コラム
公開日:2024.04.25
うどんやそば、冷奴などの薬味として欠かせない野菜、小ネギ。葉ネギや万能ネギ、青ネギの仲間で、年間を通して需要があり、取引単価も安定しています。 露地栽培も可能ですが、天候によっては小ネギの葉が痛みやすいため、空いている水稲農家の育苗用ハウスやパイプハウスの有効活用にもおすすめの野菜です。この記事では、小ネギの種類や栽培方法、栽培時のポイントをまとめました。
小ネギの発芽地温は15℃から20℃、生育適温は15℃から25℃。ネギ類は耐寒性がありますが、耐暑性(たいしょせい)が弱いのが特徴です。夏秋期に安定した栽培ができれば、小ネギの周年栽培が可能になります。
小ネギ栽培は、高温期向けの品種と低温期向けの品種を組み合わせて栽培すると、期間を空けずに収穫できます。「浅黄系九条」は馴染みのある品種ですが夏の暑さに弱く、「夏彦」や「かみなり」は耐暑性が期待できます。「九条細」は冬でも収穫量が望める種類です。
高知県香美市発祥の「やっこねぎ」は、ハウス栽培で年間を通して生産されている品種です。緑の部分が多く、よい香りとともに歯ざわりを味わえる小ネギで、収量や品質が安定しています。
関東では長ネギいえば「白ネギ」
主な品種は下仁田ネギ、深谷ネギなど…
関西では葉ネギといえば「青ネギ」
主な品種は九条ネギ、万能ねぎなど…
今回の記事テーマである「小ネギ」は、“青ネギを若いうちに収穫したもの”をさします。
薬味として万能な小ネギは、β-カロテン、ビタミンK、ビタミンC、葉酸、カリウム、食物繊維などの栄養素が豊富に含まれています。
小ネギは白い葉鞘(ようしょう)部分を味わう長ネギとは違い、葉の色が良く、細いことが品質の決め手です。露地栽培も可能ですが、風雨によって葉先が折れたり、害虫による傷や変色などの被害が発生します。商品として安定した収量を得るために、ビニールハウスでの栽培がおすすめです。
宮城県の「農業・園芸総合研究所」では、水稲育苗ハウスで水稲育苗箱を利用した小ネギの2作栽培方法を構築しています。6月と8月末に播種すると、水稲の作業が発生する5月頃と9月下旬から10月上旬の期間を避けながら栽培、収穫ができるのが魅力です。
また、小ネギは養液による水耕栽培を利用する方法もあります。人工の培地をハウス内に設置して育苗し、肥料を水に溶かした培養液を作物の根っこから直接吸収させる方法です。土耕栽培と比較すると、①作物の成長が早い、②短期間で繰り返し収穫できる、③天候に左右されず一定の品質を保てるなどのメリットがあります。
ここからは、ビニールハウスで品質のよい小ネギを育てる2つのポイントをご紹介します。
小ネギは葉の色が濃いほど品質が良く、需要があります。濃い緑色に仕上げるためには、灌水方法を工夫するのがポイントです。灌水量を抑えると、小ネギの緑がより濃く仕上がりますが、同時に作物にストレスがかかる原因にもなります。小ネギは多湿にも弱いという特性から、緩急をつけた灌水量の調節が大切です。山口県では、灌水管理による育て方を確立し、質の良い小ネギの栽培に成功しています。
小ネギは酸性土を嫌うため、2週間ほど前から苦土石灰やかき殻石灰を使って圃場を整えます。種まき直後はたっぷりと水を撒くのがポイントです。発芽後は、本葉2葉と4葉の時期に多灌水にし、こまめに雑草を取り除きます。多湿による徒長を避けるため、本葉1葉と3葉の時期は灌水を抑えましょう。5葉の時期に入ったら、苗の倒伏に気をつけながら灌水の回数を減らし、50センチほどに成長したら収穫可能です。
盛夏期は高温と日差しによってハウス内の気温が上昇し、小ネギの生育に影響します。葉の先が茶色く枯れたり、生育が遅れたりするため、遮光シートを使った適度な遮光対策をしましょう。
「大分県気候変動適応センター」の農業研究部による研究では、遮光資材をハウス天井の中央部分のみに使用すると、温度上昇を抑え、かつ生育に必要な日射量を得られて徒長を防ぐ効果が実証されています。
小ネギは周年栽培しやすく、一定の供給量を保てる野菜です。ハウス内の安定した環境で、ポイントを押さえて栽培すれば、葉の色艶がよくやわらかい小ネギを収穫できます。農業用ハウスの有効活用に小ネギ栽培をぜひ取り入れてみてください。
▼参考サイト
〇農林水産省, 耐暑性に優れる濃緑色の小ネギ用品種「やまひこ」の育成と特性を活かした灌水方法
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/new_tech_cultivar/2022/2022seika-07.html
〇JA高知県,小ネギ
https://ja-kochi.or.jp/agriculture/products/vegetable/855/
〇農業研究部,ハウス天井中央部の遮光で盛夏期の小ネギの収量、品質が向上
https://occac.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/02/%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9%E5%A4%A9%E4%BA%95%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E9%83%A8%E3%81%AE%E9%81%AE%E5%85%89%E3%81%A7%E7%9B%9B%E5%A4%8F%E6%9C%9F%E3%81%AE%E5%B0%8F%E3%83%8D%E3%82%AE%E3%81%AE%E5%8F%8E%E9%87%8F%E3%80%81%E5%93%81%E8%B3%AA%E3%81%8C%E5%90%91%E4%B8%8A_%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%83%A8.pdf
〇山口県農林総合技術センター,濃緑色小ネギの夏栽培における灌水方法(ハウス栽培)
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/61575.pdf
〇宮城県,水稲育苗箱を用いた小ネギ2作+ホウレンソウの簡易養液栽培
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/res_center/pamphler2-5.html
〇宮城県農業・園芸総合研究所,水稲育苗箱を利用した簡易養液栽培による小ネギのハウス 2 作体系
https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H29/yasaikaki/H29yasaikaki004.pdf
〇技術普及部 野菜技術普及グループ,水耕葉ネギ栽培におけるコスト低減技術
https://www.pref.shimane.lg.jp/industry/norin/gijutsu/nougyo_tech/kenyui/kenkyu_seika/tayori/110-6.data/110-6.pdf
〇ニチノウのタネ, ネギ(葱)
https://nichinou.co.jp/saibai/14990
ライタープロフィール
高橋みさと
自然に近い場所を求めて2021年に都内から郊外へ移住。
ライター業をしながら米や野菜づくりを実践しています。
趣味は登山と外遊び。
発酵に興味があり、コンポストを利用して生ごみを捨てない生活にはまっています!