コラム
公開日:2022.10.18
埼玉県深谷市で食用バラを栽培するROSELABO(株)の田中さんは、農家、農業女子、経営者として多彩な活動されている。各地の学校で講演活動を行いながら若い世代に向けた農業の魅力発信にも取り組んでおり、最近では農水省の「農業の魅力発信コンソーシアム」のロールモデルにも選ばれた。
ROSELABO(株)では、バラの効能を存分に引き出したオリジナル品種「24(トゥエンティ―フォー)」を始めとする3種類の食用バラ(エディフルフラワー)を、農薬を使用せずに栽培し、レストランや洋菓子店などへ販売。規格外のバラはジャムやシロップに加工し、フラワーロス・ゼロを実現。また、バラから抽出したエキスを使ったオリジナルの化粧品は、「華やかで香り高い!」「農薬を使っていないから安心!」と人気が高く、累計販売数は10万個以上。今回は、食用バラの栽培方法や六次化成功の秘訣、農業の魅力発信についてお話を伺いました。
△ハウス内(食用バラの水耕栽培)
食用バラと鑑賞用のバラの違いを教えてください。
鑑賞用のバラは茎が長くて太い、真っすぐなものが(市場では)高く売れるのですが、食用バラは花びらが商品になるためほとんど剪定をしません。そのため、観賞用と同じ規模で栽培すると食用バラの方が収穫量は多くなります。当社では約1,000坪のハウスで、年間27万輪の収穫量があります。
食用バラの栽培は難しいですか?
食用も鑑賞用も同じで、バラは積算温度が1,000℃になったら1輪咲きます。管理はしやすいのですが、バラの香りに誘われて害虫がつきやすいため、その対策が大変です。一番厄介なのはダニとアブラムシですね。鑑賞用のバラを栽培している農家さんから「沢山農薬をかけているのに(害虫が)いなくならない…」という話を聞きますが、当社では農薬を使わずに栽培しているため、もっと苦労しています。過去には害虫が原因で病気が蔓延し、全滅してしまったこともありました。
―どのように対策するのですか?
早期発見が一番の防除対策です。常日頃から従業員みんなで目を凝らし、見つけ次第駆除しています。地道な作業ですが、農薬を使わずに安心・安全食用バラをお届けしたいので、頑張っています。
栽培しているバラの品種を教えてください
オリジナル品種「24」と「サムライ」「ルージュロワイヤル」の3品種です。それぞれ色や香りが異なり、とても素敵なバラです。
―オリジナル品種はどんなところにこだわって開発されたのですか?
バラが美容に良いことは有名ですが、理論的な根拠が無いと感じていたため、“もっとバラの花びらに含まれている本来の力(効能)を発揮させたい”との思い、花びらに含まれている美容成分が多くなるように交配しました。品種改良の知見をお借りしたバラ農園の園主にも「もっと長く咲くように、と品種改良する人はいるけど、そんなコンセプトで品種改良する人はいないよ!」と驚かれました。
でもこれは、未経験だからこそ(固定観念がなく)気づけた着眼点だったと思います。もともとバラにはビタミンや食物繊維が多く含まれていますが、香りの豊かさや見た目の美しさから、鑑賞用として世界中で長く愛されてきました。だからこそ「食べる」という発想や「その栄養価」に関する情報が少なかったのかもしれません。
△オリジナル品種「24」
食用バラはどんな味ですか?
バラの香りはしますが、あまり味は感じません。もともとエディブルフラワー(食用花)というのは、そのまま食べると苦いので、食べやすく加工したり、油っぽい料理と組み合わることがあります。以前ステーキの横にお口直しとしてバラを添えている飲食店もありました。
当社のバラは洋菓子店への販売が多いです。ケーキの飾りだけではなく、パティシエの方たちがバラを使ったペーストを作ったり、様々なアレンジをしてくれています。当社で栽培したバラが、プロのみなさんの手によって、色々な形に変化していくことがとても嬉しいです。
―今まで食べた中で一番おいしかったものは何ですか?
たくさんあって迷いますが…、モンサンクレールさんとコラボしたバターサンドが美味しかったですね。ROSELABOのオンラインショップでも、母の日限定で販売しました。品種ごとに作ってくれたので、それぞれのバラの香りを楽しむことができ、食べていても見ていても美味しかったです。
色々なコラボ商品を販売されていますが、どのように企画しているのですか?
商品企画メンバーを中心に企画し、私だけではなく社員全員で味をチェックします。人それぞれ価値観が違うので、社員全員が「これなら自信をもって販売できるね!」となったら商品化します。
△ROSELABOオリジナルスキンケア用品
他にも挑戦してみたいアレンジ方法はありますか?
乾燥機で細かく粉末状にして、サプリメントに応用してみたいです。あとは甘いバラを作りたいという野望があります。やはりエディブルフラワーは単体で食べて美味しいわけではないので、桃やイチゴみたいに“バラだけで食べても美味しい”と思ってもらえるような品種を作ってみたいですね。糖度を上げると虫がつきやすくなるため、栽培のハードルが上がることが課題です。
コロナ禍で変化はありましたか?
入学式などのイベントが減り、レストランなどBtoBの売上に大きな打撃を受けました。一方、おうち時間が増えたことで、ボディアイテムやバスアイテム(百貨店へ)の出荷量が増えました。みなさんコロナ禍でストレス抱えられ、バラの香りで癒されたいのだと思います。
オンラインショップ(通販サイト)の売上も伸びましたか?
