コラム
公開日:2025.02.04
埼玉県桶川市で「日本一おいしいトマトを作りたい!」と奮闘されている“孤高の脱サラ農業インフルエンサー”こと、手島農園の手島孝明さんを取材しました!
手島さんは2011年に脱サラし、トマト栽培を主とした農家に転身。前職:株式会社明治での営業、マーケティング、営業統括の経験を活かしたブランド戦略が功を奏し、テレビ番組やメディアへの出演多数。SNSでもファンが増え続けフォロワー総数はなんと11万人以上(※記事公開時)
2024年にはKADOKAWAからのオファーで本を出版しました。個人経営者に向けたブランド戦略が詰まった一冊です。
今回は大人気の『男気トマト』について、栽培方法と個人農家の武器となるブランド戦略について取材しました。
目次
ブランド名を考えていたときに頭に浮かんだのが、(前職の送別会で)餞別としてもらった農作業着の背中に刺繍されていた「男気やさい」でした。
仲間が贈ってくれた はなむけ の言葉「男気」と、これから一生を捧げる「トマト」を合わせて『男気トマト』と名付けました。
△提供:手島農園(直売所)
同じ品種でも栽培方法によって全く味が異なります。作り手次第で価値が作れるとことがトマトの魅力です。
トマトは人気野菜なので作り手が多い。桶川市の隣にはトマトの大産地がある。でも、だからと言って避けることは考えませんでした。競争相手が多い中、自分の武器を使って勝っていきたいと思いました。
一番のこだわりは、「無かん水栽培(独自技術)」です。植え付けたあとは一切水を与えずに収穫終わりを迎えます。
トマトが水を吸うのは根からだけではありません。樹に生えている産毛から空気中の水分を吸うことができるため生育できるのです。
△ハウス内(砂漠のような土の様子)
トマトの生まれ故郷は南アメリカのアンデス地方です。
アンデス地方の気候は乾燥地帯で降雨が少ない砂漠のような場所なのですが、元気にトマトが育ちます。その事を知ったとき「トマトって実はあまり水が要らないのでは?」と思いました。そこで、苗の段階から乾燥に強くなるように育てました。
実は、栽培1年目に大失敗をしました。
トマトを植える前に行ったビニールの張り替え作業時、大雨が降ったことで地面に多くの水分が残ってしまいました。樹が元気になりすぎてしまい、太陽の光が実に当たりにくくなり、実も付きにくくなります。そうして出来上がったトマトは水っぽい味になってしまう。実際にお客様からも「このトマトは水っぽいね」「大味だね」という評価でしたので、1年目は全く売れませんでした。
それがとても悔しくて、トマトの専門書を読み漁り、研究を重ねていった結果「水分量を減らすことで美味しいトマトが作れる」ということがわかりました。
そこで、翌2年目に一畝だけ「無かん水栽培」を実践してみた結果うまくいったので、それからはずっとこの「無かん水栽培」です。10月末に定植し、1月末~7月中旬頃まで収穫します。
△ハウス外観
トマトは葉っぱだけでなく実でも光合成をしています。
赤いトマトはスターマークが美味しさの証と言いますが、緑のトマトはグラデーションがきれいないベースグリーンが美味しさの証になります。水分が多いとこの緑は出てきません。今作も順調に美味しいトマトが育っています。
△提供:手島農園(ベースグリーンのトマト)
肥料にもこだわっています。
基本的には元肥一本で、かつおエキスを主体とするオール有機の肥料やカニ殻、牡蠣殻、昆布などすべてミネラルが豊富な海由来の魚系肥料を使用しています。
一番の理由は「うま味が増す」ためです。
直売の生産者は、収量ではなく味で勝負をします。甘みも酸味もある「昔ながらのトマト」の味を目指して栽培した男気トマトは、無かん水栽培によって味が濃縮され、さらにこだわりの肥料でうま味が増した濃厚な味がするトマトです。
△提供:手島農園
あるとき、直売の最終日に常連のお客様から「今日で男気トマト終わりなんだね、シーズン以外でも食べたいな」との声をいただきました。その声に応えるため、トマトの味が再現しやすい加工品を作ってシーズン以外でも男気トマトの味を届けようと考えました。そこで誕生したのが『男気トマトジュース』です。
男気トマト本来の味を届けるために、男気トマトを100%使用した無塩・無添加のトマトジュースを作りました。現在はトマトジュースの他に、万能トマトソース、トマトケチャップを作っています。
△左からトマトジュース,トマトソース,トマトケチャップ
お客様の声が加工品を作るきかっけとなり、六次産業化を進める力になりました。
そして有難いことに、『男気トマトジュース』が埼玉県主催の「Made in SAITAMA優良加工品大賞2025」でグランプリを受賞しました。
△提供:手島農園(Made in SAITAMA優良加工品大賞2025受賞式)
△提供:手島農園
数あるトマトの中の一つではなく、オンリーワンのトマトにならなければいけない。その差別化に必要なのが自分のブランドを作ることです。ブランド名やロゴマークをもつことが個人農家には必要だと思います。
