コラム
公開日:2021.12.23
作物の体を強く丈夫にしてくれる「ケイ酸(珪酸)」。水稲の土づくり肥料としておなじみですが、実は水稲以外の園芸作物にもさまざまな効果を発揮してくれます。今回は、ケイ酸を含む肥料の種類や使い方についてまとめました。
ケイ酸は、作物の生育に役立つミネラルの一種です。生育に欠かせない、窒素やリン酸のような「必須元素」ではありませんが、生育にプラスに働く「有用元素」として知られています。
ケイ酸を施用すると、葉や茎の表面に形成されるのが、ガラス質の「ケイ化細胞」です。植物組織を硬く丈夫にしてくれるため、茎折れや葉折れが少なくなるのはもちろん、病原菌の侵入や害虫による被害を物理的に防いでくれます。イチゴやきゅうりなどのうどんこ病、ウリ科作物のつる割れ病などで防除効果が認められています。
ケイ化細胞のおかげで葉が上向きに立ち上がるため、株の下の方の葉にも光がよく当たるようになり、光合成の効率が上がります。
ケイ酸は、作物の過剰な蒸散を抑えて体内の水分が失われるのを防ぐだけでなく、根の活性を高めて吸水能力を向上させるため、作物が乾燥状態に陥るのを防いでくれます。乾燥して気孔が閉じ、植物体内に熱がこもると高温障害が起こりやすくなりますが、ケイ酸にはこれを防ぐ効果もあります。
▲籾殻くん炭
ケイ酸は、もともと土壌に豊富に含まれている成分ですが、作物が吸収できるのはそのうちのごく一部です。連作などで不足しがちになるため、必要に応じて肥料で補給してあげましょう。ケイ酸を含む肥料には多くの種類がありますが、ここでは主要な3種類をご紹介します。
お手頃価格で使いやすい、ケイ酸質肥料の代表格です。土壌をゆっくりとアルカリ性に傾けるため、酸性土壌のpHを矯正する効果もあります。
リン酸質肥料ですが、ケイ酸や苦土(マグネシウム)、石灰(カルシウム)もバランスよく含んでいます。中でも、「熔成ケイ酸リン肥」はケイ酸の吸収利用率が高く、少量で効果が得られる肥料です。土壌pHをアルカリ性に傾ける働きもあります。
根張りの向上など、ケイ酸と加里の相乗効果が得られます。肥料そのものはアルカリ性ですが、土壌のpHや塩類濃度への影響が少ない「生理的中性肥料」なため、扱いやすいのも特徴です。
このほか、籾殻くん炭や稲わら堆肥などの有機資材にも、ケイ酸が多く含まれています。
上記のような固形(粒状・粉状)肥料に含まれるケイ酸は、主に「可溶性ケイ酸」です。水には溶けず、土壌や作物の根から分泌される有機酸によって徐々に溶出します。効果が長持ちする反面、速効性には欠けるので、基肥として施用されることがほとんどです。
速効性を重視したいときは、水に溶けやすく、作物に素早く吸収・利用される「水溶性ケイ酸」を活用しましょう。
液体ケイ酸加里1号
ケイ酸は、作物の生育を強力にサポートしてくれる頼もしい資材です。上手に活用して、病害虫対策や収量・品質の向上に役立てましょう。
▼参考文献
○ケイ酸の病害虫抵抗性強化における利用と展望,「植物防疫」67巻8号, 2013
http://jppa.or.jp/archive/pdf/67_08_01.pdf
○作物の耐乾性に及ぼすケイ酸施用効果,「根の研究」14巻2号, 2005
http://root.jsrr.jp/archive/pdf/Vol.14/Vol.14_No.2_041.pdf
○ケイカル,JA全農
https://www.zennoh.or.jp/operation/hiryou/pdf/05_keikaru.pdf
○ようりん,JA全農
https://www.zennoh.or.jp/operation/hiryou/pdf/02_yourin.pdf
○けい酸加里肥料,JA全農
https://www.zennoh.or.jp/operation/hiryou/pdf/07_keisankari.pdf
▼参考サイト
○土づくりと土壌診断⑪土壌改良資材の特性と使い方ーその1ー,農林中央金庫アグリウェブ
https://www.agriweb.jp/column/977.html
○日本液体肥料株式会社
https://shokusanpro.com/
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!