コラム
公開日:2020.04.17
トマトの一大産地である熊本県八代市。トマト農家である中道さん親子は積極的に環境制御へ取り組む篤農家で、家族と技能実習生5人と共に大玉トマト「りんか409」を栽培しています。
父親の後を継ぎ、農家になることを決めた三男・樹彦さんは、小さいときから2人の兄と共にハウスの手伝いをしたり、台車に乗ってよく遊んでいたとのこと。トマト農家として家族を養ってくれた父親の背中をみて育った樹彦さんは「農業に対しては悪いイメージはなかった。一番近くで見ていたから。自分が農家になって父の後を継ごうと自然と思った」と笑顔で語ってくれました。
今回は、環境制御に熱心な中道さん親子に栽培の取組みや夏の暑さ対策、今後の展望についてインタビューしました!
写真:父親の中道さん(左)、息子の樹彦さん(右)
父親の後を継ぎ、農家になろうと思ったきっかけはなんですか?
<樹彦さん>:2人の兄が企業に就職したので、自然と自分が後を継ごうと思いました。農業に対しては悪いイメージはありませんでしたね。父親の背中を1番近くで見ていたから。
<父>:この辺は昔からいぐさ農家が多かった。だから農業に対して「大変だ。儲からない。」などの悪いイメージをもっている人は少ないと思う。でも、私から息子に「農家を継いでほしい」とは言わなかった。 親の姿を見て、子供が後を継ぐかどうか考えるのだと思います。だから継ぐと言ってもらえてとても嬉しいです。
<樹彦さん>:一度就職しても良いと言われていました。外の世界を見て来ていいよって。だから、まずは全寮制の農業大学に行って、自分なりに外の世界を見てみようと思いました。大学には似たような境遇の人達がたくさん集まっていて、刺激を受けましたね。
農業大学を卒業後、就農して3年が経ちますが、まだまだ難しいです。今は経験を積みながら、父から知識や技術を吸収しています。
環境制御を始めたのはいつからですか?
<父>:5~6年前に環境制御装置「プロファインダー Next80」を導入したのが始まりです。きっかけは、栃木にある(株)誠和のハウスを見に行ったこと。衝撃を受けて帰ってきました。そのときに一緒に見学へ行った何人かで「自分たちも環境制御をやってみよう」と決めたのです。
-どんな点に衝撃を受けたのですか?
<父>:一番は収量の多さと安定性。あとは純粋に「かっこいいな」って思いました。 うちより軒高の高いハウスだったので、見た目もまったく違い圧倒されました。
しかし、実際に環境制御をやってみるとなかなか上手く行かず、積極的に勉強会へ参加していました。息子が就農して1年目の頃にはよく親子で参加していました。衝撃を受けた栃木のハウスに息子も連れて行きましたよ。
<樹彦さん>:最近の夏は暑くて、ハウス内の温度も高くなり作業していられません。
高温対策として遮光カーテンを閉めて温度を調節していたのですが、日陰になるだけで暑さは変わりませんでした。それに、遮光カーテンを閉めると光も遮ってしまうため、トマトが蒸散しなくなる。 光合成量がガクンと下がってしまうのです。
黄変果の症状も出ており、非常に悩まされていました。黄変果は八代市でも問題となっており、対策に苦慮しています。また、玉やけにも悩んでいました。玉やけは黄変果よりもひどい症状で、果実が白くなるため売れません。東からの日射が一番強いときに、ちょうど日が当たる玉が発症していました。なるべく葉をつけておいて、葉で影を作るようにして防いでいたのですが、それでも多少の発症がありました。
<父>:ベトナムの技能実習生たちも「暑いね~」と言って、こまめな休憩を取るようにしていました。そんな時、誠和アグリカルチャの営業の方が来てレディーヒートという遮熱剤を紹介してくれました。
他社の遮熱剤は使ったことがあったのですが、「レディーヒートは熱線(IR)だけを遮る」と言うのです。うっそ~と思ったけど、温度が下がるのなら!と思ってすぐにやってみることにしました。
オランダ製で、向こうでも実績のある会社のものだったから信頼できました。それに、他の農家さんと雲母(うんも)の含有量などを調べてみたら、レディーヒートが一番多かったのです。値段は高いけど、成分が全然違う。だからこれはいいなって思いました。
遮熱剤:レディーヒートⓇ
遮熱剤を使ってどんな効果がありましたか?
<樹彦さん>:レディーヒートを塗ったハウスに入ってびっくり!すぐに違いがわかりました。とても涼しく感じ、実際に温度を測ってみるとハウス内の温度は2度以上も下がっていました。少し暗く感じたのですが、日射量を測定して見ると、ちゃんと光が入っていることがわかりました。
<父>:ハウス内の温度だけではなく果実温も2.5度くらい下がっていましたね。
うちには同じ連棟ハウスが2つあるため、1棟はLSスクリーン(遮光50%)のカーテンを閉めて、もう1棟はレディーヒートの塗布のみでの比較実験をしました。
<父>:遮光カーテンは内部設備なので、熱線がハウス内に入ってしまう。それに比べてレディーヒートはハウスの外に塗布するので、そもそも熱線をハウス内に入れない。 だから効果が高い。レディーヒートを塗布するようになってからは、遮光でカーテンを閉めることがなくなりました。
ハウス内の温度が下がったことで、天窓の開き具合が少なくなり湿度を保てるから、ミストを使うことも少なくなりました。
-当初のお悩みは解決できましたか?
