーエス)』による正確な数値だ。今回は“経営を数値化するメリット”や“現場での使い方”を神保さんと、アグリオーエスの開発者であり現役トマト農家でもある(株)井出トマト農園の井出さんのお2人に伺った。
(株)ジンボ・アグリアート・モダニズムの販売形態を教えてください。
神保さん:独自のルートで販売しています。以前は農協を通した共選でしたが、トマトの単価が下がってきたことを機に、「食味でお客さんに選ばれるトマト作りを目指そう」と独自ブランドでやっていくことを決めました。社名を「(株)ジンボ・アグリアート・モダニズム」に改め、あえて「どんな会社だろう?」と思ってもらえることを狙いました。その効果もあって、この一年でモダンなイメージの定着と、独自の販売ルートを構築できました。
経営管理に力を入れようと思ったのは何がきかっけですか?
神保さん:家族3人でのスタートからパートさんや社員を雇い、10人ほどの規模になったときに、自分1人では労務管理ができなくなりました。シフトを組んだり、誰がどこの作業に入っているのか紙ベースの管理では把握できず、大きな課題となっていました。そんな時、知人農家を通して知り合った井出さんに紹介してもらったのが『アグリオーエス』でした。
『アグリオーエス』とはどんなツールですか?
井出さん:経営を“見える化”し、農業の生産性を向上させる業務改善ツールです。 たとえば、日報や農薬の記録、出荷・選果結果の記録、作型の管理、作業進捗や工程の記録など、圃場、作物、品種、作業内容、農薬などの作業記録を入力し、データベースで管理することができます。また、情報はスマホやPCで共有することができます。
神保さん:井出さんはトマト農家のトップランナーで、栽培の苦労も経営の大変さもすべて知っています。そんな井出さんが自らの業務改善のために開発した『アグリオーエス』は、少し操作しただけで、現場目線で作られていることがよくわかりました。私も自然に取り組むことができました。
『アグリオーエス』は日々どのように使っていますか?
神保さん:日々の収穫量のチェックや作業の進捗、確認事項の共有です。病気の発見や栽培の記録をデータで残し、従業員みんなで共有しています。あとは従業員の生産性(成果)が記録できます。
井出さん:従業員の方が作業内容を入力すると、自分のやった仕事量が“農園の目標に対して何パーセントまで出来たのか”フィードバックされるのです。そうするとみんな100%を目指してくれるようになります。日々の作業量など、“作業者個人の感覚”になってしまうことを“数値化”することによって、従業員の方のモチベーションがアップし、自分の行動に責任をもってくれるようになります。
『アグリオーエス』を始めるとき、従業員の皆さんにはどのように伝えましたか?
神保さん:最初はみんなに「収穫量を測定したい」と伝えました。「みんなが入力してくれれば、日々ノートをめくらなくても収穫量が集計できて、農作業も何処にだれが入っているのか一目で把握できるから」と。おかげさまで今では全員が徹底できています。紙で管理していた頃は、作業場所の配置に抜けが出てしまい、その場所だけ一週間以上誰も手入れをしておらず、気づいたときにはジャングルになっていたことがありました。アグリオーエスを使ってシフトを組んだり段取りをするようになってからは、そういった抜けはありません。
井出さん:従業員の方が「この数値は何に使われるのだろう…」と不安になってしまうと導入が大変だ けど、神保君のところは上手くいったよね。
神保さん:そうですね。入力操作も簡単で、スマホを扱える人ならとくに問題なく使えています。スマホをもっていない年配の方には共通のタブレットを用意して、全員に入力してもらっています。
従業員のみなさんに何か変化はありましたか?
神保さん:作業記録を一覧で振り返ってみると、達成率が上がってきていて、みんなが目標を意識して取り組んでくれていることが分かります。
井出さん:記録するだけで自然に数値が上がってくるよね。一番時間がかかる「収穫作業や手入れ作業=人件費」につながるから、理想のペース(設定した数値)で進んでいるのか、数字で見ることが大事です。遅いペースで進めば人件費は上がり、早いペースで進めば人件費が下がります。従業員の方も自分自身の作業を数字で見ることができるから、「もっと良くしていこう」と努力してくれている。だから達成率が上がってくるんです。ひとつこれで基準が出来るから、「作業スピード」と「作業品質」で評価してあげることができる様になります。
神保さんにとって何か変化はありましたか?
