コラム
公開日:2023.10.20
前回の記事では施設栽培農家の方の新たな販売方法として、キッチンカーを活用するための方法についてご紹介しましたが、営業する上で一番大事なことは“売れる出店場所が確保できるかどうか”です。 今回は、キッチンカーでの営業を成功させるための具体的なノウハウと成功事例について解説します。
立地が良いことが小売業を成功させるための基本的な条件です。キッチンカー(移動販売)は立地が選べるという点が最大のメリットですが、どこにでも出店できるわけではなく、出店場所の管理者に許可を得ることが必要ですし、場所を提供してもらうため出店料が必要な場合がほとんどです。
また、販売する商品が野菜であるという点も考えなければならない要素であり、ランチを提供するキッチンカーとは商圏や顧客層が大きく異なることを考慮する必要があります。
移動販売という括りで考えると集客力のある施設や人出の多い場所が有力は出店場所の候補となります。しかし、ひとくちに移動販売といっても販売する品目やエリアの特性によって候補の種類は限られてくるのが実際のところです。 野菜という販売品目を前提とした場合に候補となる出店場所は、次のような種類が候補となります。
ショッピングモールや大型スーパー、ホームセンター等の商業施設は、集客力のある施設という点で野菜の移動販売の有力な出店場所となります。しかし、店舗によっては契約農家から直接仕入れた野菜を産直品として販売しているケースでは、店内で販売している商品との競合を避けるために出店できない販売品目を定めているケースがあります。
まずは、野菜の移動販売を受け付けているかどうかを商業施設に確認してみることが必要です。
人出の多さという点では駅前も有力な出店場所候補となります。駅から帰宅する際に夕飯の食材として買ってもらうことが期待できます。果物の移動販売業者が駅前で高額な売上を挙げている例などもあり、販売ノウハウがあれば収益を期待できる出店場所候補です。
出店の許可・確認は出店を希望する駅に直接問い合わせる方法のほか、出店場所仲介サービスから見つけることができます。鉄道会社によっては埼玉高速鉄道のようにキッチンカーの出店を公募しているケースもあるので情報収集してみることをおすすめします。
出店料の相場は1日5,000~10,000円程度(定額)、または売上金額の10~15%(歩合)といったところが一般的です。
ひとくちに住宅街といっても都市部と郊外、農村部では事情が異なると考えられます。住宅街のエリアが商圏となる商業施設や幹線道路との接続、人通りなどを十分に調べる必要があります。集合住宅の多い地域や近隣に商業施設の少ない地域では、野菜の販売も期待できます。
一方で、地方の農村部などの過疎傾向の高い地域では、買い物難民といわれる高齢者向けに移動販売車で野菜を届けることは社会的な意義とともにニーズも期待できる可能性があります。出店場所仲介業者の対象となりにくいエリアと考えられるため、出店の許可については自治体に問い合わせてみることが必要です。
イベントといってもさまざまな種類がありますが、地域の食材を使ったイベントなど、食に関連する要素がある場合には野菜の移動販売の出店も十分に考えられます。一般的な野菜と差別化できる品種などの場合、売れ行きが期待できます。
人出が多いといっても、お祭りや花火大会といったイベントで販売する商材として考えた場合、野菜は場違いとなるので、イベントの内容を調べた上で出店が可能かどうかを主催者側に確認してみるとよいでしょう。
移動販売の出店場所としては、人出を期待できる場所としてここまで挙げた種類以外にも考えられます。
しかし、売るものが野菜であるということを前提に慎重に場所選びをすることが重要になってきます。
イベント会場でもイベントの種類が重要なように、観光施設でも遊園地や動物園と地域の自然や特産物を活かした観光地では後者のほうが野菜の販売に結びつく可能性が高いと想定できます。
また、道の駅やサービスエリアなども有力な出店場所候補ですが、既に施設内の販売で産直の野菜を売りにしているケースも多いと考えられるため、出店できる候補は限られてくるでしょう。
これらの点を考慮しながら、売れる出店場所を試行錯誤のなかで見つけ出すことが最も重要なことです。
野菜の移動販売の出店場所を見つける方法は、次のような対象先をあたってみることをおすすめします。
都市部では新型コロナによる飲食事業者の支援や利便性向上、地方では地域活性化や買い物難民解消を目的としてキッチンカーの誘致を行う自治体が増えてきました。新宿区や世田谷区、江戸川区など23区をはじめとし、北海道や仙台、広島など、自治体のホームページを確認するとキッチンカーの開業支援や誘致を行っているところを多数見つけることができます。
まずは、出店を希望する地域の自治体の情報を探してみるとよいでしょう。
移動販売やキッチンカーの組合や協会が全国各地で組織されています。移動販売の開業支援から出店場所のマッチングまで行っています。具体的には次のような組織があります。
・一般社団法人移動販売協会
・一般社団法人催事販売協会
・東日本キッチンカー協会
・東海移動販売組合
・関西移動販売車組合
民間の出店場所仲介サービスも多くの事業者に利用されています。以下のような仲介業者があります。
・Mobicook
・モビマル
・軒先ビジネス
・mellow
・自由市場
・SHOP STOP
・D-Space
・出店情報ナビ
出店候補として可能性のある施設や場所を探す手段は多くありますが、現実的には生産施設を拠点として動ける範囲が限定されてきます。
地方で野菜の移動販売に成功している事例を見ると、都市部でのキッチンカーのイメージとは全く異なり、地域の事情や野菜の品目に合わせて独自に出店場所を開拓しているケースの成功が多く見られます。
まずは、移動可能なエリアのなかでの地域の事情についての情報を収集し、野菜販売に市場性があるかどうかを検討してみることが重要です。
キッチンカーは参入する人が多い反面、廃業・撤退する人も多い業態であるといわれています。売上は出店場所や天候に左右されるため安定せず、継続的に売上を確保できる場所を見つけることがそう簡単ではないことが大きな理由です。車両改造費などの初期投資が回収できないと立ち行かなくなってしまいますが、野菜の移動販売は飲食を伴うキッチンカーと比べて車両にかける費用は少なくて済むため、始める際のハードルは低いといえます。また、農家さんや青果店さんの移動販売は、本業ではなく販売機会を増やすことを目的に行っているケースがほとんどであり、定期的に日にちと場所を決めて営業するというやり方を取っています。
これらの点を踏まえると、自ら生産する農産品の移動販売は車両へ初期投資さえ低く抑えれば、売上を増やすための最も手軽な方法といえます。
▼参考サイト
〇はじめてのキッチンカー
https://foodtruck.co.jp/hajimete/place/
〇グラアティア株式会社
https://www.greendining-chef.com/post/kitchen-car-event
〇”令和4年度「調査・研究事業」キッチンカー(移動販売車)の開業・運営支援マニュアル報告書”
https://www.j-smeca.jp/attach/kenkyu/honbu/r4/kitchencar.pdf
〇一般社団法人移動販売協会
https://idohankyo.com/
〇東日本キッチンカー協会
http://eastjapan2021.galaxy.bindcloud.jp/
〇BrancPort税理士法人
https://hirotax.jp/kitchen_car2/
〇移動販売研究所
https://inuiyuko.com/event_recruitment_information/
ライタープロフィール
【矢射尽春】
宮城県の米どころに住んでいます。調査会社に所属し大手シンクタンクの地方振興プロジェクトに携わるなどの経験から、マーケティング視点の重要性を農業にも広めていきたいと考えています。農協に務めていたこともあるので、ハウス栽培に役立つ情報を広く発信していきます。