コラム
公開日:2023.09.06
キッチンカーによる移動販売は、飲食店や食品の販売形態のひとつとして人気が高まっています。野菜や果物の生産者にとっても販売機会を増やす手段、あるいは、新たに開業する方法として期待の持てる業態と考えられるのではないでしょうか。多様化してきた農産品の販売ルートの一つとして、キッチンカーでの販売(移動販売)について解説します。
まず最初に、移動販売についての制度や規制について知っておきましょう。食品の製造・販売を行う場合、業種によって営業許可が必要なもの、届出が必要なもの、どちらも不要なものに分けられます。 自分で生産した農産品を未加工のまま販売することは「農業や水産業の採取業」という業種分類に該当し営業許可や届出は不要です。 農産品を加工したものの販売も行う場合には食品衛生責任者と営業許可、仕入れた農産品を販売する場合には野菜果物販売業の届出が必要になります。自分で作った野菜や果物をキッチンカーで販売する限りであれば許可も届出も不要です。
食品衛生責任者を置く必要がある食品等事業者は、主に調理加工を伴う食品を製造販売する事業者です。漬物・ジャムなどの加工品の販売も行う場合には、食品衛生責任者の資格が必要となりますが、資格取得は自治体が管轄する食品衛生協会の講習会を受講すれば1日で取得することができます。
いわゆるキッチンカー(自動車による移動販売)で営業する場合、自治体ごとの営業許可を受ける必要があります。しかし、対象となる業種は食品衛生責任者と同様に調理加工した食品である場合がほとんどです。
(調理営業)
飲食店営業(自動車)
喫茶店営業(自動車)
菓子製造業(自動車)
(販売業)
乳類販売業(自動車)
食肉販売業(自動車)
魚介類販売業(自動車)
食料品等販売業(自動車)
東京都の場合、上記の営業許可の範囲で野菜が該当する可能性があるのは食料品等販売業ですが、定められているのは衛生的な陳列ケースの設置、冷蔵が必要な食料品の場合の専用設備についてです。野菜の場合には当てはまらないので許可を受ける必要はありません。 実際には、食品の移動販売への対応は地域の保健所によって異なるケースも多く、加工していない野菜や果物の場合はほとんど問題ないと思われますが、営業地を管轄する保健所に確認してみたほうがよいでしょう。
自らが生産した野菜以外を仕入れて販売する場合に必要な届出です。また、届出を行うためには食品衛生責任者の資格要件を満たしている必要があります。届出は管轄の保健所で手続きを行います。
野菜果物販売業の届出を行わなければならないのは以下の項目です。
・届出者の指名
・施設の所在地
・営業の形態
・主として取り扱う食品等に関する情報
・食品衛生責任者の氏名
自家生産の農産品の移動販売には資格や許可の手続きが不要であることから、移動販売に使う車両さえ準備できれば、すぐに開業することができます。
移動販売に使う車両の種類は、販売する農産品の量、加工品を扱うかどうか、販売エリアの広さなど、想定する販売の形によっていくつかのパターンが考えられます。キッチンカーに使われる車両は、軽トラから普通車バン、1tトラックなどの種類があります。飲食品や加工品を販売する場合は、給水タンクや加熱・冷蔵設備など、車載用の設備を架装することが必須となります。
一方、自分で生産した野菜や果物をそのまま販売するのであれば、特別な車載設備は不要ですし、その日取れた野菜や果物を1日で売り切ってしまう規模の販売量であれば軽トラで十分でしょう。
移動販売専用の普通車バンや1tトラックが必要なほどの販売量を確保するためには、品揃えを充実させることや出店場所に恵まれることなど、野菜販売のキッチンカーとしてはハードルの高い条件をクリアする必要があります。
野菜や果物の加工品や他の生産者から仕入れた農産品で品揃えを拡充するなど、特徴を持った販売形態で開業するケースでは大きいサイズのキッチンカーの選択も考えられるでしょう。
・軽トラック 新車を購入する場合:150万円
・軽トラック 中古車を購入する場合:50~100万円前後
・1tトラックを購入する場合:150~200万円(車両価格)+250~450万円(内外装工事費)
・レンタルする場合:2~10万円/日
・長期レンタルする場合:30万円/月
※上記は参考価格です。
自家製の野菜や果物をそのまま販売するのであれば、特に行政に関わる手続きを行わなくても、移動販売車と出店場所を確保できれば、いつでも開業することができます。軽トラやバンは農家さんや青果店さんにとっては必需品であるため、新たに移動販売車専用の車両を購入しなければならないケースは少ないのではないでしょうか。新たに専用の移動販売車両を補助金・助成金を使って購入する場合は、それぞれの制度に対応した申請手続きをした上で審査が行われます。場合によっては開業後の実績提出が要件となっている補助金もあるため、制度の規定を守る必要があります。
自ら生産する農産品の移動販売は、車両へ初期投資さえ低く抑えれば、売上を増やすための最も手軽な方法と言えそうです。自治体ごとにキッチンカーの購入や架装に関わる資金を助成しているケースがありますので、開業を予定している自治体に相談してみましょう。
▼参考サイト
〇MY Kitchen Car
https://www.my-kitchencar.com/
〇キッチンカー相談の窓口
https://inshokugyou-life.com/
〇FUJI CARS JAPAN
https://kitchencar.fujicars.jp/
〇焼き芋機レンタル専門店,保健所の届け出について
https://www.ishiyakiimo.com/health.html
▼参考文献
〇東京都,自動車関係営業許可申請等の手引き
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kyoka/files/2019jidousya.pdf
ライタープロフィール
【矢射尽春】
宮城県の米どころに住んでいます。調査会社に所属し大手シンクタンクの地方振興プロジェクトに携わるなどの経験から、マーケティング視点の重要性を農業にも広めていきたいと考えています。農協に務めていたこともあるので、ハウス栽培に役立つ情報を広く発信していきます。