コラム
公開日:2018.03.07
夏の蒸し暑い日と、空っ風が吹く冬の寒い日、どちらが洗濯物は乾きやすいと思いますか?これはひっかけ問題だな。空っ風は乾燥しているし蒸し暑い日は湿度が高い。乾きやすいのは冬の方だろ。
いいえ。答えは、こんなわかりにくい表現だけでどちらが乾きやすいかなんてわかりません。となります。
じゃあ湿度計で測ってみたら? 確かに「湿度」の高低も目安にはなりますが、実際はその時の「温度」も併せて考えることで大きな意味を持つ指標が「飽差」となります。
その「飽差」は1立米の空気の中に、あと何グラムの水蒸気を含むことができるかを示す数値です。
例えば、湿度70%の空気が二つある場合、一方は11℃の低温で水蒸気をあと3gしか含むことはできません(飽差3g/㎥)。同じ湿度70%でももう片方は30℃の高温、なんと約9gもの水蒸気を含むことができます(飽差9g/㎥)。たくさん水蒸気を含むことができる空気は「水蒸気を奪う力が強い空気、乾きやすい空気」と言い換えることができます。単に湿度だけではわからないということです。
植物は葉裏などに「気孔」という通気口を持っています。日中は気孔を開き外気により緩やかに水蒸気を奪われていきます(蒸散)。蒸散した分の水分を補うために根から吸水し同時に養分も吸収しています。適切な飽差レベルであればこの蒸散→吸水がストレスなく継続します。
ところが、強烈に水蒸気を奪うほどの外気に触れた場合、植物自身の水分を奪われすぎて根の吸水が追いつかない状態になります。このまま放っておくと植物自身が干上がってしまうため自己防衛のために気孔を閉じることになります。これは根が吸水をしなくなること、気孔から光合成の材料である炭酸ガスを取り込まなくなることを意味しています。
飽差値は作物の種類ごとに適正な値が異なりますが、一般的なトマトでは3~7g/㎥の範囲を目標に管理します。
ミストなど強制的に飽差を調節する事例も増えていますが「気孔を閉じさせない」基本的な管理ができていれば、蒸散水蒸気による加湿→気孔開維持→吸水・CO2利用→光合成の維持というように生育を好循環に乗せることが低コストに実現可能です。
気孔を閉じさせない管理の注意点は次のとおりです。
飽差は適正な範囲を超えてもそこに至る変化が緩やかであれば根も給水量を増やして蒸散増加に対応することが可能になります。
とにかくゆっくり穏やかな換気をおこない、徐々に湿度を抜いていくことで気孔を開き続け、根の吸水を継続させる。ハウスの自動換気でも「透かし換気」のような篤農家技術を導入することで気孔開を維持し蒸散を継続させることができます。
蒸散し、それを補うために根から吸水するのに必要量の土壌水分が不足すれば、いくら環境変化が緩やかでも気孔は閉じてしまいます。最近は日射量、空気中の飽差、CO₂使用量などを指標にこまめな潅水を行うことで気孔開状態の維持がうまくできるようになっています。
目には見えませんが、飽差管理、気孔開状態の維持が儲かる農業の大前提となります。環境を正確に測定し、前述のような管理を手動制御でも自動制御でも的確に実践することが目に見える効果を生みます。
※温度と相対湿度から計算することも可能ですが、わかりやすく表にまとめました。
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