コラム

【最新】コナジラミ駆除機3選をご紹介!農薬を使わない画期的な方法とは?

公開日:2025.04.11

コナジラミは、トマトをはじめ、ナスやキュウリ、メロンやミカンなどの作物に深刻な被害を与える重要害虫として知られています。
雌は1頭あたり100個以上の卵を産むため、条件さえ合えば、爆発的に増殖します。この小さな白色の害虫は、作物の葉裏に寄生して、汁を吸います。汁を吸われた葉は、白くなって生育が悪くなります。
また、コナジラミの排せつ物が葉に付くと、すす病が発生して葉や果実が黒くなり、トマト黄化葉巻病などのウイルス病も媒介します。コナジラミの対策に頭を悩ませている施設園芸農家の方は、少なくありません。
そこで本記事では、最新のコナジラミ駆除・防除方法を3つ厳選して、ご紹介したいと思います。

1.農薬に依存しない駆除対策が求められている

施設栽培において実りある収穫を迎えるためには、コナジラミの駆除・防除が欠かせません。
コナジラミの駆除・防除には通常、化学農薬が使用されていますが、殺虫剤などの農薬による駆除・防除を徹底しようとして同じ系統の農薬を長期にわたり使い続けていると、コナジラミの薬剤に対する抵抗性が発達するため、農薬の駆除・防除効果が低下するおそれがあります。
害虫の農薬に対する抵抗性発達を防ぐためには、農薬の使用を必要最小限にするのが最も有効とされています。
そのため、農薬だけに頼らない、新たなコナジラミ駆除・防除技術の確立が急務となっています。

2.超音波の力でコナジラミを撃退|クールな自動走行ロボット

△コナジラミ防除ロボット(画像提供:静岡県農林技術研究所)

コナジラミ防除のための化学農薬使用量の削減や省力化に向け、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(通称:農研機構)は、静岡県農林技術研究所およびピクシーダストテクノロジーズ株式会社(東京都中央区)と共同で、超音波を利用してコナジラミを防除する、コナジラミ防除ロボットの開発を進めています。

本コナジラミ防除ロボットは、超音波集束装置により、離れた位置から植物に振動を与えて、葉面に寄生しているコナジラミを飛び立たせ、LED(発光ダイオード)光により吸込口に誘引、誘引されたコナジラミを吸引し捕獲します。電動で、バッテリーを搭載した防除ロボットは、植物に超音波を当てながら、畝(うね)に沿ってハウス内を自走可能です。

トマトを栽培するハウスにおいて、試作機を週6回走行させてタバココナジラミに対する効果を検討した試験では、超音波をランダムに照射させながら、トマト30株に1株あたり10秒間LED光を当てたところ、トマトの葉面に寄生していた成虫(複葉1枚あたりの頭数)を最大76%減らしました。
また、タバココナジラミの天敵であるタバコカスミカメ(捕食性カメムシ類の1種)は、LED光に反応せず、コナジラミ防除ロボットに吸引されませんでした。このことから、天敵と組み合わせて使用できることが示されました。

△稼働現場(画像提供:静岡県農林技術研究所)

タバココナジラミは、幼虫・成虫ともに野菜や花き類に深刻な被害を及ぼす世界的な農業害虫です。
トマト黄化葉巻病ウイルスやウリ類退緑黄化ウイルスなど、多くの植物ウイルスを媒介します。さまざまな化学農薬に対して強い耐性を示すため、化学農薬だけに頼らない防除技術が求められていました。

そこで農研機構らが開発したのが、昆虫の多くが振動を感知して飛び立つ習性を利用した防除法でした。この防除法を応用して、農研機構らは害虫を捕獲しながらハウス内全域を移動可能な装置の開発に取り組んでいます。

今後さらに防除効果のデータを収集するなどして実用化を目指すとのことです。
なお農研機構では、本コナジラミ防除ロボットを使ってコナジラミ防除効果を確認することを希望する生産者の方を募集しています。

3.振動を使ってコナジラミをだまし討ち|トマト栽培用の振動発生装置

△設置現場(画像提供:東北特殊鋼株式会社)

