コラム

よつぼしいちご~種子繁殖型品種の特徴と育て方を解説~

公開日:2023.03.27

いちごはフルーツのなかでも人気の高い作物です。商品作物としての収益性も高いことから、それぞれの生産地から個性のある新品種が次々と生み出され、ご当地ブランドとして知られる品種も数多く存在します。品種開発競争が盛んに行われているなかで、従来の栽培方法とは異なる種子繁殖型品種のよつぼしいちごが注目されています。
この記事ではよつぼしいちごと種子繁殖型品種がいちご生産にもたらすメリットについて解説します。

1.よつぼしいちごは国内初の種子繁殖型品種


いちごは、ランナーと呼ばれる地面に伸びたツルから子苗を増殖させる栄養繁殖(クローン増殖)という方法で生産されます。これに対し、よつぼしいちごは種子繁殖型品種と呼ばれる種(タネ)から栽培される品種です。
2004年にDNAによる品種識別が可能になったことなどを背景に、農水省の事業として三重県、香川県、千葉県、九州沖縄農業研究センターが種子繁殖型品種の共同開発に取り組み、2017年に品種登録されたのがよつぼしいちごです。従来の栄養繁殖型品種の種苗供給は、公的機関・都道府県の生産者団体・地域農協による増殖と生産者による自己増殖に限られており、都道府県単位の供給体制を取ることでブランドの権利が守られています。

一方、種子繁殖型品種の場合は、認められた種苗事業者が増殖した種苗を生産者が購入・栽培することで都道府県の枠を超えて産地が拡大していくことが期待されており、既に北海道の当別町ではよつぼしいちごを栽培する観光農園が開業した事例もあります。

  • ▼よつぼしいちご生産農家の取組み

2.種子繁殖型品種のメリット


栄養繁殖型品種では、生産者が自家増殖させるまでに地域の研究所からJAの増殖を経て4年4段階の過程を経ることが一般的です。栄養繁殖型品種の親株からの増殖率は年間40倍程度であることに加え、親株から子株に病害虫やウィルスがそのまま伝染するために、生産効率を高めることが課題となっています。

種子繁殖型品種は親株1株から3,000粒の種子を取ることができ、親株から病害を引き継ぐこともないことから、種苗の生産効率という点では圧倒的な優位性を持っています。収穫後に親株を管理する必要がない種子繁殖型品種は、コストと労力の点で生産者に大きなメリットをもたらすほか、大規模生産や規模拡大、新規参入を容易にする効果が見込まれています。

3.種子繁殖型品種の育て方


従来の栽培方法である栄養繁殖型品種は、春に親株定植を行い夏にかけて伸びるランナーから子株を増やします。短日低温条件とすることで花芽形成を促した後、9月に本圃定植を行い11〜12月から収穫がはじまります。
種子繁殖型品種では、5月に播種(たねを蒔くこと)して種苗事業者が育成したセル苗を生産者が購入します。そこからポット苗で育苗すれば栄養繁殖型と同様に栽培できる(二次育苗)ほか、セル苗を直接本圃に定植(本圃直接定植)し、花成誘導を適切に管理することで冬からの収穫が可能になります。



4.よつぼし品種の利用ルール


クローン増殖される栄養型繁殖の場合は品種としての純度が引き継がれるため、産地が種苗の流通を管理することでブランド品種の利益を守ることができます。
F1種となる種子繁殖型品種のよつぼしいちごは、2代目以降の種子を交配して繁殖しても同じ品種としての形質を作ることはできません。そのためによつぼしいちごの種子の生産は認められた事業者のみが行い、種苗の流通を行う種苗事業者と種苗からの生産を行う農業者に一定のルールを課すことでブランドとしての独立性を保つ枠組みが作られています。

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よつぼしいちごの利用者別守るべきルールは、種子生産事業者と種苗生産事業者の会員組織である「種子繁殖型イチゴ研究会」が利用形態別に定めています。 利用形態は、「果実生産者・農業者」「種苗事業者」「家庭菜園・一般消費者」に分かれており、「種子生産事業者」は現在募集は行われていません。

果実生産者農業者がよつぼしいちごを生産する場合のルールは以下のとおりです。

【品種育成者権の侵害防止】
・よつぼしいちごを栄養繁殖した種苗の販売は認められない。
・よつぼしいちごの種子は許可を得ないと生産できない。
・正当な種苗にロゴマークの添付を義務付け。
・種苗等の海外持ち出し禁止。
・栄養増殖株の第三者への譲渡の禁止。


【自家栽培で栄養増殖する場合】
自家栽培でランナー増殖する場合、以下の条件を遵守すれば許諾手続きは不要。
・種苗、ランナー及び株を海外に持ち出さない。
・栄養増殖は自家用の栽培に限り、増殖した種苗を有償・無償に関わらず第三者に譲渡することを禁止。
・栄養増殖した種苗で自己の農業経営に供しなかったものは廃棄すること
・種苗の更新を2年に1度行うこと
・本品種の利用に関連する書類や圃場、生産者の情報について、育成機関の調査に協力すること
・その他本許諾に関係する事項について育成機関の指示に従うこと





新たな品種の開発は簡単なことではなく、多大な労力を費やし開発に成功した品種育成権者の権利が守られるのは当然のことです。新品種の開発が盛んないちごが産地単位でブランドの競争力を高めていくことに合理性はあるものの、都道府県単位の種苗供給体系を維持することが難しいケース(施設の老朽化や病害虫対策の難しさなど)も見られるようになってきています。

種子繁殖型品種は従来型のブランドいちごの生産体系とは異なり、いちご生産の敷居を下げる要素も持ち合わせているということができます。よつぼしいちごの種苗は全国100以上の種苗取り扱い事業者から購入することが可能です。栽培にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。






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▼参考文献
〇種子繁殖型イチゴ研究会
https://seedstrawberry.com/society.html
〇”種子繁殖型イチゴ品種の開発と栽培技術の確立”
https://www.jataff.or.jp/project/kenkyu-kourou/PDF/R4/6%E4%B8%89%E9%87%8D%E3%83%BB%E5%8C%97%E6%9D%91%E5%85%AB%E7%A5%A5.pdf
〇「よつぼし」を栽培する果実生産者・農業者の方へ(果実生産者向け説明)
https://seedstrawberry.com/img/file16.pdf
〇当別町を再びイチゴの産地に 農園の挑戦とは? 北海道のくだもの
https://sodane.hokkaido.jp/column/202203211901001938.html
〇打倒「あまおう」 激化するイチゴの品種開発競争
https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK0401U_U4A400C1000000

ライタープロフィール

【施設園芸ドットコム 編集部】
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