コラム
公開日:2019.04.26
雨が期待できない施設栽培ではいかに上手く水やりを行うかで野菜のできが変わってくるといっても過言ではありません。そこで活用したいのが水やりを助けてくれる便利なアイテム、土壌水分計です。
しかし土壌水分計は多種多様な商品が販売されています。選び方を間違うと全く使い物にならずお金の無駄遣いになって後悔することになりかねません。そこでここからは測定したい項目や測定環境から使用場面にぴったりの土壌水分計を選ぶ方法を紹介していきたいと思います。
土壌中にどれくらいの水分が含まれているのか知りたい場合に役立つ土壌水分計。施設栽培では自動潅水システムに組み込まれることもあります。データロガーと一体になっているデジタル式のものが多く、精度は体積含水率を小数点第一位まで表示するものからDRY~WETまでを段階表示し大まかな乾湿状態を示すものまで様々です。
―以下、おすすめの2タイプをご紹介します。―
土壌の誘電率が土壌水分量にほぼ比例することを利用しており、土壌にセンサーを刺して測定した誘電率を土壌水分に換算します。測定方式によってTDR法やADR法などいくつかのタイプがありますが、TDR法は土壌水分を測定すると同時に土壌の電気伝導度(EC)も測定できる優れものです。
高価でかさばるイメージは過去のもので、温度なども同時測定できる安価なハンディタイプの商品も販売さています。一昔前は高精度を誇るADR法土壌水分計も用いられてきましたが、高価でECが測定できず他の土壌水分計の精度が向上してきたので利用されなくなってきています。
※TDR法ハンディ【イメージ図】
こちらも土壌の誘電率を利用した土壌水分計ですが、土壌に刺したり接触させたりしたセンサーから電流を流し、センサー内のコンデンサーに充電される時間を元に土壌水分量を求めます。
他の水分計より安価なため急速に普及が進んでいます。過去には耐久性や精度が悪いと言われてきましたが現在は改良が進み他と遜色無く使うことができます。また温度やECが測定できるセンサーを組み合わせて測定項目を増やした商品もあります。
※キャパシタンス式【イメージ図】
土壌に水があってもその水が土壌に強く吸着していると植物は利用できません。そのような場合には土壌中の水が植物にとって利用しやすいかを知ることのできる「マトリックポテンシャル」という値を測定できる計測器を選びましょう。
―以下、代表的な2タイプを紹介します。―
昔から使われている根強い人気の測定器で土壌にセンサーを刺して使います。水で満たした素焼きの容器を土壌に刺し、水のしみ出し具合を圧力センサーで測定します。農業現場で便利なデータロガーと接続できるデジタル式のものから、家庭の鉢植えにも使えるセンサーを刺すだけの手軽なアナログ式のものまで様々です。値の表示方法も従来から馴染みのあるpFで示してくれるものや、水分状態の適正/乾燥/加湿を色分け表示してくれるものまで様々です。ただし乾燥した土では正確な測定ができないため水やりのタイミングを正確に知ることは難しいという弱点があります。
新しいタイプの土壌水分計でテンシオメーターが苦手な乾いた土壌で正確な値の測定ができます。キャパシタンス式土壌水分計のセンサーを素焼きの板で挟むことで、土壌水分をマトリックポテンシャルに換算表示できるようになりました。土壌が乾いてきた時に的確なタイミングで水やりを行いたい農家さんにはおすすめです。ちなみに現在のところ乾湿どちらでも正確な値を測定できるマトリックポテンシャル計測器はありません。
沢山ありすぎて選ぶのに悩んでしまいそうな土壌水分計。
まずは測定したい項目や測定環境から機種を絞っていき、使用シーンにぴったりの一台を見つけましょう。
▼参考文献
シリーズ「測る」 土壌水分を測定するセンサー、岩田幸良・宮本輝仁・亀山幸司、農研機構 農村工学研究部メールマガジン、93号(2017年12月号)
<http://www.naro.affrc.go.jp/org/nkk/m/93/06-01.pdf>
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。