コラム
公開日:2018.09.28
普段は土壌のpH矯正や病害虫に対する抵抗性の強化を目的に使われることの多い石灰質肥料。元肥として大量に施肥したのに、作物にカルシウム欠乏症が出て困っているということはありませんか?
土壌にカルシウムが大量に存在しても、根が傷んで弱っていたり土壌が乾燥していると植物は十分にカルシウムを吸収できません。カルシウムは植物の体内で移動がしづらく、常に吸収する必要があるので、この状態が続くと成長の盛んな成長点付近などでカルシウムの欠乏症が生じます。トマトの尻腐れなどでカルシウム欠乏に気づいた時には組織が壊死していることも多く、この時点で追肥を行っても壊死は回復しません。
予防策として定期的なカルシウムの葉面散布が効果的です。
根と同じように茎葉も肥料を吸収できることが知られるようになり、茎葉に直接肥料を与える葉面散布は即効性などの利点から広く行われるようになってきました。
そこでここからは葉面散布に適した肥料と効果的な使い方をご紹介します。
石灰質肥料には消石灰や炭カル、苦土石灰など様々な種類がありますが、葉面散布に適しているのは水溶性の石灰を含む肥料です。
特にオススメするのは葉面散布専用の肥料として売られているカルシウム葉面散布剤で、その中でもキレートカルシウムを含むものです。
値段は一般的な石灰質肥料に比べると高額ですが、キレートカルシウムは植物体内での移動性が良く、葉面散布専用の肥料なので散布による葉の汚れや濃度障害による葉やけの心配が少ないのが特徴です。従来葉面散布に用いられてきた塩化カルシウムや硝酸カルシウムは、薬害のリスクが大きくあまり使われなくなってきています。
肥料として馴染み深い石灰ですが乾燥剤としても活躍しています。よくお菓子の袋などに同封されているのを見かけますよね。乾燥剤として使われるのは生石灰です。コストが安く吸湿力が強いのでよく使われていますが、水に濡れると発熱して火傷の恐れがあるので注意が必要です。また吸湿後は消石灰になり目に入ると失明の恐れがあります。お菓子を食べた後に残った乾燥剤は子供などが遊ばないようにしっかり捨てるようにしたいですね。
つづいて散布方法を紹介します。
前提として、石灰に限らず葉面散布は土壌施肥に比べ即効性が期待できる反面、薬害が出やすいというデメリットがあります。各肥料の説明書をよく読んで正しく使用することが重要です。特に高い効果を得ようと規定の濃度以上で使用することは薬害のリスクが高まりますので濃度は必ず守るようにしましょう。
一般的にジョウロや噴霧器を用いて植物の茎葉に液体肥料をかける方法で散布します。肥料は主に気孔から吸収されるので葉裏にもしっかりかけましょう。また古い葉より新葉の方がよく吸収します。カルシウムの場合、植物体内での移動が少ないので若い葉にしっかり散布するとより効果的です。ただ若い葉ほど薬害が出やすいのでくれぐれも肥料の濃度には気を付けてくださいね。
葉面散布の効果は一時的ですので、欠乏症の予防に用いる場合は定期的な散布が欠かせません。特に果実の肥大期など一時的に多くの肥料が必要となる時に散布すると、より高い効果が期待できます。また、欠乏症の予防だけでなくカルシウムにより植物の細胞壁が強化されるので病害虫への抵抗性アップも望めます。
15℃~25℃が散布に適した気温です。肥料の吸収率のよい午前中や涼しい夕方に散布するようにしましょう。30℃以上では薬害が出やすくなるので避けた方が無難です。
今回は石灰質肥料の葉面散布についてご紹介しましたが、葉面散布は肥料成分の供給だけでなく葉から直接アミノ酸を吸収させて野菜の品質向上を図るなど様々な効果が期待できる優れた手法です。ぜひ上手く取り入れて美味しい野菜を作ってくださいね。
【参考文献】
〇カルシウム(Ca)、肥料ナビ、住友化学園芸.
〇植物にとってカルシウムとは? 住友化学園芸.
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。