東北特殊鋼株式会社(宮城県柴田郡村田町)らの研究チーム「振動農業技術コンソーシアム(代表:九州大学)」は、トマトに振動を与えてコナジラミ類を防除する技術を開発しています。

コナジラミ類は、繁殖の際、雌雄間で振動を使ってコミュニケーションを取ることが明らかになっています。その性質を逆手にとって開発されたのが、本技術です。2022年の農林水産研究成果のうち、内容に優れるとともに社会的関心が高い成果として農林水産省から「農業技術10大ニュース」に選ばれました。

トマト栽培施設内では、施設上部に設置したパイプやワイヤー等の治具から紐などで誘引作業を行い、治具に振動発生装置(磁場の変化に応じて伸縮度合いが異なる金属を組み合わせた材料を用いた特殊装置)を取り付ける事でトマトに振動を与えています。

トマト栽培施設における試験では、トマト株にタバココナジラミの成虫を放したところ、周波数100ヘルツの振動を断続的に与えたトマトのタバココナジラミ幼虫の密度(複葉1枚あたりの頭数)は振動を与えなかった場合と比べて約40%低下することが明らかになりました。
また、オンシツコナジラミに対してもトマトに100~300ヘルツの周波数を断続的に与えたところ、振動を与えなかった場合と比べて幼虫の密度が50%以下に抑えられました。

△画像提供:東北特殊鋼株式会社

研究チームによれば、装置が発生する振動によりコナジラミの交信、交尾および産卵の阻害に効果が期待できるとのことです。

東北特殊鋼社はトマト栽培用の振動発生装置「トマタブル®」の商品化を目指しています。
現在、振動発生装置を改良するとともに、開発中の装置を使用して各地の生産施設で実証試験を進めており、2025年以降に限定販売した後に販売地域を拡大していくことを計画しています。
”生産者の方がご自身で簡単に着脱でき、効果を十分に体感できる製品”をコンセプトにした商品を開発中です。

4.LEDでコナジラミをおびき寄せてノックアウト|光誘引駆除機

△画像提供:株式会社大和コンピューター

株式会社大和コンピューター(大阪府高槻市/東京都港区)の子会社で農作物の生産・加工・販売を手掛ける株式会社ルーツ(静岡県袋井市)は、静岡理工科大学の技術的なサポートを得てコナジラミを対象とした光誘引駆除機を開発しています。
開発中の光誘引駆除機は、コナジラミを誘引する特定周波(特定色)のLEDを使ってコナジラミを捕獲します。

ルーツ社の自社農園では、実際に光誘引駆除機の試作機を設置して稼働させています。この試作機は、黄色LEDランプの設計と配置の最適化に加え、吸引力とスリット幅との適切なバランスが特徴です。
2024年10月に幕張メッセで開催されたアジア最大級の農業の展示会「第14回農業WEEK」においても展示されました。
コナジラミを対象とした光誘引駆除機については、展示会における試作機のお披露目のほか、特許を申請(出願)しています。

本駆除機の使い方は至って簡単。圃場内に本駆除機を置いて100ボルトの電源を入れるだけ。LED光に誘引されて集まったコナジラミを、吸込口から吸引・回収します。「コナジラミが面白いほど捕れる」というのがルーツ社側の弁です。

△画像提供:株式会社大和コンピューター

本駆除機の使用により、農薬の散布回数を減らせます。殺虫剤などの農薬の使用を必要最小限にすることで、コナジラミの農薬に対する抵抗性発達を遅延させることも可能です。
それと同時に、人体への影響(健康リスクなど)と環境への負荷を最小限に抑えられます。その結果、総合防除(IPM: Integrated Pest Management)の実践にもつながります。

ルーツ社は、メロンやトマトといった静岡県を代表する農作物に害を及ぼすコナジラミを対象とした光誘引駆除機の開発・普及を目指しており、将来的にはコナジラミの光誘引駆除をはじめとする光技術を施設園芸分野に応用したい考えです。

