コラム
公開日:2026.02.19
施設栽培は多湿になりやすく、病害が発生しやすいため、防除回数が多くなりがちです。また、防除のたびに化学農薬を使用すると、薬剤抵抗性が生じやすくなります。
そこで前回の記事では、防除回数の削減や薬剤抵抗性の抑制につながり、ハチ類の管理も簡単になる生物農薬(天敵資材)のかしこい使い方①|害虫防除に役立つ生物殺虫剤と成功例をご紹介しました。
本記事では、生物殺菌剤の中でも殺菌効果を持つ資材について解説します。

まず、生物殺菌剤がはたらく仕組みは、薬剤や対象病害が異なっても同様です。 天敵菌が作物の葉や花に住み着くと、住処を占有したり栄養源(餌)を独占するようになります。すると、病原菌が侵入しても繁殖を抑制できるので、病害から作物を守れるのです。
次に、施設栽培の病害防除に用いられる主な生物殺菌剤について、分類しました。
| 天敵微生物 | 主な対象病害 | 主な薬剤 | 使用方法 | |
|---|---|---|---|---|
| 大分類 | 菌の名前 | |||
| かび (糸状菌) |
タラロマイセス・フラバス |
うどんこ病(野菜類) 灰色かび病(野菜類) ナスすすかび病 いちご炭疽病 |
タフパール | 散布 |
| コニオチリウム・ミニタンス | 菌核病(野菜類) | ミニタンWG | 全面散布 土壌混和 |
|
| 細菌 (バクテリア) |
バチルス・ズブチリス |
うどんこ病(野菜類) 灰色かび病(野菜類) |
ボトキラー水和剤、クリーンカップ 他 | 散布 |
| バチルス・アミロリクエファシエンス | 上記+トマト葉かび病 | インプレッション・クリア | 散布 | |
| シュードモナス・ロデシア |
軟腐病(野菜類) トマトかいよう病 トマト茎えそ細菌病 ブロッコリー花蕾腐敗病 |
マスタピース水和剤 | 散布 | |
| ウイルス | ズッキーニ黄斑モザイクウイルス(ZYMV)弱毒株 |
うり類のZYMV感染による モザイク病および萎凋症 |
キュービオZY-O2 | 有傷接種 (詳細は本文) |
以下、それぞれの使用法を簡単に説明します。
※なお、特に記載のないものについては、一般的な農薬と同様に、希釈して散布する方法で使用します。
タラロマイセス・フラバス菌を用いて野菜類の各種かび病害(灰色かび病、うどんこ病等)を予防するタフパール、コニオチリウム・ミニタンスを用いて菌核病を予防するミニタンWGなどがあります。
このうち、ミニタンWGは、菌核病が泥はねで感染する性質があることから、定植前に土壌全面に散布後、耕耘で十分に混和する使用方法です。
バチルス・ズブチリス菌またはバチルス・アミロリクエファシエンス菌を用いて野菜類の各種かび病害を予防するボトキラー水和剤やインプレッションクリア、シュードモナス・ロデシア菌を用いて野菜類の各種細菌性病害(軟腐病、かいよう病等)を予防するマスタピース水和剤があります。
このうち、ボトキラー水和剤とバチスター水和剤(いずれもバチルス・ズブチリス菌)は、「ダクト内投入」の使用も登録されています。
具体的には、薬剤を粉末のまま温風暖房機の送風用ダクトの風を利用してハウス全体に飛散・循環させることで、病原菌が侵入する前に葉上に天敵菌を保護膜のように分布させるものです。
これは、生物殺菌剤の欠点である「作物が生長すると、天敵菌が付着していない部位が発生する」という短所を補うための技術です。
私たちは、風疹や結核に生涯かからないようにするため、幼児のうちに毒性が弱いワクチンを注射します。
これと同様に、ズッキーニ黄斑モザイクウイルス(ZYMV)弱毒株を用いて、モザイク病や萎ちょう症状が起きないようにするキュービオZY-02があります。
他の薬剤のように散布で処理するのではなく、薬剤を希釈して炭化ケイ素粉末を混合後、子葉に綿棒でこすりつけるか、スプレーガンで噴射して処理する方法を取りますが、これは人にワクチンを接種する場合と同様と考えると理解しやすいでしょう。
ただし、個人の農家が育苗中に実施するのは大変なので、薬剤処理した苗を商品として取り扱っている育苗業者から苗を購入するとよいでしょう。
以上のように、生物農薬は様々な種類があります。以下の一覧表も参考になりますので、気になる方はチェックしてみてください。