オンラインショップは2016年頃からあったのですが、コロナ禍でBtoBの売上が激減してしまったことを機に、オンラインショップをリニューアルすることにしました。当時はがむしゃらで記憶がないくらい働きましたね。みんなで商品の魅力を文章にしたり、写真撮影をしたり、一つずつみんなで力を合わせて今の形が完成し、多くの方に購入いただけるようになりました。
△ROSELABOオリジナル ジャム
このような販路は最初から考えていたのですか?
もともとオンラインショップも六次産業も計画していませんでした。バラを食べたいなと思ってこの道を選びましたが、当時はインスタ映えという言葉もない時代。飲食店に営業しても断られる日々で、大量のバラが余っていました。「もったいない、どうにかしたい…」と思い、ジャムに加工したのが六次化の始まりでした。現在当社ではフラワーロスがありません。すべて冷凍保存して使い切っているため、破棄する花はゼロです。
六次産業に挑戦したい農家さんにアドバイスはありますか?
加工場を自分で持たないことです。やはり、加工工場を自分でもってしまうと、多額の経費と工数がかかるうえ、一定のクオリティーがないと販路が狭まってしまいます。私たちは百貨店をメインに全国200店舗の卸先があるのですが、それも品質や工場の衛生管理といった様々な試験クリアしているからこそ出来た販路です。私たちは農作業のプロだけど、ジャムを作るプロもいるので、頼んだほうが絶対美味しいものできる!と思っています。
行動力がすごいですね、その原動力はどこにありますか?
私は子供のころから勉強ができたわけではないので、「天才に勝つために3倍の努力をする」と決めています。凡人だからこそ、天才が休んでいるときも私は行動をしようと思っています。 また、経験してみないとわからないことが多いと思います。私は現場が好きなので、農園に行くのも営業に行くのも、オンラインショップや商品開発、その全てに携わっています。
経営が上手くいく秘訣はありますか?
「自分よりも優秀な人を採用する」と決めています。そうすれば仕事も早く回るし、会社全体の成長も早いからです。自分が尊敬できる人を仲間にすることが新しいことを生み出すきっかけになっていると思います。
各地で講演を行っているとお聞きしましたが、どのような講演ですか?
月に1度、学生向けに『農家の仕事』と『農業の魅力』を伝える講演を行っています。やはり若いうちから農家という職業を知らないと、将来の選択肢に入れることは難しいと思います。私自身も都内で生まれ育ち、周りに農家がいない環境だったので、「もっと早く農業のことを知りたかった!」という思いがありました。若い人たちが農業という仕事を知るきっかけになればと思い、私が農家になったきっかけや、日々の農作業、農家になって感じたことなどを伝えています。
今後、どうしたらもっと若い農家が増えると思いますか?
ロールモデルを作ることが重要だと考えます。農業は長い歴史があるからこそ、成功の形や自分もできそうだと思える身近感が必要です。そのためには異業種とコラボしていくことも大事だと考え、当社ではパティシエさんとのコラボを積極的に行っています。誰もが手軽においしく食べられるスイーツにすることで、農業をもっと身近に感じてもらえるのではないかと思うのです。そうやって次世代へ種まきをしてくことも、農家としての重要なお仕事だと思っています。
…でも。言葉にすることは誰にでもできますよね。「背中で語れるくらい体現する!」これは私がいつも社員みんなに言っていることです。私自身の活動を通して農業の魅力を伝えていきたいと思い、日々活動しています。
田中さんは何をしているときが一番楽しいですか?
バラに関わっているときや社内のメンバーと一緒に集まって企画を考えたり意見交換をしたり、お客さんとファンミーティングで触れ合う時間が一番楽しいです。
最後に、今後の展望を教えてください
農園のフランチャイズ化をしたいと思っています。栽培のノウハウを提供して、栽培した食用バラは当社に納品してもらう。ハウスをもっているけど農業やめようかなと思っている人や、今使っていないハウスを何かに使いたいと思っている方々と、食用バラの栽培をしたいです。すでに具体的なスケジュールも立っているので、これから全国各地にバラ好きな仲間が増えていくことを楽しみにしています。
4連棟のハウスが2棟あり、3種類の食用バラをロックウール栽培で育てている。導入設備は自動潅水装置。無加温ハウスのため、暖かい季節(4月~11月末頃まで)に栽培。農園は基本4人で管理しており、六本木の事務所で働くメンバーも週に1回、深谷市のほ場に赴き一緒に栽培を行っている。20人の少数精鋭で、食用バラの栽培から出荷、商品企画、営業・販売、オンラインショップ(通販サイト)の運営等を行い、徹底した品質管理を維持している。
今回取材させていただいたのは…
埼玉県深谷市 ROSE LABO(株)
代表取締役 田中綾華さん
祖母の影響でバラが好きだった田中さんは、「食べられるバラを栽培したい」と大阪のバラ農園で修業後、2015年に22歳で独立。埼玉県深谷市で農薬を使わない食用バラ(エディフルフラワー)を栽培。一年目で3,000本のバラを枯らしてしまい、危機的状況に陥るも「知識が足りない」と社会人農業大学で栽培方法を学び直し、栽培と同時に学んだ経営力を発揮しながら2年目には2,500万、3年目には1億円以上の売上を達成。固定観念に捕らわれない自由な発想と行動力が成功の源。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