コラム
公開日:2023.04.07
静岡県は昔からカーネーション栽培が盛んな地域で、大正5年に南伊豆町で温泉熱を利用した温室栽培から始まったと言われています。中でも東伊豆町は県内二大産地の一つです。東伊豆町と河津市だけで県内のおよそ9割の生産量を占めています。
今回は、そんな東伊豆町で長年に渡りカーネーションを栽培する山田カーネーションの3代目園主、山田さんを取材しました。
山田さんは栽培歴30年以上のベテラン農家ですが、カーネーションは連作できないため、毎作の土壌消毒に大変な苦労をされています。そこで、新たな栽培方法確立させるためANS培地(人工培地)を使ったポット栽培に挑戦中です。土耕栽培との違いやポット栽培のメリットとは?
色とりどりのカーネーションが咲いていますが、今人気の色は?
カーネーションには黒以外ほとんどの色があるのですが、今は柔らかいピンク色が人気です。母の日のイメージで赤が多いと思われますが、年間を通して購入されるのはピンク系が多いです。また、カーネーションには「一輪咲き」と「枝咲き」の種類がありますが、最近は一輪咲きのほうが人気です。
カーネーション栽培で大事なことは何ですか?
一番は土づくり、次に苗の状態です。どの作物でも同じですが「苗半作」ということわざの通り、カーネーションの出来は苗の状態次第で作の半分以上が決まってしまいます。全量苗を購入している農家が多いので、苗業者とのコミュニケーションや信頼関係が非常に大切です。
また、暑さが苦手な作物なので、夏場いかに涼しく過ごせるかを気にかけています。
△カーネーションの苗をもつ山田さん
どのような暑さ対策をしていますか?
屋根のビニールを外して、露地の状態にします。そうすると、夜温を下げることができるためカーネーションが休めるようになります。この辺の産地では「雨当て栽培」と呼んでいます。雨に当てることで水分が均一に行き届き生育を揃えることもできます。ただし、雨風に当たってしまうため病害虫が発生しやすくなります。収穫までにしっかり防除すれば、(収穫が始まる)秋の終わりからは農薬の散布を減らすことができます。
― 花も農薬を減らすのですか?
花をもらったら、まずは匂いを嗅ぎたくなりますよね。顔との距離が近づくため、農薬は使い過ぎないように気を付けています。直接口に入れるものではないけど、気を遣ったほうがいいと思っています。
△様々な種類のカーネーション
・母の日(5月中旬)が過ぎたら、改植スタート
・5月中旬~6月中旬に1ヶ月かけて土壌消毒を行う
・6月中旬~7月上旬頃に定植
・8月中旬までに屋根のビニールを外す
・9月下旬~10月上旬頃に咲き始める
・11月頃に小売り販売開始(丈が短いものを使う方が購入)
~翌年の母の日(5月中旬)まで収穫が続く
土づくりではどんなことにこだわっていますか?
雨当て栽培を行うため、水はけが良いことが大事です。そのために良質な堆肥を入れ、団粒構造をしっかり作り、素早く水が浸透するようにしています。これによって発根作用が促されます。施設栽培なのに雨のことを考えた土づくりって、珍しいですよね。土に指を差してみるとわかりますが、柔らかくフカフカです。 カーネーションは連作を嫌うので、栽培が終わったらすべて引き抜いて、土壌を消毒します。この作業が一番大変です。
― それで新しい栽培方法を実験中なのですか?
そうです、土壌消毒軽減のため、人工培地(ANS培地)を使うことも一つの方法と思い実験しています。
なぜ人工培地に挑戦しようと思ったのですか?
カーネーションは過湿も嫌うけど乾燥も嫌います。(株)関東農産のANS培地は通気性がよく、水分を一定に保った状態を長く維持できると知人に紹介してもらった事をきかっけに、使ってみることにしました。試験エリアの栽培方法は、土耕栽培からポット栽培に切り替えました。
△ANS培地
ポット栽培に切り替えてみていかがでしょうか?
ANS培地はとても使いやすく全く問題ないのですが、ポットを使った栽培方法が難しいですね。カーネーションは自立ができないため密植栽培をしますが、その際ネットを使って栽培します。このネットの位置と潅水チューブの穴、ポットの3点(の位置)を合わることが大変でした。夏場は暑さで潅水チューブがすごく伸び、冬になると寒さで縮む。なぜ3点の位置が合わないのか…とても悩み、試行錯誤を繰り返しました。
カーネーションは、トマトやイチゴと違って品種が多く、一つひとつの品種に個性があり、それぞれの栽培方法があります。ANS培地は少しの肥料で生育が変わるため、変化がわかりやすいです。品種に合わせた肥培管理ができたことで、土耕栽培時に比べて収穫量は2倍になりました。まだ上手くいかないこともありますが、新しい挑戦にワクワクしています。
ANS培地を使ったカスミソウ栽培にも挑戦していると聞きました。詳しく教えてください。
ここ東伊豆町は、切り花やカーネーションの古い産地なので、地域振興のためにも新しいことをやりたいと思い、カスミソウ栽培にも挑戦しています。昨年の秋まで一年間、現在農業試験所と合同で試験をしました。今後は普及にも力を入れていきたいです。
なぜカスミソウを選んだのですか?
カスミソウとカーネーションの組み合わせは抜群で、花束にしたらとっても素敵です。また、カスミソウは夏は福島県、冬は和歌山県や九州地方から出荷されます。その隙間の期間に出荷できるのがここ、静岡県東伊豆町です。海洋性の気候で、夏もそれほど暑くはならないし、夏の夜も涼しい。“需要があるのに出荷が少ない時期”が、収益的にも一番いいですよね。まさに「隙間産業」です。
△東伊豆市内
最後に、消費者の方へ一言お願いします!
カーネーションは卒業式や入学式など、人生の節目に関わることがとても多いお花です。私達の花で“人を笑顔にしていきたい”と思っていますので、みなさんよろしくお願いします。
今回取材させていただいたのは…
山田カーネーション 山田さん
3代目園主の山田さんは、静岡県東伊豆町で30年以上カーネーションを栽培するベテラン農家だ。1,200坪の広大な土地に7棟のハウスがある。地元住民の方からは「山田さんのカーネーションは鮮度が良く香りも良い!丁寧で几帳面な山田さんの性格が現れている様だ。」と絶賛されている。広大な敷地には露地栽培用の畑や、小川が流れていたりと自然が溢れており休日には友人たちとBBQを楽しんでいるそうだ。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
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新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