コラム
公開日:2018.03.07
ハウス栽培では夏秋、秋冬ともに灌水チューブを使って灌水する方法が一般的ですが、とくに散水タイプのチューブで30mを超える畝に灌水(散水)チューブを設置している場合、手前と先端から出る水量は大きく差がついています。
50m、100mと畝長が長いと2倍以上の灌水量の差が普通に起こっています。排水が十分でない圃場の場合、生育差が大きくなるばかりでなく過湿による病害発生、排水がよい圃場の場合は乾燥による生理障害の発生につながっています。
従来の灌水方法は1日に1回午前中に灌水を行っていました。すると晴天で蒸散量が多い場合は水を使い切ってしまい、それ以降は気孔を閉じ日射が豊富な中でも光合成をあきらめてしまう残念な結果になっていました。
以前は土づくりを行うことで水持ち・肥料持ちをよくすることに重点を置いていましたが、それには限界があることがわかり、それ以降は1日数回に分けて必要量を均一に潅水することで生育向上に効果を上げてきました。
散水タイプのチューブではムラとともに少量多回数灌水ができません。そこで効果を上げたのが点滴チューブです。
過去には点滴チューブが灌水量の差が少ないとはいえ、畝あたり多くの設置本数が必要で、散水チューブとの価格差も大きく、手が届かないという時代がありました。最近は若干性能が落ちますが海外製の廉価な点滴チューブが普及しています。たとえば1,000m巻点滴チューブで16,000円程度の商品もあり、1畝に2本設置しても従来の散水タイプより安価になります。
点滴で問題となる苔のようなぬるぬるの「詰まり」の場合もこの価格であれば毎年交換も可能となります。
地下水や用水で水質が大きく異なりますが、点滴チューブの場合はディスクフィルターと、できればサンドフィルター設備を併設することで砂・異物などによる詰まりが軽減されます。
また、地域によっては地下水に鉄分が多く含まれ配管ホースの中や設備が赤変する場合があります。
この様な場合は一度タンクに水をためて微細な空気泡を通すことで鉄を酸化・沈殿させ、その後フィルターで取り除き原水の改善ができます。熊本県で開発された雨水集積設備の利用は最も水質が純粋で、そのまま灌水に使用するにも希釈水として活用するにも有効です。(雨水は純粋な反面、ミネラル含量が少ないため肥効は期待できません。)
メロンのようにおもな灌水・施肥を生育後半で操作するものと、チンゲンサイ・ホウレンソウなどの葉菜類やトマトなどの長期収穫果菜類のように終盤まで灌水・施肥を行うものでは異なりますが、基本は根圏(根の周り)の水分・肥料濃度を安定的に維持することがポイントです。
肥料濃度の変動による根のストレスを回避することと併せて、先ほど述べましたように水不足により気孔が閉鎖→光合成・吸水・吸肥もストップしてしまうと作物の糖度を上げるにもその糖分をつくること自体ができなくなってしまい意味がありません。
灌水の判断は土壌水分を測定して・・・という考えが単純に浮かびがちですが、筆者が現地ハウス内10か所以上の土壌水分を継続的に測定し推移を観察した結果、どのケースにおいても数値はすべてバラバラでありどの数値も判断材料にすることもできませんでした。
土壌水分に代わる判断材料として圃場全体を包む空気、またはハウス全体の空間の乾燥度合い(蒸散の速度≒飽差)、併せて日射量を見ながらこまめに調節することが有効です。
これを手動で付きっきりでというのも無理な話ですので、この部分は最低限の機械で自動的に調節することが効果的で理にかなっています。
肥料面は生育期間が短いものは固形肥料で十分賄えます。しかし長期の作物の場合は必要な量を必要な時に与える必要があります。被覆の緩効性肥料もありますが、生育速度が速い場合も考慮して点滴チューブでの灌水同時施肥(灌水と同時に薄い肥料が随時供給される)がベストです。
ライタープロフィール
【深田】
現在、農業機器メーカーのアグリアドバイザーとして栽培指導やセミナーの講演を行っています。
以前は県の普及指導員や専門技術員を長くやっていました。「金をかければ何でもできる」が嫌いで、現場農家の立場と目線でメーカーとして何ができるのかを考えています。