コラム
公開日:2026.09.30

私たちが講習会に参加したり、農業に関する技術書を読むと、「葉面温度の測定は重要だ」、「葉面温度が高くなりすぎると光合成速度が落ちる」などとよく言われます。
しかし、葉面温度について正確な定義は案外知られていませんし、正確な測定方法や注意点についても整理されていないのが現状です。
そこで、この記事では、葉面温度とは何かについて簡単に触れた後、測定の意義、特にビニールハウスにおける正確な測定法と測定時の注意点について解説します。

葉面温度(以下、葉温)とは、葉の表面の温度のことです。
具体的には、同じ植物であれば、葉温10℃より30℃のほうが、より多くの熱エネルギーを蓄えていることになります。葉温は、葉が受け取る放射エネルギーや、蒸散による熱の放出、周囲の気温や風など、さまざまな要因によって変化します。
植物は、自身の温度が高くなると、生理機能の低下、生育の停滞、ひいては組織の損傷が起きます。
これを防ぐため、十分に水分がある植物では、高温時に気孔を開いて葉から水分を出して蒸散しますが、このときに葉温が気温より低くなります。
葉温は、単に「葉が熱い・冷たい」というだけではなく、日射や蒸散、気温、風など、植物を取り巻く環境の影響を受けて変化します。そのため、葉温を測定することで、作物が置かれている環境や水分状態を把握する手がかりになります。

なぜ葉面温度を測定するのか。
一言で説明すると、「水分ストレスや気孔の開閉状態を推測するための指標の一つになる」からです。
ただし、葉温だけを測定しても、その値だけで植物の状態を判断することはできません。葉温と気温を比較し、その差を見ることが重要です。
例えば、サトウキビを適切に潅水した場合、葉温は気温より数℃低くなります。
一方、乾燥によって水分ストレスがかかると、葉温は気温より高くなります。さらに、乾燥状態にあったサトウキビに潅水すると、翌日には葉温が低下し、適切に潅水した場合と同程度になるのがよい例です。
また、高知県で施設パプリカを用いて測定した結果、葉温と気温の差(葉温-気温)が大きいほど蒸散速度が速く、蒸散速度が速いほど気孔コンダクタンスが高く(≒気孔がよく開いている)、気孔コンダクタンスが高いほど光合成速度が高いことが分かっています。
以上のように、葉温と気温の差を見ることで、蒸散や気孔の開閉状態、光合成速度を推測するための指標の一つとなります。そのため、葉温を測定することは、作物の状態を把握し、栽培管理を見直すうえで重要です。
農業場面での葉温の測定方法を大別すると、①センサーによる接触型、②放射温度計による非接触型があります。人間の体温を体温計で測定する方法とサーモグラフィーで測定する方法と類似しています。
以下、簡単に2つの方法を説明します。

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接触型の温度センサーにはさまざまな種類がありますが、農業分野では熱電対などが広く利用されています。
熱電対は、2種類の異なる金属を接合し、温度差によって生じる電圧を利用して温度を測定するものです。この現象を「ゼーベック効果」といいます。
比較的安価で応答が早いため、農業分野ではハウスの自動換気装置や暖房機の制御など、さまざまな用途で利用されています。
葉温の測定では、葉の特定の部位にセンサーを直接接触させて測定できるため、測定したい葉の温度を正確に把握しやすいことが特徴です。一方で、植物や群落全体など、広い範囲の温度を一度に測定することには向いていません。

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放射温度計(赤外線温度計)とは、葉から出てくる熱エネルギーを赤外線レンズで集め、発生するわずかな熱を検出素子で感知し、電気信号に変換して温度を測定する温度計です。 また、いわゆるサーモグラフィーは、測定される部位により放出される熱エネルギーが少しずつ異なることを利用して、画像化したものです。
接触型の温度センサーより高価ですが、作物に触らずに測定でき、植物全体や群落などの広い範囲全体の温度が測定可能です。

葉温を正しく測定するためには、機器を正しく設置・設定するとともに、比較対象である気温も正しく測定することが重要です。
まず、葉の表面への設置は避け、基本的には葉の裏面に設置しましょう。
葉の表面に設置すると、日射の影響を受け、正確な葉温を測定できない場合があります。
また、下位葉への設置も避けましょう。下位葉は太陽光線の干渉を最も受けにくい位置ですが、上~中位葉の陰に隠れて、光合成能力が低くなりやすいためです。
作物によって多少の違いがあるものの、展開が終わり、最大葉の80%以上の大きさに達した、水平に向いている葉を選び、その裏側に設置するのがよいと考えられます。

△イメージ
放射温度計で株や群落全体を測定する場合、接触型センサーとは異なり、測定位置を細かく選ぶ必要はありません。
ただし、連続して測定する場合、植物に正確に焦点を当てるようにしましょう。
植物の生長や農作業により群落の構造は少しずつ変わるので、いつの間にか植物ではなく、周囲の土や被覆資材を測定していたという失敗が起きやすいからです。

△イメージ
先に述べたとおり、葉温は気温と比較してはじめて測定に意味が出てきます。そのため、正確な気温の測定も非常に重要です。
接触型センサーと同様に、気温を測定するセンサーに直射日光が当たっていると、正確な気温が測定できません。必ず覆いを付けましょう。
その上で、センサー周辺の空気を強制的に入れ替え、放射による測定誤差を抑えるために、センサー部には常にファンで風を当ててあげるようにしましょう。

△画像提供:株式会社ニッポー
以上、本記事では、葉面温度(葉温)について、その定義、測定の意義、主な測定方法、測定上の注意点について、高温期の光合成速度やストレス把握に焦点を当てて解説しました。
今回は詳しく取り上げませんでしたが、葉温の把握はトンネルや無加温ハウスにおける凍害発生の把握にも非常に重要です。例えば、近藤純正・東北大学名誉教授の研究によると、3月のビニルトンネル内ではトウモロコシが凍霜害を受ける最低葉温は-3℃以下であり、この時の最低葉温は最低気温より-1.43±0.93℃(≒最低葉温が0.5~2.3℃最低気温より低い)低かったと観測されています。
以上のように、葉温の測定は、気候変動時代の農業にとって欠かせない技術になると考えられます。
▼参考文献
〇長 智男,中野 芳輔,山城 三郎「作物の水分ストレスと葉気温差」1989
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/23303/p001.pdf
〇橋田祐二「パプリカの光合成・蒸散特性」2016
https://www.nogyo.tosa.pref.kochi.lg.jp/download/?t=LD&id=7145&fid=49590
〇桑形 恒男,福岡 峰彦「気温観測の理論と注意点」2018
https://agrmet.jp/wp-content/uploads/2018-A-2.pdf
▼参考サイト
〇名古屋大学「『熱電変換』って何?」
https://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/yoshidalab/old/thermoelectric.html
〇KEYENCE「放射温度センサの基礎」
https://www.keyence.co.jp/ss/products/recorder/lab/thermometry/radiation.jsp
〇近藤純正「K186.凍霜害予測(11)ビニルトンネル内の野菜」2019
https://wind.gp.tohoku.ac.jp/personal/rk7j-kndu/kenkyu/ke186.html
〇株式会社セターンバイオテク「クンソンの効果」
http://jp.sabit.co.kr/sub/business/bighand/effect.php?ckattempt=1