強力なブランドをもっていれば個人農家でも大きな産地と勝負することができるのです。
就農する前は株式会社明治に在籍し、名古屋で10年間営業を経験した後、東京の本社でマーケティングや営業員への指導を担当していました。その経験から、ブランド化にはプロモーションミックスが重要だと考えます。プロモーションミックスとは、メディアとSNSを掛け合わせてプロモーションを行うことです。
私がSNSを始めたのは2019年の3月。農業の魅力や男気トマトの魅力を伝えるために始めました。
どんなに価値があるものを作っても、その価値が伝わらなければ真の価値にはなりません。“伝える”ためにSNSを活用して自分の言葉で語ろうと思いました。実際にSNSを使ったことでファンの方が着実に増えました。
△手島農園Xより(https://x.com/teshimanouen)
また、テレビ番組などメディアに出ることで不特定多数の人に男気トマトのことを知ってもらうことができます。
今の時代、テレビ番組を見ていて気になるものがあれば、すぐに検索をしますよね。手島農園のSNS各種アカウント(X,インスタグラム、Facebook)は、プロフィールの写真や名前をすべて統一させているので、ネットで「男気トマト」と検索するとすべてヒットするようになっています。
こうしたメディアとSNSを掛け合わせたプロモーションが戦略こそが、今の男気トマトの知名度につながったのだと思います。これはサラリーマン時代の経験がなければできなかった戦略です。
こだわりのトマトなので一般的なトマトに比べると単価が高いのですが、その価値が伝われば選んでいただけます。
ブランド化を始めたばかりの頃は自ら市内のスーパーへ売り込みに行っていましたが、今ではスーパーのほうから「うちでも販売してほしい!」とお声がけいただけるようになりました。
2025年3月開業予定の道の駅(桶川市)でも販売予定です。
私の実家は江戸時代から代々続く農家だったので、市場出荷は供給量によって値段が乱高下することを知っていました。だからこそ就農したときから「自分が作ったものの値段は自分でつけて、きちんと売り抜きたい」という強い思いがあり、個人経営という道を選びました。
2024年7月にKADOKAWAからのオファーで本を出版しました。テーマは「人に届くオンリーワンブランド」です。
農業経営に関することはもちろんのこと、個人経営だからこそできる経営やブランド戦略(ブランド化やマーケティングのノウハウ)の仕組みを、『男気トマト』のブランド化を通して実現した事例をもとに紹介しています。
個人経営に必要なことは「自分で作ったものを自分で売る力=ブランド力」です。
男気トマトと名乗る前、全くトマトが売れなくて困っている時期がありました。個人経営者が自分の力で売っていくためには武器が必要だと思い、たどり着いたのがブランド戦略です。自分が苦しんできた分、同じように困っている個人事業主の方々の助けになればと考え、出版しました。
また、自分で作ったものを自分で売るためにどうしたらいいのか、やり方がわからないと悩んでいる個人農家の方々にも、私の経験が何かのヒントになればと思います。
目指していることが二つあります。
一つは、自分にしかできないビジネスモデルを作って全国に発信し、日本の農業を元気にすることです。その目標の一つとして今回本の出版が実現できました。他にもセミナーの講演や視察の受け入れなどを通して、一人でも多くの方に私がやってきたビジネスモデルを伝えていきたいです。
もう一つは海外への進出です。
生のトマトは難しいと思うので、まずはトマトジュースの販売をアジア圏からスタートして、最終的には世界へ販売をしていきたい。個人農家でも世界に対してアプローチができるんだ!という姿を見せることで、農業に憧れる若者も増えてくるのではないかと思います。世界を目指していきたいですね。
取材動画
今回取材させていただいたのは…
手島農園 手島孝明さん
2011年に脱ラサ就農し、独自技術の無かん水栽培とこだわりの肥料でうま味を凝縮したこだわりのトマトを栽培。
前職(株式会社明治)での営業、マーケティング、営業統括の経験を活かしたブランド戦略で『男気トマト』のブランド化に成功。テレビ番組やメディアへの出演多数。SNSでもファンが増え続けフォロワー総数は11万人以上(※記事公開時)
男気トマトの味をシーズン以外でも味わってもらいたいと六次化に取り組み開発した『男気トマトジュース』は埼玉県主催の「Made in SAITAMA優良加工品大賞2025」でグランプリを受賞。
2024年7月に「人に届くオンリーワンブランド」を出版。個人農家だからこそできるビジネスモデルを作って日本の農業を元気にしたい!と奮闘している。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