神保さん:データが蓄積されているので、収量の傾向を掴むことができます。たとえば、今までは売り先(販売先)に対して「来週はちょっと少ないです」という、その「ちょっと」というのが明確ではありませんでしたが、今は数字で「**キロくらい」と言えるようになりました。信頼度も上がります。この業界は信用でつながっているため、こうして正しい数字で出せることは非常に助かっています。
井出さん:「農家は儲からない」って言うけど、儲けるのは簡単で、自分の“原価を知ればいい”のです。原価がわかれば「いくら以上で売らないといけない」とか、「いくら以下で作らないといけない」という目標が出てくる。あとは原価以下で売る取引を無くす努力や改善をしていくと、プラスのお取引が増えるから、結果的に年間の売上がプラスになります。
神保さん:決算書の正確な金額と、アグリオーエスの収穫量のデータを割り算する。これが一番正確ですね。
井出さん:神保君は仲卸に販売するようになったから、今まで農協が代行してくれていた販売管理を自分でやることになったので、それも一つのターニングポイントでしたね。
神保さん:うですね、今の課題は事務作業が追い付いていないところ。今後強化したいと思っています。
神保さんから見た井出さんはどんな人ですか?
神保さん:叩き上げの経営者です。僕は栽培が好きなので、どちらかというと栽培に重点をおいているのですが、経営者として見習うべきところがたくさんあります。井出さんは自分でマニュアル作ったり、『アグリオーエス』の数字をもとに現場で実践している。そんな人はなかなかいないですよ。井出さんは農家から始まり、オーナー社長として現場の苦労を知っているわけですよ。たくさん失敗もして。そこが共感します。
井出さん:今でも失敗はあるけどね(笑)僕としても『アグリオーエス』を作ることが経営課題の解決の一つだった。神奈川県の最低賃金が1,000円を超える中で、トマトの値段はどんどん安くなっていく。その中で「このギャップをどう埋めたらいいのか」「50人の従業員をどうやって束ねたらいいのか」とたくさん悩みました。希望をもって農家になったのに、規模を拡大したら急に苦しくなっちゃったんですよね。だから僕はそうゆう人たちの役に立てるんじゃないかなって思って、活動させてもらっています。「井出君と組んで、一緒に農業やっていてよかったな」って思ってくれる人を増やしたいなって思っています。
神保さん:『アグリオーエス』や経営についてわからないことがあれば、その都度井出さんに相談しています。井出さんも同じトマト農家だから、細かいところまで現場目線でアドバイスがもらえて助かっています。
※補足:『アグリオーエス』はきゅうりやイチゴ等どのような作物の栽培にも使用できます
『アグリオーエス』はどんな方に向いていますか?
神保さん:従業員が10名を超えてきた農家かな。あとは農協出荷ではない人ですね、農協出荷は事務作業も外注しているようなものですから。独自で販売していこうとしている人たちには力強いツールになるんじゃないかな。
井出さん:あとは人件費を抑えたい大規模農家にも向いています。『アグリオーエス』を導入しただけで、僕は1,700万円の経費を抑えることができました。
神保さん:…!!!
井出さん:利益が薄い状態で人件費が増えると経営的にも厳しくなります。とくに借金があるうちは支払いが多くて大変なので、人件費も適正化していく必要がある。僕はその削減できた人件費をみんなに還元したいと思って、年に5回ほど外部講師を呼び、コミュニケーション研修やリーダーシップ研修を行って、会社の底上げをしています。
今後の目標を教えてください
神保さん:将来的には売上10億円の企業にしたいですね!そのために今、チーム力をあげていくためにとても大切なステップになっていると思います。
井出さん:今まで僕が学んできた経営管理に関することをYouTubeチャンネルで公開していく予定です。経営管理に課題を感じている人や、経営を学びたいと思っている農家のみなさんに見ていただき、役に立ってほしいなと思っています!
●取材担当者より
「数字で管理」とお聞し固いイメージがありましたが、取材をして驚いたのは「きっちりやりすぎず、ゆる~くやったほうがいい」とのお話でした。「どこまで、どれくらい頑張ってほしいのか」を伝えることは“その人の感覚”となり難しいところですが、「**%まで頑張ってほしい」と数値で伝えることができれば、経営者である園主は指示も出しやすくなります。また、作業効率を数値化することが人件費の適正化につながる他、「正しい原価を割り出すために有効だ」とのお話はとても衝撃でした。丹精込めて作った作物を適正な価格で流通させてゆくためには必要な取り組みだと感じます。
井出さんは、自身のYouTubeチャンネルに経営を学べる動画の配信を予定されているため、興味のある方は気軽になってみてはと思います。自分の農園に必要な何かが見つかるかもしれません!
今回取材させていただいたのは…
栃木県小山市 神保さん
家業を継ぎトマト農家になった神保さん。実家のご両親はきゅうり農家だが、トマト農家の間では知らない人がいないという“栃木土耕トマトのトップランナー”である大山先生の元で修行。就農してより18年、こだわりをもってトマトの栽培を続けてきた。
社名を「(株)ジンボ・アグリアート・モダニズム」に一新してより1年半。大規模な新設ハウスも建ち、今後さらに独自ブランド化に力を入れていく。信念のあるとても前向きな農家だ。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