コラム
公開日:2022.06.29
こんにちは︕施設園芸.com編集部です。今回は埼玉県羽生市の『げんき農場羽生』を取材しました。げんき農場は、農業総合メーカーの渡辺パイプ株式会社が直営する実践農場です。自社システムを使って栽培ノウハウについて学び、提案するということが出来るように建てられました。現在は千葉県八街市でトマト、埼玉県羽生市でイチゴを栽培しています。 農業総合メーカーとしてビニールハウスや栽培システム、マルチや肥料まで様々な商品やサービスを展開している渡辺パイプが、どのようなシステムを使って栽培を行っているのか、収穫したイチゴはどのように販売しているのか、『げんき農場羽生』の農場長:服巻さんに話を伺いました。
『げんき農場羽生』を開設したきっかけは何ですか?
渡辺パイプでは、採光性が高いビニールハウスや収量アップを実現する栽培システムなどを販売しているのですが、自分たちが実際に栽培を行っていないと“机上の空論”になってしまいます。そこで、「渡辺パイプのシステムを使うとこんなに収量が採れます!」ということを伝えるために、農家さんと同じように栽培を行いながら、ビニールハウスや栽培システムの実証を行っています。
最初に建てたのが、千葉県八街市の『げんき農場八街』です。八街では、トマトの栽培システム「ガイアトマトK」を使ってトマトを栽培しています。
そして次に建てたのが、ここ『げんき農場羽生』です。近年イチゴ栽培の人気が高まっていることもあり、イチゴの栽培システム「ガイアイチゴK」を使った実践農場も建てよう!と2020年の9月に開設しました。現在は2作目になります。
ハウスの広さや栽培しているイチゴの品種について教えてください。
現在ハウスは2棟(20a)あります。栽培品種は紅ほっぺ、かおり野、よつぼしを栽培しており、来作から埼玉県のオリジナル品種『あまりん』も栽培予定です。現在は私を含め4人のスタッフで栽培管理を行っています。
―なぜこれらの品種を選んだのですか?
紅ほっぺは栽培が一番オーソドックスで育てやすいからです。かおり野は早生品種なので他のイチゴよりも1ヶ月早く(11月下旬から)収穫することが出来るため選びました。よつぼしは観光農園で人気のある品種なので、再来年に予定している観光農園の開設を見据えて選定しました。
収量はどれくらいありますか?
1作目のときはハウスが1棟(10a)で3品種6400株を栽培して合計6トン収穫できました。初年度で反収1千万が実現できたことは大変うれしく思います。
『げんき農場羽生』で使用している機器や資材について教えてください。
げんき農場羽生では、光を多く取り込めるビニールハウス「八角クリアハウス」をはじめ、換気装置、ファン、潅水装置を制御する複合制御盤「ウルトラエース」、イチゴの栽培システムである「ガイアイチゴK」、イチゴ専用肥料「ガイアミックス」を使用してイチゴを栽培しています。他にも炭酸ガス発生装置や暖房機など渡辺パイプで販売している商品を使っています。
八角クリアハウスとはどのようなものですか?
