コラム

土壌診断の方法とは?結果からわかる土壌改良の施肥設計の考え方

公開日:2019.11.13

1.養分過多になりやすい施設栽培土壌

露地栽培と違って施設栽培では雨によって養分が洗い流されることがありません。そのため塩類が集積していたり、土壌養分のアンバランスから連作障害をおこしやすい状況になっていたりして作物が上手く育たないことがあります。
目には見えない土壌中の環境は“土壌診断”を通して知ることができます。 土壌診断では土壌の化学的性質、物理的性質、微生物的性質に着目して土壌を調べます。
特に現在主流で効果が高いのは化学性についての診断です。

そこでここからは化学性の土壌診断について、方法や診断結果を作物生育改善に活かすための土壌改良や施肥設計の仕方についてご紹介します。

2.土壌の状態を知るのに役立つ「土壌診断の方法」

土壌の採取と調整

正しい結果を得るためには正しく土壌を採取することがとても重要です。
一般的には対角線法に従い、ほ場の対角線上の中央と対角線の端の方の4点の計5点から作土層を採取し、よく混ぜて500g位を試料とします。採取した試料を1週間ほど乾燥させた後に1~2mmのふるいにかけて300g以上を分析に回します。

分析

大雑把な土壌の地力なら生えている雑草からでも判断できますが、本格的な分析は専門知識や計器が必要で時間もかかるため、JA全農や民間企業などに委託することが一般的です。
自分で行う場合には試験紙を使った”簡易土壌診断キット“が有名です。最近では6種類の養分を自分でその日のうちに農業現場で測定できる分析装置がシャープから販売されています。

主な分析項目

一般項目として、pH、EC、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、交換性カリウム、交換性カルシウム、交換性マグネシウム、塩基飽和度、塩基置換容量CEC、有効態リン酸、リン酸吸収係数、腐植があります。
他にも、有効態ケイ酸や遊離酸化鉄、微量要素の可給態鉄、可給態マンガン、可給態亜鉛、可給態銅を調べたり、物理性として土壌の仮比重、三相構造(固相、液相、気相)、微生物性としてネコブセンチュウや青枯れ病菌、ネコブ病菌などを調べることもできます。

3.土壌診断結果の見方と「土壌改良の方法」

診断結果が出たら測定値と地力増進基本方針の改良目標値から土壌改良の処方箋を作成します。 まず、目標値と照らし合わせ、養分の過不足を把握します。 有効態リン酸、交換性塩基類(カルシウム、マグネシウム、カリウム)が不足する場合には値を改良目標に近づけるよう肥料を投入します。

不足リン酸1mg当たりのリン酸施用量は既に栽培を行っている土壌では1~2.5(mg/100g乾土)程度とします。CECや1mg当量などは土壌診断の結果を知るために必要なので分からない場合は調べてみて下さいね。

計算式

投入量(=不足量)は以下の式から求めます。


施用リン酸量(kg/10a) = (目標リン酸 - 測定リン酸)(mg) × 不足リン酸1mgあたりリン酸施用量(mg/100g乾土) × 100/リン酸質肥料成分(%) × 作度深(cm) / 10(cm) ×仮比重(g/cm3)


施用各塩基量(kg/10a) = (CEC(meq)×目標の各塩基飽和度(%) / 100 × 各塩基の1mg当量(mg) - 交換性各塩基(mg)) × 作度深(cm) / 10(cm) × 仮比重(g/cm3)

※式中の仮比重は物理性分析で調べるか土壌ごとの目安値を使います。



投入量が分かったら使う資材を決めていきます。表1のようにpH調整の必要があるかどうかと交換性リン酸、カルシウム、マグネシウムの量に応じて決めましょう。

表1 肥料の組み合わせ

土壌の状態 土壌改良資材の組み合わせ
pHの矯正が
必要な場合
リン酸、苦土、石灰が少ない 1)ようりん 2)苦土石灰 3)単カルまたは消石灰
リン酸、苦土が少ない 1)ようりん 2)水マグ
リン酸、石灰が少ない 1)ようりん 2)単カルまたは消石灰
リン酸が少ない 1)ようりん 
苦土、石灰が少ない 1)苦土石灰 2)水マグ
苦土が少ない 1)苦土石灰 2)水マグ
石灰が少ない 1)単カルまたは消石灰
pHの矯正が
不要な場合
リン酸、苦土、石灰が少ない 1)苦土重焼燐 2)硫マグ 3)石膏
リン酸、苦土が少ない 1)苦土重焼燐 2)硫マグ
リン酸、石灰が少ない 1)苦土重焼燐または過石
リン酸が少ない 1)過石
苦土、石灰が少ない 1)硫マグ+石膏
苦土が少ない 1)硫マグ
石灰が少ない 1)石膏

参照:だれにでもできる土壌診断の読み方と肥料計算、表IV-4 土づくり肥料の組み合わせ、JA全農 肥料農薬部


ポイント💡

(1)CECが低く肥持ちが悪い土壌の場合には堆肥を投入します。
その場合は堆肥に含まれる養分に堆肥毎の肥効率を乗じた分だけ化学肥料の施肥量を減らすようにしましょう。すぐにCECが改善できないことも多いのでその場合は施肥を複数回に分けたり緩効性肥料を使ったりすることで対応します。



(2)リン酸吸収係数は土壌がどれくらいリン酸を吸収するかを表す数値です。
改良目標値はありませんが1500を超えるような高い値の場合はリン酸と反応する土壌中のアルミニウムを減らすように有機物を施用することを考えます。



(3)一度に莫大な量の堆肥を投入して無理に改良目標値に近づけることは避けましょう。
腐植は良好な土壌の物理性、化学性、微生物性に不可欠ですが、リン酸が過剰になるなど養分バランスを崩すことになります。連作障害対策には堆肥と併せてアクアリフトなどの微生物資材を使うとより効果的です。




4.土壌診断結果を活かした「施肥設計の方法」

土壌改良の次は施肥設計です。土壌診断結果と作付け作物に対するその地域の施肥基準と照らし合わせて施肥量を決めていきます。
窒素はECが0.4以上の高い場合には基肥量を減らします。ECを下げるには天地返しや深耕、休作中にソルガム等のクリーニングクロップスを栽培し、青刈りして肥料成分をほ場外に持ち出すことも有効です。
施設栽培の場合には潅水を多くする方法も採られています。アンモニア態窒素や硝酸態窒素の測定値はその時の土壌の窒素の状態を知るには役立ちますが、形態変化が早く失われる量も多いので施肥量の算出には用いません。リン酸、カリは過剰な場合には減肥基準に従うようにします。

処方箋の作成は専門家の力を借りる

診断結果から資材の投入量を求める計算がどうも苦手で、という場合には土壌診断士や土壌医、施肥技術マイスターといった土壌の専門家の力を借りるのも1つの手です。 費用は余分にかかりますが土壌分析とセットで施肥設計をしてくれる業者もあります。
また、農林水産省のホームページには全国の土づくり専門家のリストが掲載されています。




作物のより良い生育のために年に一度は土壌診断を行い土壌の状態を把握しましょう。診断結果に基づく土壌改良と施肥設計を続けるうちに、作物の生育は見違えるほど良くなることでしょう。



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▼参考文献
〇農林水産省,地力増進基本指針、2008.
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_dozyo/pdf/chi4.pdf

ライタープロフィール

【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。








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