コラム

群馬県初の国産バナナ出荷開始!収穫期を迎えたほうおうファームを取材

公開日:2022.05.12

群馬県太田市は、ヤマトイモや小玉スイカ、マコモダケやモロヘイヤなど多くの特産品がありますが、今「新たな特産品になるのでは!」と注目されているのが、群馬県産『ほうおうバナナ』です。 前回施設園芸ドットコムでは“バナナ栽培オンラインツアー”を開催し、バナナの栽培方法(土壌管理や温度管理など)について特集しましたが、今回は収穫から熟成までの方法やコツをほうおうファームの園主:中神さんに取材しました。

1.120株の収穫期を迎えたほうおうファーム


ほうおうファームでは、ねっとりした食感が特徴の台湾系バナナ『グロスミッシェル』をメインに、15種類以上のバナナを栽培しています。背丈の小さなモンキーバナナ、茎も皮も赤いレッドバナナ、甘さ控えめな料理用バナナ、沖縄の島バナナ、背丈の高いアップルバナナ、タネがある原種のピンクバナナなど。園主の中神さんをはじめ、スタッフのみなさんが愛情込めて育てている『ほうおうバナナ』も、いよいよ収穫開始です。

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中神さんへのインタビュー


●園内の様子

園内には120株あり、昨年9月頃より開花が始まりました。バナナは葉の数が35~40枚になると開花する規則性があります。植え付け時期をずらすことによって開花時期を調整することができるのです。

こちらが開花第一号です。あと1週間ほどで収穫できます。

本来バナナの樹はもっと背丈が伸びますが、当園では低めに矮化(わいか)させています。通常、矮化をすると実も小さくなるところ、バナナの実は小さくなりませんでした。これなら軒の高いハウスがなくても、既設のハウスで栽培ができます。また、目の前の高さに実がなるため収穫もしやすいです。

矮化(わいか)

一般的な大きさよりも、人為的に小さく育てること。



●園内の様子

開花から約4ヶ月、冬だと5~6ヶ月で収穫できます。樹から切り落とし収穫するのですが、1房あたり20キロほどあるため、気を付けて収穫しないと落下する危険があります。収穫のタイミングはバナナの丸みや形で判断します。(房の)下のほうの小さな実までしっかり丸みがあれば収穫できます。

△中神さんと開花第一号のバナナ




当園では1本ずつパッケージして出荷します。市場の要望は食べきりサイズである「100~150gの小さな実」です。大きいほうがお客様にも喜ばれますし、価値が高いこともありますが、スーパーでは大きすぎると売れないそうです。



2.パパイヤがおとり!?新しく発見したハダニ対策で品質向上

△パパイヤの樹



●病害虫について

病気や虫がいないか一つ一つチェックして、品質を維持しています。バナナの病気は土壌病害であるパナマ病の一種類のみです。幸い日本にはいないので、病気の心配はありません。 害虫は、ダニ、アブラムシ、アザミウマ、コナジラミの4種類です。今の時期(春頃)はダニが発生しますが、同じ園内で栽培しているパパイヤのほうに発生しています。ダニはどうやらパパイヤのほうが好きらしく、バナナのほうには移って来ません。「ダニは絶対に出てくるから仕方ない」と構えていただけに、うれしい誤算と新たな発見になりました。
アブラムシが出すベタベタした残さにカビ菌が付くと、すす病を引き起こし、実が汚くなってしまいます。中でも一番厄介なのはアザミウマです。実の表面から汁を吸ってかさぶたを作ってしまうので商品価値がなくなります。幸い園内のバナナにはどの害虫も発生しておらず、健康的でよかったと思っています。

●ダニの防除対策について

葉の表面や裏側などに水をかけて洗い流すと、ダニが溺れ死にます。トマトやナスの場合は返って病気を誘発する恐れや、実割れの危険もあるため水をかけられませんが、バナナは問題ありません。当園では、ホースのシャワーモードを使って散水しています。ダニが発生したら毎日の作業になり大変なので、動噴を使うという手もあります。

3.タフなバナナ栽培はアイデア次第!熟成方法も十人十色

●収穫後のバナナの樹について

一度収穫したらその樹は切り倒します。するとまた横から新しい樹が出てきて花が咲きます。これを繰り返し、1株でおおよそ4~5回収穫することができます。収穫を重ねるごとに花が小さくなっていくため、小さくなったら株を更新します。