生物殺菌剤は一般的な化学農薬と性質が大きく異なりますので、生物殺菌剤に共通するメリットやデメリットを理解しておくことが重要です。
※1:土壌混和するミニタンWGや幼苗期に接種するキュービオZY-02は1回のみです。
例えば、ボトキラー水和剤の場合、10℃以下では効果が劣ります。
また、ミニタンWGの場合、30℃以上で天敵菌が死滅することが知られています。
下図のとおり、生物殺菌剤の散布以降に生長した部分は、天敵菌が存在しないので、病原菌の侵入を防ぐ効果が全く期待できないためです。
特に、ボトキラー水和剤とバチスター水和剤での「ダクト内投入」の場合、暖房の稼働時期は毎日続けますが、これは生物殺菌剤の短所をなくすための技術です。

これは、2つの理由が考えられます。
①生物殺菌剤は葉にすでに定着した病原菌を殺す効果がないこと
②病原菌により枯れた葉には栄養分がなく、天敵菌の定着自体が難しいこと
以上のことから、特に生物殺菌剤をその作で初めて導入するときは、遅くとも発生初期、できれば発病前まで行うのが理想です。
また、灰色かび病では必須の枯れた部位の除去は、生物殺菌剤を導入しても変わらず行う必要があります。
天敵菌はかびや細菌ですので、殺菌剤の混用や近接散布で全滅することがあります。
こうした事故を防ぐためには、各メーカーの説明資料をよく読み、生物殺菌剤に影響が少ない化学農薬を選定することが欠かせません。

ここからは、実際に防除回数が削減できた成功事例をご紹介します。
事例1.栃木県(炭疽病、いちご育苗、タフパール)
タラロマイセス・フラバス菌を製剤化したタフパールは化学農薬の代わりになり、化学農薬とタフパールを交互に散布した場合、化学農薬のみを散布した場合と同様に高い炭疽病の防除効果(≒化学農薬の使用回数が半分程度)を示しました。
事例2.茨城県(灰色かび病、促成トマト、ボトキラー水和剤ダクト内投入)
化学農薬のみの防除では16回防除が必要だったのに対し、ボトキラー水和剤のダクト内投入により化学農薬での防除が7回に減少しました。
事例3.兵庫県(菌核病、レタス・キャベツ、ミニタンWG)
菌核病防除にミニタンWGの使用を組み合わせることで、菌核病防除に関する化学農薬使用の30%削減が可能になります。
以上、本記事では、生物殺菌剤について、作用原理と主な種類を解説しました。
残念なことに、わが国は生物農薬の登録数に関しては欧米各国より遅れているのが現状です。欧米では登録されているのに日本では登録されていない剤が多くあります。
また、せっかく登録された生物農薬も、主に販売面から登録を維持できないケースも見られます。これらの課題を解消するためには、生物農薬のさらなる普及が必要だと考えます。本記事が少しでもみなさまのお役に立てば幸いです。
▼参考サイト
〇日本生物防除協議会,天敵等への殺菌剤の影響の目安
https://biocontrol.jp/_src/241205/tenteki_sakkinzai_ver32_202412.pdf?1205
〇日本植物防除協議会,新規微生物殺菌剤:バチルスズブチリス剤新菌株の特性とその使い方,植物防疫第58巻第8号(2004年)
https://jppa.or.jp/archive/pdf/58_08_30.pdf
〇農林水産省,生物農薬の登録状況について,独立行政法人 農林水産消費安全技術センター 農薬検査部農薬有効性審査課 検査管理官 古濵 孝久,植物防疫所病害虫情報 第126号(2022年3月15日),
https://jppa.or.jp/archive/pdf/58_08_30.pdf
〇Arysta LifeScience,ダクト内投入の使い方
https://arystalifescience.jp/catalog/pdf/bachisuta_duct(2016-12).pdf
〇農業・園芸総合研究所,ZYMV感染によるキュウリモザイク病・萎凋症を予防するZYMV弱毒株水溶剤(商品名:“京都微研”キュービオZY-02)の使用方法
https://arystalifescience.jp/catalog/pdf/bachisuta_duct(2016-12).pdf
〇日本植物防除協議会,バチルス ズブチリス水和剤のダクト内投入の開発と普及, 出光興産株式会社 川根太
https://www.jppa.or.jp/archive/pdf/61_08_29.pdf
〇兵庫県立農林水産技術総合センター,ひょうごの農林水産省技術NO.190(2015.8),レタス菌核病に対するコニオチリウム製剤の有効な施用時期
https://hyogo-nourinsuisangc.jp/archive/3-k_seika/hygnogyo/190/07.pdf
〇関東東山病害虫研究会,関東東山病害虫研究会報 第51集(2004),タラロマイセスフラバス水和剤を基軸にしたイチゴ炭疽病,うどんこ病の防除体系
https://www.ktpps.org/pdf/journal/51(2004)_body_09.pdf
〇茨城県,茨城県農業総合センター園芸研究所研究報告第14号43-51.2026,バチルス・ズブチリス水和剤のダクト内投入によるトマト灰色かび病の防除
https://www.ktpps.org/pdf/journal/51(2004)_body_09.pdf
〇SDGs 時代の病害虫管理― 微生物利用による防除の再考 ―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ktpps/69/0/69_1/_pdf/-char/ja