コラム
公開日:2022.01.23
農業の一大産地である愛知県田原市に住む小久保さん(23歳)は、ミニトマト農家を営む親元に就農して1年3ヶ月。愛知県立農業大学校を卒業後、2018年8月に株式会社誠和が運営する『トマトパークアカデミー』の三期生として入校した。小久保さんは入校した理由を「農業大学校では学べなかった、新しくてまだ浸透していないやり方が面白そうだと思った」と語る。『トマトパークアカデミー』は最先端の施設と設備を使い、多彩なカリキュラムを通してトマト施設栽培のスペシャリストを育成。スピード感が求められる実習と、労務管理や農業経営を学び、就農後の即戦力を身につけることができる。
この記事では、『トマトパークアカデミー』で学んだ知識や技術が、卒業後どのように現場で活かされているのか、小久保さんにお話を伺った。
目次
△トマトパークアカデミー
トマトパークアカデミー入校のきっかけは何ですか?
実家がミニトマト農家だったので、小学校6年生頃から“将来は農家になる”という思いがありました。父親は「自分の好きなことをやればいい」と言ってくれていましたが、農業高校、農業大学校へと進学し、栽培の基礎知識を学びました。
農業大学校のカリキュラムに『派遣実習』というものがあり、地域の農家さんの下で実習をさせてもらいます。派遣実習中は学校へは行かず、農家さんのハウスと自宅の往復。遠方の場合は住み込みさせてもらう人もいます。実習を通し、「学校の授業と農家の仕事はレベルが違う」と感じました。僕が専攻した施設園芸は昔ながらの方法でトマトの栽培を学ぶため、“収量を求めてレベルの高い栽培をする”というものではありませんでした。僕の派遣実習先だった農家さんは、環境制御を取り入れて上手にトマトを作っている方だったので、「僕もこんな栽培がしたい!」と思いました。そこで農家さんに紹介してもらったのが『トマトパークアカデミー』です。両親もトマトパークアカデミーのことを知っており、「行ってきたら」と背中を押してくれました。
トマトパークアカデミーではどんなことを学びましたか?
トマトパークアカデミーには1年コースと2年コースがあり、僕は2年コースに通いました。
1年目は農業未経験の人にもわかりやすいように、植物を見ながら、「これが葉で、これが花で~」と基礎から教えてくれます。一番大変だったことは、実習の作業量が多かったことです。大量のトマトを収穫したり、四方に広がるトマトを誘引したり下葉をとったりするので、けっこう大変です。たとえば、朝30分みんなでトマトを見て回ってチェックし、午前中は収穫作業、午後の4時間はずっと1人で黙々と誘引をする日もありました。
また、「この部屋の実習を1週間1人でやりなさい」と課題が出たら、その部屋のトマトを誘引、芽かき、吊り下ろし、摘果…という一連の作業を1人で行います。時間が足りなくて間に合わないときは、みんなが手伝ってくれました。課題を通して作業スピードを身に着けることができました。
△研修スケジュール(掲載時)
管理作業を任されるのは2年生になってからですか?
1年生の頃から区画ごとに管理作業を任され、みんなでローテーションしていきます。また、1年生全員で一つの栽培室を管理することもあります。温度や潅水の量は、農場長も含めた“みんなとの話し合い”で決めるため、1年生でもしっかり自立できるような実践的な内容を学べます。
2年生になると、栽培管理の自由度が高くなります。環境の設定とか、おおまかな管理方針を自分の意思で決めることができるので、より実践に近い形です。もちろん自分で責任をもって行います。
△小久保さんが育てているミニトマト
どんな品種を栽培していましたか?
トマトの中でも大玉、中玉トマト、ミニトマトの栽培があり、さらに品種も選ぶことができます。3人の先輩たちは、ミニトマト『千果』、オランダ系の大玉トマト『カナバロ』、中玉の『フルティカ』を同じ部屋で栽培していました。僕は先輩がミニトマトを栽培しているのを見て「面白そうだな」と思い、ミニトマトを選びました。 これは栽培してみて感じたことなので、言葉にするのは難しいのですが、同じ年に育てていた大玉トマトは、収量を保つのが難しかったのですが、ミニトマトのほうがラフな栽培でも収量が採れるし、作業も簡単に感じました。
△在学当時の小久保さんとロードバイク
研修生の皆さんは仲良かったですか?
みんな仲良くて和気あいあいとしていました。コロナ禍になる前は飲み会もしていました。寮生活なので、毎日みんなで食事をしますし、そういった日常生活の中でもチームワークが育まれていったと思います。女性の研修生もいましたが、寮の棟やトマトパークの更衣室、トイレも男女別々なので女性の方でも学びやすい環境が整っていましたよ。
休み時間はどのように過ごしていましたか?
平日は17時に作業が終わり、18時の夕食が終わると自由時間でした。翌日も朝7時半から作業開始なので、夜更かしすることはなかったです。晴れた休日には必ず趣味のロードバイクに乗っていました。今まで一度も走ったことがなかった栃木県を走ることができて、とても楽しかったです。
△日光(中禅寺湖)
在学中思い出に残っていることは何ですか?
