コラム
公開日:2020.01.17
現在の日本の農業を支える平均年齢は67歳とかなり高齢化し、加速が止まりません。また、農業就業人口においても平成30年は全国で175万人。平成22年と比較すると約85万人も減少し、私たちの食生活を支えている農業従事者の担い手不足が長期的な課題となっています。
一方、福祉の分野では障がい者の就労意欲が高まっており、障がい者が職業を通じて生きがいをもち、自立した生活を送ることが出来るように求められています。
この様な背景から、農業分野と福祉分野、両分野の課題を解決する取組みとして進められているのが「農福連携」と呼ばれ、農業分野の担い手不足対策、働き手の確保として期待されています。
障がい者といっても、身体障がい・知的障がい・精神障がいなど1人1人の障がい特性が異なります。障がい者の雇用・就労をするためには農園の開設設備やトイレ、その他附帯設備などの整備が必要です。それらを整備するために、国による助成金の支援制度が用意されています。
事業名等 | 内容 | 交付率/助成額上限 |
---|---|---|
推進事業 ▶作業の効率化や生産物の品質向上等、農福連携を持続するための取組、ユニバーサル農園の開設、移動可能なトイレのリース導入に必要な経費等を支援。 農業分野への就業を希望する障がい者等に対し、農業体験を提供する農園 |
交付率:定額/助成額上限:150万円(一部40万円加算可) | |
農福連携を支援する人材の育成 ▶農林水産業の現場における障がい者の雇用や就労に関してアドバイスする専門人材(農福連携技術支援者)、障がい者就労施設等による農作業請負(施設外就労)のマッチングを支援する人材(施設外就労コーディネーター)等の育成。 農林水産省のガイドラインに基づく研修を受講し、認定された者 |
交付率:定額/助成額上限:500万円 | |
整備事業 ▶障がい者や生活困窮者の雇用・就労、高齢者の生きがいづくりやリハビリを目的とした農林水産物生産施設(農園、園路の整備を含む)、農林水産物加工販売施設、休憩所、衛生施設、安全設備等の整備。 加工販売施設に供する農産物等は事業実施主体及び連携する者が生産したものが過半を占めること |
交付率:1/2以内/助成額上限:モデル区ごとに異なる。200万(簡易整備型)、400万円(介護、機能維持型)、1,000万円(高度経営型)、2,500万円(経営支援型) | |
施設外就労コーディネーター育成支援事業 (障害者就労施設などによる農業作業請負のマッチングを支援する人材の育成を行う取組) |
交付金:定額/助成額上限:400万円 |
※対象:農業法人、社会福祉法人、一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人、民間企業、地域協議会(構成員として市町村を含むこと)など
このように、施設の整備だけでなく、実際に働く障がい者たちの研修をしてくれるジョブコーチを派遣してもらったり、障がい者たちが仕事を覚えるためのマニュアル作成等、様々なサポートを受けるための支援制度があります。
農福連携に取組む企業や団体は年々増加しています。ここからは農福連携に取組んでいる事例を一部ご紹介します。
水耕栽培において、ミニチンゲン菜、ミツバ、軟白ネギなどを生産
<受入障がい者数>
24名(知的・身体障がい者)※毎年1名ずつ雇用
<障がい者受入のための取組>
・作業を細分化し、難易度別にマッピングした「京丸ナビゲーションマップ」を作成
・新たな機械を導入することで多くの障がい者が作業可能となった
<障がい者の取組>
袋詰め作業や、簡単な器具を用いての定植作業など
<取組後の効果>
・障がい者に対応した作業の細分化などで生産性が向上
・障がい者の雇用が増えるにつれて売上増加
・一貫して黒字経営を達成
・手間がかかるが需要の高い、個包装した野菜などを商品化できた
養豚、野菜の生産、お茶の栽培
<受入障がい者数>
100名(触法障がい者21名を含む)
<障がい者受入のための取組>
触法障がい者を受け入れるために、就労や居住の場を整える
<障がい者の取組>
・野菜やお茶の生産・栽培
・養豚飼育 豚舎清掃や交配、分娩補助、給餌など
<取組後の効果>
・経営農地面積が5haから45haに拡大
・地域農業の維持に貢献
・売り上げが、開始当初の8倍に増加
・触法障がい者を受け入れることで、再発防止に貢献
・いちごのハウス栽培やナバナ、⾦ゴマ、ニンニク、カボチャの露地栽培、いちごジャム等への加⼯
<受入障がい者数>
16名(知的障がい者、精神障がい者)
<障がい者受入のための取組>
・いちご⽣産事業所として、三重県内の障がい福祉サービス事業所で初のASIA GAP認証を取得。
⾼設栽培システムを導⼊し、持続性がない障がいを持つ者も作業がしやすい工夫を取り入れている。
<障がい者の取組>
・いちごのハウス栽培
・ナバナ、⾦ゴマ、ニンニク、カボチャ等を露地栽培にて⽣産
<取組後の効果>
・農地⾯積が25a(平成30年度)から3ha(令和5年度)に増加
・国際線機内⾷に採⽤される
・県内大手スーパーとの取引開始
・いちご栽培を始める前と比較すると収入は4倍以上増加
積極的な障がい者雇用が企業に求められる中、「特例子会社」を設立して安定的な雇用を実現する企業が増えています。特例子会社とは、障がい者の雇用に配慮して設立された子会社です。民間企業には「障害者雇用促進法」に基づいて定められた法定雇用率以上の割合で障がい者を雇用する義務があります。2021年3月には、法定雇用率が2.2%から2.3%に引き上げられました。
一定要件を満たし、厚生労働大臣から認定を受けた特例子会社は、雇用された障がい者が親会社やグループ全体の雇用であるとみなして実雇用率を算定できるメリットがあります。
しかし、雇用のために設備を新設またはリフォームしたり、障がいの等級によって業務を分担したりといった対応は、実際は容易ではありません。障がいの特性に合わせて柔軟な事業活動を継続できる特例子会社は、障がい者雇用が抱えるジレンマを解消し、雇用促進を促す解決策の1つです。
△埼玉県熊谷市の事例
特例子会社制度は、人手不足が深刻な農業分野での活路としても期待されています。高齢化や後継者不足により担い手が減少している農業分野と、就労意欲のある障がい者の雇用機会がマッチングすれば、双方に大きな利点が生まれます。1人ひとりが持つ能力を最大限に活かせる農福連携の場を安定供給できる点が、特定子会社制度に注目が集まる理由です。
農福連携は、農業と福祉の分野において「win-win」な関係をつくり出す事を目的とした事業です。しかし課題は多く、社会理解の難しさや、障がい者サポートのための業務創出・人事制度の整備等が必要です。これらの課題を一つ一つ解決していくことで障がい者にとっても働きやすい環境となり、受け入れる側としても人手不足解消に繋がるのは確かです。
農福連携事業を活用した、新しい取り組みに挑戦してみるのはいかがでしょうか。
▼参考URL
・農林水産省HP,農福連携の推進
・農林水産省HP 農業労働力にたいする統計 農業就業人口及び基幹的農業従事者数
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html
・challenge LAB 障害者雇用のデメリットとは何か
https://challenge.persol-group.co.jp/lab/fundamental/recruit/recruit003/
▼参考文献
・農福連携等推進会議,農福連帯等推進ビジョン
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/attach/pdf/kourei-40.pdf
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
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