コラム
公開日:2021.09.29
施設園芸.com編集部で「zoomを使った無料オンラインツアー」を開催いたしました。
今回は群馬県太田市の鳳凰ゴルフ倶楽部が運営するバナナ農園を見学!園主の中神さんに案内いただきながらハウス内を周り、バナナの種類や生育、設備について教えていただきました。初めて見るバナナ農園に、編集部も興味津々!参加者の方から事前にいただいていたご質問を基に、土づくりの方法や肥料、栽培の秘訣についてインタビューを行いました。
今回は施設園芸.com編集部がオンラインツアーで学んだことや、質疑応答の内容を(前編)と(後編)に分けてご紹介します!
Q.ハウスは特別仕様ですか?
ハウスの高さは6.5mです。バナナは4m以上の背丈になるため、普通のハウスより高さがあります。切妻が8m×8m×8m。長さ42mで1080平米、約1反の3連棟のハウスです。
Q.ハウスの資材について教えてください
バナナは他の作物よりも光の要求度が高く光合成が活発なため、必要な光は透過しながら、直射日光は避けてハウス内の温度を下げてくれるフィルムを使っています。カーテンは遮光と保温の二重シートです。
Q.バナナ栽培の適温を教えてください
熱帯作物は暑いのが好きだと思われるかもしれませんが、バナナは暑さが苦手で生育適温は20~30℃です。それを超えると夏バテしてしまうため、35℃を超えないように気を付けています。
Q.どのような暖房機を使っていますか?
現在は重油式暖房機(500坪用)を使用しています。親会社が森林関係の事業を行っているため、木質ペレット(ウッドチップ)が手に入るため、今年の秋以降はペレット式の暖房機を導入予定です。メイン暖房機をペレット式にすることで、CO₂の削減にもつながります。
Q.潅水はどのように管理されていますか?
近くにある池の水をポンプを使ってタンクまで汲み上げ、別のポンプで各ハウスに潅水しています。夏場は朝夕の1日2回で15,000ℓくらい使います。制御盤がありますが基本はタイミングをみて手動で潅水しています。
Q.ハウス内の栽培管理について教えてください
統合環境制御装置でハウス内を一括管理しています。天窓の開閉、遮光・保温カーテンは自動制御なので非常に助かっています。夏の高温時の天窓の開閉は非常に大切です。
夏場は風通しをよくするためにハウスを開けていますが、冬場は暖房をかけるため全部閉めます。一般のハウスと同じですね。
Q.スタッフの方は何名いらっしゃるのですか?
4人体制です。収穫時期にはもっと人手が必要ですが、栽培管理であれば3~4人で十分です。収穫時には他の(ゴルフ場の)従業員も手伝ってもらう予定です。
Q.栽培しているバナナの品種は何ですか?
今メインで栽培しているのはねっとりした食感が特徴の台湾系バナナ『グロスミッシェル』です。その他試験的に15種類ほど栽培しています。スーパーなどで売られている一般のバナナはキャベンディッシュという品種で、市場の95%はこの品種だと言われています。ここでも試験的に1株だけ栽培しています。
バナナには、ナムアバナナ、レッドバナナ、アップルバナナ、島バナナ(小笠原とか種子島とか石垣とか島によってバラエティが違ってくる)など400種類以上の品種があります。
バナナは一度に8房前後つき、1房に10~15本ほどの実がつくため、1株で120~150本収穫できます。収穫は1年に2回です。
バナナの先端には雄花があります。バナナは単為結果といって受粉せずに実がつくため、実がならないところはカットします。
Q.バナナの栽培をはじめたきっかけは何ですか?
(前職で)福島県内の役場に勤めていたときに東日本大震災で被災し、町の復興のためにバナナを栽培していました。現在の会社で「ウッドチップを使って何か栽培できないか?」という企画があったため、栽培経験があったバナナの栽培を始めることになりました。
Q.群馬県でバナナとは珍しいですね。全国どこでも栽培できますか?
バナナはタフな作物なので、冬の温度が維持できればどんな熱帯作物でも作れます。しかし冬の暖房を維持するにはコストがかかるため、みなさん挑戦しにくいのだと思います。冬の温度管理がしっかりできれば、春~秋は日本の気候に合った作物なのです。
Q.バナナの他に栽培している作物はありますか?
同じハウスの中でコーヒー豆も育てています。まだ二年目ですが実生から育てた苗で、来年は花を咲かせてくれるかなと思っています。これからが楽しみです。他にもマンゴー(宮崎でも作っているアップルマンゴー)、青マンゴー、パパイヤ、あとはパイナップルなどの熱帯作物を栽培しています。
ここからはオンラインツアーに参加いただいた方々からの質問をまとめました!
Q.どのようなルートで販売されていますか?
今年初めての収穫となりますが、群馬県初のバナナ園ということで農協さんが大変興味をもってくださっています。農協のルートを使う、道の駅、JA、ゴルフ場内のレストランなどがあり、将来的には加工品の販売や、ネットショップを開設することも考えています。
Q.どのような土づくりをされていますか?