農林水産業の生産力向上と持続性との両立を実現するために農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに、化学農薬の使用量を50%削減することを目標として掲げています。
今回ご紹介したコナジラミの駆除・防除方法は、化学農薬の使用を必要最小限に抑えられるため、「みどりの食料システム戦略」に掲げられた目標達成への貢献が期待されます。

「施設園芸.com」では引き続き、施設園芸向けの技術の動向を注視しつつ、化学農薬だけに頼らない害虫駆除・防除に関する耳寄りな情報を、皆さまにお届けしていきます。
今後の記事にぜひご期待ください。

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▼参考サイト
〇石川幸男, 野村昌史編. 応用昆虫学. 朝倉書店, 2020.
〇後藤哲雄, 上遠野冨士夫編著. 応用昆虫学の基礎. 農山漁村文化協会, 2019, (農学基礎シリーズ).
〇主婦の友社編. 植物の病気と害虫予防、退治がひと目でわかる本 : 草花 花木・庭木 果樹 野菜. 主婦の友社, 2015.
〇行徳裕. 植物防疫講座 虫害編(42)野菜に発生するコナジラミ類の生態と防除. 植物防疫. 2024, vol. 78, no. 3, p. 168-174.
〇吉濱祐介. みどりの食料システム戦略の実現に向けて. 果実日本. 2023, vol. 78, no. 1, p. 42-48, (特集 環境保全型果樹農業).
〇大石七里. NO. 09 フードテック・食糧問題 デジタル害虫防除 超音波や照明で農作物を守る。2050年の”農薬半減”実現に向けた切り札. Trendy. 2023, no. 500, p. 42-43.
〇超音波→揺らして LED→誘って 吸う 対タバココナジラミ自走ロボ 静岡県農研など実用化めざす. 日本農業新聞. 2023-11-19.
〇農業・食品産業技術総合研究機構ほか. 非接触の振動による植物体からの追い出し、光による誘引、ならびに吸引による捕虫効果を用いたコナジラミ類の防除及びモニタリング方法. 特開2024-142567. 2024-10-11.
〇森林研究・整備機構ほか. 振動による害虫防除及び作物受粉の方法. 特許第6991488号. 2022-01-12.
〇東北特殊鋼. 作物栽培施設内の作物に振動を与える方法. 特許第6940712号. 2021-09-29.
“〇“イノベーション創出強化研究推進事業(基礎研究ステージ)/研究紹介2023 害虫防除と受粉促進のダブル効果!スマート農業に貢献する振動技術の開発”. 農業・食品産業技術総合研究機構.
https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/innovation/results/files/2023_results_kiso-11.pdf, (参照 2025-01-22).”
“〇“TOPIC 6 2022年農業技術10大ニュース 振動でトマト害虫を防除-コナジラミ類の発生抑制・トマトの授粉促進による安定生産へ-”. 農林水産省.
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/221226-9.pdf, (参照 2025-01-22).”
“〇“総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針~病害虫及び雑草の徹底防除から、さまざまな手法による管理・抑制への転換~”. 農林水産省.
https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/g_ipm/pdf/byougai_tyu.pdf, (参照 2025-01-22).”
“〇“みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~”. 農林水産省. 2021-05.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-10.pdf, (参照 2025-01-22).”
“〇振動でトマト害虫抑制 授粉促進の効果も 宮城県など研究チーム. 日本農業新聞. 2024-06-27, 日本農業新聞電子版.
https://www.agrinews.co.jp/farming/index/242007, (参照 2025-01-22).”
“〇ルーラル電子図書館 農業技術事典 NAROPEDIA. “殺虫剤抵抗性”.
https://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=12018, (参照 2025-01-22).”

ライタープロフィール

【清原 筆養父】
ライター・翻訳家・一級知的財産管理技能士の三刀流。農学修士。野菜(特に、小松菜、豆類、山芋)が大好き。農産物の栽培・加工・包装、農業資材、園芸用品、肥料、農薬、農機具などに関する技術・特許調査・分析、技術・法律文書作成、翻訳などの経験がある。アグリテックやフードテック、テロワールなどに注目している。








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