誠和が開催している社内イベントのボーリング大会やバレー大会、アカデミーのみんなで企画したBBQなどイベントが多くて楽しかったです。他にもみんなでお花見を企画して行ったり、収穫祭を開催し地域のみなさんを呼んで料理を振舞ったりしました。普段は実習に専念しているので、たまには息抜きも必要です。
△小久保さんのハウス
小久保さんが就農した実家のハウスについて教えてください。
ハウスは5棟あり、全部で5,000平米ほど。タイマーや手動制御で環境制御を行いながら、家族3人でミニトマトを栽培しています。品種はTY千果と、TY花鳥風月で、JAを通して出荷をしています。
アカデミーで学んだことは今どのように活かされていると思いますか?
どんな作業をやるのか、どうしたほうがいいのかなど父親と話せるので、就農してすぐに即戦力になれたと思います。管理方針は僕と父親の2人で決めています。潅水装置のセッティングやデータの管理は僕が担当しています。温度やCO₂の管理は父親の知識と経験、僕が学んできたことをすり合わせながら管理しています。
僕も父親も、栽培に関する知識をもっていますが、僕の方がよりアップデートされた情報をもっています。その情報を“うちの農業にどのように当てはめて行くか”のバランスを2人で調整しています。栽培方法が劇的に変わったわけではなく、少しずつ進化させているという感じです。
息子が最先端の知識を持って帰ってきてくれて、お父様も喜んでいましたか?
最先端の知識を得ると、それをひけらかしたくなるので(笑)コストとか考えずに「ああしたほうがいいよ、こうしたほうがいいよ」となりがちです。たとえば、いきなり統合環境制御装置を導入しよう!と言っても、地道にやってきた父親からしたら嫌ですよね。最初の頃はそんな言い合いもありましたが、気候も栃木と愛知では違いますし、父親の「こうしたほうがいいよ」という経験値を理解しながら、今2年目に入りました。うちは家族仲がとても良いので、お互いの意見や考えを尊重しつつ、上手にすり合わせができていると思います。
トマトパークアカデミーで学ぶメリットは何だと思いますか?
トマトパークアカデミーでは日本の最先端の考え方を学ぶことができ、栽培方法によって収量を増やせることを学べます。僕は今たくさんの収量を採っているわけではないですが、「もっと光があれば採れるんだろうな」「こうゆう管理をすればいい栽培ができるな」と分かるようになりました。なぜたくさんのトマトが採れるのか、その理由を理論的に学ぶことができます。
必ずしもトマトパークの真似をする必要はなくて、規模の小さい農家でも、古い設備でも、最先端を学ぶ意味はあると思います。うちでは10年前のハウスで統合的な制御もせずに栽培をしていますが、アカデミーで学んだ知識があるため、何か改善したいとか収量伸ばしたいなって思ったときに、どんな対策をすれば良いかわかります。今だと重油が高いからあまり暖房できない、じゃあ暖房を使わずに平均気温を上げるにはどうしたらいいかとか、CO₂を施用できないけど上手く栽培するためにはどうしたらいいかとか、自分の頭で考えられるようになります。
今後の目標や課題は?
新しい品種が続々出ているので、色々な品種のミニトマトを栽培してみたいです。トマトパークでもミニトマトを2品種栽培していましたが、特性に違いがある事もよくわかりました。生育調査をして分かったこともあったし、収穫時間の違いもありました。ミニトマトの収穫時間は長く、短縮できればメリットが大きいのでいろいろ試してみたいですね。また、田原市では空きハウスが出てきているので、新築はせずに規模を増やすこともできそうです。
●取材担当者より
最先端の設備をそろえなくても、トマトパークアカデミーで学んだ知識を活かすことができることを知り、イメージが変わりました。知識があるから選択肢が増え、予期せぬ事態にも自ら対策を考える力がつく、農家として対応力が高まる、新しい挑戦ができる。まさにトマトパークアカデミーは「トマト施設栽培のスペシャリストを育成する学校なのだ」と感じました。大変な実習を乗り越えた経験があるからこそ、就農してすぐにその力を発揮できるのだと思います。トマト農家を目指している方は、年齢に関係なく『トマトパークアカデミーで学ぶ道』を検討してみてはいかがでしょうか。
今回取材させていただいたのは…
愛知県田原市 小久保さん
三男の小久保さんは、就職して県外に移住した二人の兄の期待も背負い、家業を継いでミニトマト農家になった。
ときおり見せる愛嬌のある笑顔とやさしい雰囲気は家族仲の良さから来るものなのだろう。アカデミー時代にリーダーを任されいた小久保さんは、23歳とは思えないほど落ち着つきがあり、今後の構想もしっかりと持っている。
ハードな実習を乗り越え、最先端の施設・設備で学んだ知識と技術を、今後どのように進化させていくのか楽しみだ。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