コラム
公開日:2018.11.29
石灰防除という言葉が使われる程、肥料としての用途だけでなく石灰質肥料を使った作物の病害虫に対する抵抗性の強化が広く行われるようになってきました。石灰質肥料の安価で使い勝手の良い点が魅力のようです。
石灰質肥料は元肥として最初に大量に用いるだけでは、病害虫対策としての効果はあまり期待できません。カルシウムは欠乏症も出やすいので病害虫対策と併せて、植物全体に行き渡るように複数回の追肥を行うと効果的です。
その時にポイントになるのが「潅水」つまり水やりです。
粉末の石灰質肥料を水に溶かし、液体にして植物にかけることで植物の隅々まで行き渡らせることができます。前回は葉面散布について紹介しましたが、今回は安価な石灰質肥料を潅水と併せて使う方法や、近年販売されるようになったカルシウムが有効成分の新しい農薬について紹介していきたいと思います。
今回紹介するのは、石灰質肥料のうち”カキ殻石灰”のような有機石灰を使った方法です。
初期のうどん粉病やトマトの尻ぐされ、スイカの炭素病に効果があります。方法はとても簡単です。
《施肥+潅水 方法》
①水10Lに対し有機石灰をスプーン山盛り1杯加えてよくかき混ぜて溶かす。
②そのまま有機石灰が沈殿するまで一晩置く。
③上澄み液を2倍希釈して野菜一株につきコップ1杯程度を株元に潅水するか病害部に噴霧します。
有機石灰を使用する時は、生石灰のように激しく発熱するようなことはありませんので安心して扱うことができます。
また用いる有機石灰は貝殻を荒く砕いたものより、粉末のものの方が溶けやすく効果が期待できます。病気が蔓延してからの回復は難しく、尻ぐされ部分を回復させることはできないので注意しましょう。
普段何気なく石灰と言いますが石灰とは生石灰(酸化カルシウム)と消石灰(水酸化カルシウム)の総称のことです。原料は石灰石(炭酸カルシウムが主成分の鉱石)ですが、これは石灰岩を鉱業の対象とした時の呼び方です。慣れないうちは紛らわしいですね。
ここまでは石灰質肥料の方法を紹介しましたが、ここからはカルシウムによる病害虫への効果がはっきり認められた例として、2011年から販売を開始した「ホワイトコート」という農薬について紹介したいと思います。石灰を含む農薬としては石灰窒素が有名ですが、石灰窒素がシアナミドを有効成分とするのに対し、ホワイトコートは炭酸カルシウムの微粉末から成り、有効成分も炭酸カルシウムであるという点が最大の特徴です。水で25~50倍希釈して植物全体に散布することで害虫の被害を抑制でき、物理的作用を利用しているため抵抗性発達の心配はほとんどありません。適用病害虫はカンキツのチャノキイロアザミウマやりんごのモモシンクイガと少ないですが、今後に注目していきたい資材です。
これからは石灰質肥料を元肥だけでなく潅水追肥としても上手く取り入れて、元気で丈夫な野菜を作っていきましょう。
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。