<樹彦さん>:悩んでいた黄変果が激減し、玉やけの発症がなくなりました!
また、遮光カーテンを閉めると光合成量が減って蒸散が止まってしまいますが、レディーヒートは熱線だけを遮り、光合成に必要な光はトマトまでしっかり届くため、蒸散できます。 植物が蒸散することで空気も涼しくなってくれて、まるで天然のクーラーみたいです!
遮熱剤はどのようにして塗るのですか?塗布は大変ですか?
<樹彦さん>:連棟のハウスに遮熱剤を使うのは初めてだったので、最初はラジコンヘリで散布してもらいました。ベトナムの技能実習生たちとみんなで「かっこいいね!」って興奮しながら見ていました。
その翌年には動噴を使って自分たちで塗りました。 難しくないです、けっこう簡単に塗れました。ラジコンヘリのほうがきれいに塗れるけど、お金がかかるので今年も自分たちで塗ろうと思っています。
塗布した遮熱剤は落とすのですか?
<樹彦さん>:4月中旬頃に塗布すると9月中旬頃まで効果が持続します。効果が弱まってくる9月中旬以降に強い雨が降れば自然と流れ落ちるようになっています。
ただ、9月の中旬頃からは光が弱くなってくるので、早くに光がほしいときにはレディークリーンという除去剤を使います。 でもこれ、レディーヒートを使っていない人にもおすすめです。ハウスがすごくきれいになるんですよ!
今までハウスの掃除をしたことがなかったので、こんなに汚れていたのか!ってくらい汚い水が流れ落ちてきました。張り替えをしないハウスの場合、ブラシでこすると傷がついて余計に汚れやすくなってしまいます。レディークリーンは吹き付けるだけなので、ハウスを傷つけずに汚れもしっかり落としてくれます。
除去剤:レディークリーンⓇ
他社の遮熱剤と比較すると価格も高いとのことですが、費用対効果はいかがですか?
<父>:費用対効果は高いと思います。うちにはベトナムからの技能実習生が5人いるのですが、やっぱりハウスの中は熱い。だから遮熱剤を塗るようになってからは「涼しいです♪」と喜んでくれています。作業する人の環境づくりは大切ですよね。
期待していた以上のメリットがありました。 うちは6月20日に収穫が終わってしまいますが、7月中旬頃まで収穫する農家であればもっと効果が期待できる資材だと思います。
今後のテーマはありますか?
<父>:病気対策のため、除湿に力を入れています。今は暖房機の設定と天窓の開く温度の差をギリギリまで近づけて、天窓が開いていても暖房機が回るようにしています。環境制御装置を使っているので簡単です。ハウス内の湿度が80%以上だったら除湿をするように設定しています。
-効果は出ていますか?
<父>:効果はありますね。除湿の機能を使うようになってカビ系の病気がなくなりました。
-樹彦さんが課題に感じていることはなんですか?
<樹彦さん>:土壌病害に悩まされています。ここがテーマですね。あとはこれからロックウール栽培に取り組んでみたいと思っています。いま勉強会に行くとほとんどロックウールの話。見学するハウスもロックウール栽培が多いです。
<父>:ロックウールなら土から離れた栽培になるので、考え方がシンプルになり、コントロールもしやすくなります。 やっぱり土は難しいですよね。私は農業を始めて32年経ちますが、それでもまだまだ難しい。 今は情報が多い分、昔より勉強をしていますよ。勉強会に行ったり、ネットで情報を集めたり、自分の知らない世界を知ることがとても楽しいです。
今後規模の拡大も考えていますか?
<樹彦さん>:そこが悩みどころですね。父とも話しているのですが、面積を広くするのか、今の面積で収量を増やすのか。ここの地域は若手の後継者が多く、空いているハウスが少ないため、面積を増やすとなると新規で建てることになります。僕の周りでも同級生が6人就農しました。 そうなると、収量を倍にしたほうが手元に残るお金は多いのかな~と思ったり、まだ模索しています。
収量の目標はありますか?
<樹彦さん>:目標は反収30トンです。 今は23トンなので、30トン取るためにもまずはロックウールにチャレンジして、どんな樹姿になるのか様子を見たいと思っています。安定して毎年30トンとれるようになりたいです。
今回取材させていただいたのは…
熊本県八代市トマト農家 中道樹彦さん
農業大学卒業後、父親の跡を継ぐため就農。
現在は生育管理を担当し、病気対策や今後の栽培方法について積極的に意見を出している。また、同じく就農した同級生と共に勉強会に通いながら環境制御への知識も深めている。
「父親の背中を見て農家になろうと思った」と笑顔で語る純心な好青年。今後は経営についても学び、法人化も検討していきたいという、将来有望な若手農家だ。
【ハウス情報】:6連棟のハウスが2棟、丸型のビニールハウスを合わせると全部で14反。連棟ハウスへは環境制御装置「プロファインダー Next80」を各1台導入。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
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新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