当園には双子の樹があります。1株から同時に2つの樹が出て、同時に実が成ります。「2つ同時に育てると実が小さくなる」という意見もありましたが、今回私がチャレンジしてみた結果、そのようなことはなく他のバナナと同等の大きさの実がなりました。収穫量も2倍になりますし、効率も良いです。 バナナ栽培を検討している方は、今まで聞いてきたセオリー通りにやるだけではなく、自分で色々開拓してみることをおすすめします。バナナの樹はタフなので、簡単には枯れたりしません。ご自身のアイデアや工夫の中で“自分のやり方”を見つけてみるのも楽しいですよ。

△双子のバナナの樹





●バナナの熟成について

上手に栽培ができたとしても、追熟で失敗することもあります。熟成の工程や管理方法は設備のグレードによっても大きく変わりますし、人それぞれのやり方があります。

△水耕栽培用コンテナを再利用した室




まず、収穫したバナナは房ごとにカットして、段ボールに収納します。その後、室(むろ)に運び24~48時間エチレンガスの中に入れます。バナナは自分でもエチレンガスを発生させるため、そのスイッチを入れてあげるのです。エチレンガスを入れてから数日で色づき、10日程でバナナ全体が黄色くなります。エチレンガスの発生器もありますが、当園では市販のボンベを使っています。室の広さによってはスプレー缶でも十分です。もちろんエチレンガスをかけずに自然追熟という方もいます。ただ2倍の時間(2週間以上)がかかります。あとは樹の上でそのまま熟成を待つという方法もありますが、色にムラが出てしまいます。それだと見た目も効率も悪いため、青いうちに収穫して室で熟成させたほうが一斉に黄色くすることができ、色付きも良いです。 食味は「樹の上で熟成したほうがおいしい」という意見もありますが、私は青いうちに収穫して室で追熟したほうが、味が安定すると思います。

△室内(エチレンガス不使用の自然追熟にも挑戦中)





●熟成時の温度管理

温度は21℃からスタートして、13.5℃まで徐々に下げていきます。温度が低いと熟成が遅くなるため、温度によって出荷時期を調整することができます。13.5℃まで下げることはできませんが、当園では家庭用エアコンを使って出来る範囲で出荷時期の調整をしています。この他、お米の保管庫や車載の冷蔵庫を使う方もいますし、室がある会社にお任せする方法もあります。

4.地産地消で地域活性化!食べる人に幸せを与える『ほうおうバナナ』

●バナナの販売先について

初出荷のバナナはスーパーに納入します。他にもJA、道の駅、当社ゴルフ場の売店、パン屋、ホテル、レストランなど地元での消費を考えています。最近では新聞やTVなどメディアを見て当園のことを知り「国産バナナにこだわってやりたい!」と地産地消に興味をもってくださるお店が増えています。将来的には、ネット販売なども活用して全国へ販売してゆきたいですが、まずは安定的に栽培して地元の方々にお届けしたいと思います。

●バナナ栽培のやりがい

大きな植物なのでやり応えがあります。手入れをした分、大きく、形よく生長してくれるため、手塩にかけたよろこびがあります。バナナは“栽培の醍醐味”を味わえますので、植物好きの方にとってはとても魅力的な作物だと思います。

●今後の目標

一作目から土づくりも栽培体系もよい形ができたので、あとはお客さんに安定供給をしてゆきたいと思います。国産バナナは高いというイメージがありますが、それぞれの利益の中で最低限の価格で販売していく。そして、海外のバナナと同等の扱い・シェアになるように、バナナを栽培する人がもっと増えてほしいです。私もそういう方々の後押しができたらと思っていますので、興味がある人はぜひ相談してください。

バナナは食べる人に幸せを与えてくれます。観光がてら寄っていただき、お土産に『ほうおうバナナ』をお選びいただけるとうれしいですね。

取材動画

▲画像をクリックすると動画が再生します。

記事内で紹介された施設

ほうおうファーム
(鳳凰ゴルフ倶楽部内)


詳しくはこちら チラシダウンロード

今回取材させていただいたのは…

ほうおうファーム 中神 洋二さん
千葉大学の園芸課出身。今日まで多くの栽培経験を積んできましたが、福島県の役場に勤めていたときに東日本大震災で被災。町の復興支援のためにバナナを栽培していたことから、バナナ栽培に関する知識やノウハウをたくさんもっていらっしゃいます。現在は群馬県太田市の鳳凰ゴルフ倶楽部を経営する太田資源開発(株)に勤務し、ゴルフ場内に開園したほうおうファーム(バナナ農園)の園主として栽培管理を担当。「ほうおうバナナ」の流通が楽しみです。

ライタープロフィール

【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪









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