従来のビニールハウスに比べて骨組みが少ないため、ハウスの中に影ができにくく多くの光を取り込むことが出来ます。作物に必要な光をたくさん取り込んで光合成を活性化させ、収量を最大化させようというコンセプトのハウスです。また、従来の丸パイプとは違い、八角形のパイプを使うことでパイプ同士の接地が面同士になり強度が高くなり、“災害にも強いハウス”で光を最大限取り入れることが出来るのです。日射量が少なく、雪も降る日本海側の方々にもおすすすめの商品です。
ウルトラエースについて教えてください。
ウルトラエースは換気装置や暖房機、ファン、潅水装置を複合的に制御する機器です。
灌水はタイマー制御と日射比例制御の併用です。げんき農場羽生ではタイマー制御で管理していたのですが、「日射比例の技術も確立しよう」と、今年から日射比例制御を行っています。日射比例制御は雨の日の無駄な灌水を省けるので、水の節約と肥料の節約が出来ます。最近は肥料代が高騰していることもあり、これから伸びてくる技術だと思います。
機器の中にSIMカードが入っているため、インターネットの開通工事が不要で離れていてもスマートフォンやタブレットですぐにハウスの状況をモニタリングすることが出来ます。モニタリングだけでなく数値に異常値があると警報メールが届くので、いざというときにも安心です。もっと収量を増やしたい方、年によって収量が上下して困っている方、後継者に栽培データを引き継いでいきたいという方、企業参入の方におすすめです。
栽培装置「ガイアイチゴK」について教えてください。
「ガイアイチゴK」は養液栽培システムです。上から吊り下げる「ハンキングタイプ」と、足で支える「高設ベンチタイプ」の2種類あります。ハンキングタイプは観光農園におすすめです。ハウスの上から吊り下げているためハウスが広く見え、見栄えも良くなります。また、掃除がしやすいため、清潔に保ちやすいのが特徴です。
栽培する中で大事なポイントはなんですか?
「いかに光合成をさせるか」ということです。植物は日の出から昼までの間にたくさん光合成するため、特に午前中はイチゴにとって最適な環境を整えます。そして、午後は光合成で作った養分を実や株に運びます。“メリハリをつけた管理”を行っています。
植物は生き物なので、その都度判断を迫られます。その判断を誤ると収量の低下にもつながってしまうため、判断に迷うこともあります。困ったときは、知り合いの農家さんや師匠に助言をいただいて、最善の選択を行います。
収穫したイチゴはどこで販売していますか?
販売先は羽生市内の直売所とスーパー(地元野菜コーナー)です。有難いことに羽生市の全面バックアップがあり、市の方に売り先を教えていただきました。あとは食べチョクやポケマルなどを使ったネット販売も行っています。昨年は、6割ほどがネットでの販売でした。
キッチンカーを始めたきっかけはなんですか?
イチゴはデリケートなので、傷がついたものや熟れすぎてしまったイチゴが一定量出てしまいます。そういったフードロスの観点に加え、収穫ができない育苗期(7~10月)の収入を確保するためにキッチンカーでの販売を始めました。メニューはげんき農場のスタッフや、渡辺パイプ本社の女性たちと共に開発しました。現在は凍らせたイチゴを削った「削りイチゴ」やイチゴのスムージーを販売しています。冷たくておいしいので、夏にぴったりです。今後、もっと6次化を進めていきたいと考えています。
今後の取り組みを教えてください。
来年~再来年にハウスを増設し、74a規模の農場になる予定です。観光農園も開設する予定で、ブランド作りや運営方法などを検討しています。
新規就農者の方へのアドバイスがあれば教えてください。
“投資をしすぎないこと”です。げんき農場羽生も、10aから始めて2年目に20aに増やし、来年以降さらに規模を拡大していきます。1年後、3年後、5年後、10年後を考えた事業計画を立てることが重要です。
げんき農場羽生が成功できた理由の一つは知り合いの農家さんや師匠といった頼れる存在がいること、羽生市と連携できたことです。栽培、経営などを相談する頼れる仲間を増やすことで、成功しやすくなります。
渡辺パイプではイチゴ農家になりたい方向けに「SEDIAトレーニングセンター」を開設しました。現在第一期生となる2022年度スクール生を募集しています。最先端のイチゴ農場である『げんき農場羽生』で、イチゴ農場の経営者になるために必要な技術や知識を学ぶことができます。もちろん卒業後の就農まで、私たちが徹底的にサポートします!農業に興味がある方は、ぜひお問い合わせください。
今回取材させていただいたのは…
げんき農場羽生 農場長 服巻さん
渡辺パイプでビニールハウスの営業をしていた服巻さんは、栽培のことを学び農家さんをサポートする「営農エンジニア職の第1期生」に選ばれ、その経験から、28歳という若さで『げんき農場羽生』の農場長に就任。初めて挑戦した本格的な農場経営で反収1千万を実現。日々イチゴの栽培に全力を注ぐ、やさしさに溢れた方でした。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