コラム
公開日:2018.06.06
施設栽培で厄介な害虫の代表であるアザミウマ。体長は1~2mm程と小さく、繁殖力の強い吸汁害虫でウィルス病も媒介します。その上、被害痕は葉が縮れたり果実に傷がついたり奇形になったりと作物の品質低下をもたらす何とも嫌らしい害虫です。
アザミウマはそこらの雑草にもいる身近な存在なのですが、植物の隙間に潜んでいてパッと見ではわからないので、一般の人にはあまり知られていないようです。家庭菜園の本には名前すら載っていないこともあり、何の被害だろうと思っていたら実はアザミウマだったということはよくあります。しかし先に述べたように大量発生を許すとその被害は甚大です。
そこで、ここからはアザミウマについて馴染みが薄い方にも分かりやすく、その生態について説明していこうと思います。
アザミウマはアザミウマ目に属する昆虫の総称で別名をスリップス、まとめてアザミウマ類と呼ばれます。体長1~2mm程の微小害虫で、細長い胴体と頭部を持ち、頭部からは2本の触覚が伸びています。口の器官で植物に穴を空け、そこへ口針を刺し吸汁します。その際にウィルスを媒介することがあります。
吸汁による被害痕は作物によって異なりますが、葉では白斑や褐変、縮れや奇形、全体が銀白色に見えるシルバリングなど、果実では白~茶褐色の傷、奇形果、着色不良など、花では花弁の白斑や褐変など様々です。
4月~10月に多く発生し、卵が孵ると幼虫から蛹、成虫になります。吸汁するのは幼虫と成虫です。卵から成虫までは約20日と速く、年間5~12回も発生し、1匹の雌は一生に100個程の卵を産むので条件によっては爆発的に増えます。
防除の面では、卵は植物体内に産み付けられ、蛹は土の中にもぐるので農薬が効きづらいという特徴があります。また微小なため種がわかりにくく適した農薬の選択がしづらいこと、発育速度が速いので農薬に対する抵抗性発達の速度が早いという特徴もあります。
アザミウマは世界では約5000種が知られています。日本では4科410種以上が知られており、作物を加害するアザミウマとして3科44種が確認されています。その中でも特に作物への被害が著しい5種を以下に紹介します。
ナス、ピーマン、キュウリなどで被害が大きい。トマトは加害しない。成虫は黄色から淡黄色で、施設野菜では周年発生し、多くの農薬に対して抵抗性を持つ。
タマネギ、ネギ、アスパラなどで被害が大きい。成虫は夏期は淡黄色から黄褐色、冬期は褐色。耐暑性、耐寒性を持ち露地野菜でも周年発生する。
ナス、ピーマン、トマト、イチゴなどで被害が大きい。成虫は夏期は黄土色、冬期は茶褐色で、耐暑性、耐寒性を持ち露地野菜でも周年発生する。
ピーマン、トマト、イチゴなどで被害が大きい。成虫は褐色から黒褐色で、施設野菜では周年発生する。
チャ、ブドウ、カンキツなどで被害が大きい。近年ではイチゴやピーマンなどを加害する新しい系統が確認されている。成虫は黄色で翅をたたむと背中に黒い筋があるように見える。
代表的な天敵はカブリダニ類とヒメハナカメムシ類です。ヒメハナカメムシ類は近くにマリーゴールドを植えると定着率がアップします。
施設栽培の場合は市販の生物農薬も効果的です。代表的なものに天敵昆虫を利用したスワルスキー®カブリダニ剤とタイリク®ヒメハナカメムシ剤、天敵微生物を利用したボタニガードES®とパイレーツ粒剤®があります。どれもJAS法に適合しているので有機栽培農家さんでも安心して使えますよ。
敵を良く知ることが防除の第一歩です。
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。