持論ですが、バナナは土を選ばないと考えています。それより、水はけをよくすることが大事です。水はけさえ良ければどんな土でも大丈夫だと思います。ここではコストの高い資材を使うのではなく、バークや木質チップなど入れて水はけを良くしています。土壌診断の中でEC値をしっかり把握し、それに基づいた土づくりをすれば大丈夫です。
Q.どのような肥料を使っていますか?
ここでは有機肥料を使っています。液肥も固形もバナナに合っているものが多くあるため、有機肥料だけでも十分大きな実ができると思っています。
Q.有機肥料とは具体的には何を使っていますか?
植物残さ肥料のペレットタイプの有機肥料です。ゴルフ場のレストランなどから出る残さを、乳酸菌を使って強制的に発酵、乾燥させています。使い勝手が良く、ペレット型だから撒きやすいです。
Q.どれくらいの大きさになったとき、どのように株分けをしていきますか?
株丈が20cmほどになったら十分株分け可能だと思います。親株からの切り離しが上手くできれば、かなり小さな株でもできます。ただし、活着のときに残存している根の数が影響します。切り方が悪いと植え替えたときに腐ってしまうことがあるため注意が必要です。大きいほうが切りやすいし、活着率も良くなります。
Q.ハウスの導入コストを教えてください
ハウスにはパイプハウスとH鋼ハウスの2種類あると思いますが、ここではH鋼に近い角の鉄骨を使ったハウスを建てました。一般的に、ハウスの骨組みだけで平米あたり1万~1万5千円前後だと思います。1000平米だと1千万~2千万くらい。そこにどんな資材を使うかでまた値段が変わってきます。コストによっては、パイプハウスを選択しても良いと思います。実際にパイプハウスで栽培している方もいます。ただし、パイプハウスは強度が弱いため、台風対策は考えておく必要があります。
Q.ハウスの耐風速を教えてください
大手メーカーでも高さ3.5mのハウスで35m/s以下が推奨されています。このハウスは角の鉄鋼を埋め込み式にしたため、35m/s以上耐えられます。ビニールをすべて切ると40m/s以上耐えられるような形に作ってあります。早々にビニールを切っておくなど、事前にしっかり対策をしておけばパイプハウスでも十分台風に耐えられると思います。
Q.冬場の温度管理を教えてください
バナナは熱帯作物ですが、パパイヤなどとは違って一回くらい霜があたっても大丈夫です。地下に塊茎(かいけい)があるため、地上部は枯れますが、春先にはまた芽がでてきます。ただし、2回も3回も霜にあたると塊茎にダメージを受け、枯れてしまいます。耐寒性のバナナの品種を選ぶようにします。
Q.露地栽培もできますか?
沖縄のように霜が降りない地域であれば露地栽培も可能です。露地で栽培すると設備代も燃料費もかからないメリットがあります。
Q.土壌のpHとECを教えてください
pHは6前後です。バナナは普通の作物より酸性に近いほうがいいと思います。pH 7でも大丈夫ですが、pH 5~6くらいが良いです。
ECについては2。通常の作物と変わりません。バナナのように熱帯作物はだいたい窒素過多の傾向になっても大丈夫です。
Q.植え付け培土は何を使っていますか?
本来はバナナを植える苗の大きさにあわせて穴を掘り培土を入れると思いますが、とても手間なので、ハウスを作るときに重機を使って全面同じ土壌を作りました。
堆肥と木質チップとバークが半分。残り半分は砂です。水はけをよくするため黒ぼく土はあまり使わず、木質チップに砂を混ぜています。
Q.1日に2回の潅水とのことですが、少なめで2回ですか?
夏場の潅水は非常に大事ですが、バナナは塊茎をもっているため乾燥に強いのが特徴です。水の量によって生育を調整できるため、大きくなりすぎないように水を減らして株丈(苗丈)をコントロールしています。
Q.バナナ栽培を成功させるポイントや秘訣を教えてください
成功の秘訣は土づくりです。土づくりがすべての基本となるため、水はけをしっかり確保しましょう。あとは冬場の温度をしっかり保つことも重要です。自信をもって育てればバナナも応えてくれると思います。
編集部では、今後もみなさまにお喜びいただけるセミナーやイベントを企画して参りますので、ご意見・ご感想などございましたらお気軽にご連絡ください!
今回取材させていただいたのは…
ほうおうファーム
園主:中神 洋二さん
千葉大学の園芸課出身。今日まで多くの栽培経験を積んできましたが、福島県の役場に勤めていたときに東日本大震災で被災。町の復興支援のためにバナナを栽培していたことから、バナナ栽培に関する知識やノウハウをたくさんもっていらっしゃいます。
現在は群馬県太田市の鳳凰ゴルフ倶楽部を経営する太田資源開発に勤務し、ゴルフ場内に開園したほうおうファーム(バナナ農園)の園主として栽培管理を担当。これからブランド化される「ほうおうバナナ」が楽しみです。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