コラム
公開日:2018.12.28
作付面積を増やし、農地を集積して経営規模を拡大できたらどうなるでしょうか?面積当たりの作業労働時間が減り、経費は削減されて、収入が増えて良いことが沢山ありそうです。
実際に規模拡大を考えた場合、山地を開墾するよりも、既に誰かが所有している農地を購入する(もしくは借りる)ことが一般的です。農地を借りる場合には、「農地中間管理機構」という農林水産省が各都道府県に設置する公的機関の利用を検討されることをおススメします。農地中間管理機構は、通称「農地バンク」と呼ばれ、農地の貸し借りの間に入ってくれるので、個人間や不動産業者などを介した契約よりも安心して農地を借りることができます。
上手く利用すると規模拡大に大いに役立つ農地バンクですが、平成26年に設立された比較的新しい機関なので、詳細はよく知らないという方もまだ多いのではないでしょうか。そこで、ここからは農地バンクについて借り手の目線に立った「失敗しないために知っておきたい基礎知識」をお伝えしていきます。
「農地バンク」はその呼び名が示すように”農地の銀行”のようなものです。
農地を貸したい農家さんから農地を借り上げ、農地を借りたい農家さんに借り上げた農地を貸し出します。
まず農地を貸したい人が農地バンクに農地を登録します。この時、機構や市町村、農業委員会などが貸付可能か確認します。荒れ地等は登録できません。
借りたい人は窓口で自由に登録内容をチェックすることができるので、希望に合う農地があれば農地バンクに申込みを行います。窓口は、県ではなく市町村の担当部署や農村委員会等になっていることがほとんどですので、市役所に行ってみましょう。
申し込み後は市町村等が間に入りながら貸し手と借り手で条件交渉を行い、条件が合えば農地バンクが貸し手から農地を借り、借り手に貸し出しを行います。
A.どんな人でも借り手になれるわけではありません。
「人・農地プラン※」に載っている地域の中心経営体や、認定農業者、認定就農者、農業生産法人などに限られます。
※人・農地プラン:平成24年度から農林水産省が開始した事業で、集落や地域ごとに話し合い策定する計画
窓口に農地を貸したい旨を伝える⇒申請⇒貸付可能か確認⇒リストに掲載
【借手】窓口に農地を借りたい旨を伝える⇒申込⇒条件が合えば借りれる
最近ではインターネットでも農地が探せるようになりました。
ただし、農業委員会の許可を得ずに農地のやり取りをすると、農地法に違反する可能性があるため注意が必要です。「全国農地ナビ」に載っている農地を借りたい場合は、取得したい農地の所在地にある窓口に必ず相談するようにしましょう。
農地バンクを利用するメリットとして、個人の農家同士で契約を交わす必要が無いのでトラブルになり難い点があります。
また複数の農地を借りる場合には、農地バンクで土地をまとめてから貸してもらえます。賃料の支払いも農地バンクに一括して支払えばよいので手間が省けて便利です。
さらに賃料は借り手に有利な制度になっており、借り手が見つからない農地は農地バンクに登録されているだけで実際に借りられることはないので、賃料が地域水準を大幅に高くなるようなことはまずありません。
デメリットとしては、契約期間(多くは10年以上)が経過した時点で、借りた農地を継続利用したいと思っても返還を求められた場合は応じなければいけません。ちなみに借りていた農地を購入したいと思った場合、購入に関しては原則として農地バンクは関与しないことにも留意しておきましょう。
また農地バンクの利用実績(貸し出し面積)は減少傾向にあり、その原因として借り手の希望に合うような農地が少なくなってきていることが挙げられます。そのため農地バンクに申し込んだからといって、すぐに希望の農地を借りられる保証はありません。
今後、「耕作放棄地」に対して固定資産税の増額が検討されているので、農地バンクに登録される農地は増えるかもしれません。ただし、そもそもの問題点として耕作放棄地は大型の機械が入らなかったり、獣害に遭い易かったりと規模拡大には不向きなことがあります。では、どうしたらよいのでしょうか。 農林水産省で発表されている平成29年度版の優良事例集を読むと、『農地の集積と規模拡大の成功には、地域農家により話し合いが重ねられ、地域農業の担い手となる経営体に地域の農地を集積しようという合意に達している』という点がポイントになるようです。 このポイントがクリアされていると、市町村の担当者や農業委員会などが農家を個別訪問するなどして、借り手の条件に合うような農地を集められるよう働きかけることも容易になります。信頼できない人に農地を貸すのは誰でも躊躇うものです。貸し手に「この人になら自分の農地を任せてもよい」と認められる農家であることが、農地バンクによる規模拡大の成否を分ける重要な点といえるでしょう。
上手に農地バンクを使えば、規模拡大に向け自分で農地を貸してくれる農家さんを個別に探すよりも、効率良く安心してまとまった農地を借りることができます。農地バンクに登録されている農地は誰でも閲覧できるので、まずは一度見に行って気になる点などを担当者に相談してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
農地中間管理機構による農地集積の状況(平成29年度)、農林水産省.
農地中間管理事業の優良事例集(平成29年度版)、農林水産省 経営局農地政策課、2018.
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。