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炭酸ガス発生装置「燃焼式」と「液化炭酸ガス式」の違いとは?長所と短所をわかりやすく解説!

公開日:2025.08.18

炭酸ガス発生装置とは、農業用ハウスにおいて作物の生長に欠かせない二酸化炭素(CO2)を一定以上の濃度に上げることで、光合成を効果的に促進させて収量を増加させるための装置です。ハウスの規模や作物によって適した方式が異なるため正しい選定が必要です。
そこで、この記事では、炭酸ガス発生装置の主な方式を説明するとともに、方式別に見た適するハウスを紹介します。

1.燃焼式と液化炭酸ガス式の違いとは?

日本の施設園芸分野において、炭酸ガス発生装置は大きく2つの方式があります。

燃焼式

灯油やLPガス(プロパンガス)を酸素と化合(燃焼)させることで、炭酸ガスを得る方式を指します。

長所  

燃焼式の最大の長所は、ランニングコストが安いことです。
例えば、灯油1kgを燃焼させて得られる炭酸ガスの量は2.5kg程度です。
また、灯油の密度は0.8であることが知られています。このため、灯油18リットル当たり配達価格が2280円(2024年全国平均)であることを考えると、灯油で炭酸ガス1kg生産するランニングコストは58円程度と比較的安価です。




短所 

燃焼式の短所は、小規模なハウスに向く小型の機種が少ないことです。
また、メンテナンスを怠ると、不完全燃焼により一酸化炭素が発生し、作物に大きな被害を与えることがあります。特に中古品を入手した場合は使用開始前のバーナー清掃等が不可欠です。







液化炭酸ガス式

液化炭酸ガスが入ったボンベを開栓すると、気化した高純度の二酸化炭素を直接放出する性質を利用することで、炭酸ガスを得る方式を指します。

長所  

液化炭酸ガス式の長所は、構造的に不完全燃焼が起きず、燃焼に伴う熱や水が発生しない点です。




短所 

液化炭酸ガス式の短所は、ランニングコストが高いことです。ボンベで液化炭酸ガスを購入する場合、炭酸ガス1kg生産するランニングコストは120円程度と試算されており、燃焼式より2~3倍コストがかかる計算になります。







以上より、炭酸ガス発生装置の種類別に適したハウスが分かります。

燃焼式は、概ね1000㎡以上の大型ハウスに向くと考えられます。
これに対して、液化炭酸ガス式は、250㎡以下のきわめて小規模ハウスが向いています。なお、ボンベから直接施用するとよいでしょう。

いずれの施用方法も、大気中の炭酸ガス濃度(400ppm)より少し高め(500~700ppm)での施用が経済的であるため、炭酸ガス濃度を正確に計測・制御するセンサーやコントローラーをあわせて導入しましょう。

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2.燃焼式を使った効果的な施用方法

炭酸ガスの「局所施用」とは、株元や株内など株のすぐそばに炭酸ガスを供給することです。 局所施用は、ハウス全体に施用する方法よりも増収効果が高く、炭酸ガス施用効率が優れることが知られています。

さらに、局所施用は株元や条間にチューブやダクト等の資材を設置することが容易であるため、農作業の邪魔になりにくいのもメリットです。
トマトやキュウリなどの背が高い作物の場合、局所施用用のチューブやダクトは、「暖房用とは別のものを使用する」か「暖房用ダクトと併用する場合は中空に設置する」と、光合成が盛んな上位~中位葉の炭酸ガス濃度を高く維持できます。

背が高い作物で暖房用ダクトを併用する場合、ダクト内にエスター線(園芸用品店で購入可能)を吊るし、ダクト先端をエスター線と一緒にパッカー留めすると、生育に応じたダクトの高さ調節ができます。

※燃焼式の炭酸ガス発生装置では、炭酸ガスを多く含む空気の吹出口直径が数十cmある機種が大部分です。このため、直径が細いチューブで局所施用を行うには、別に「濃縮ボックス」が必要なことがあります。




以上この記事では炭酸ガス発生装置の主な方式として燃焼式と液化炭酸ガス式の違い、炭酸ガス発生装置の種類別に適したハウスについて解説しました。
ハウスの規模や施用方法にあわせて、発生方式を選びましょう。

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▼参考
〇環境省,燃料別の二酸化炭素排出量の例
https://www.env.go.jp/council/16pol-ear/y164-04/mat04.pdf
〇厚生労働省「職場のあんぜんサイト」,安全データシート,灯油
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0852.html
〇経済産業省,資源エネルギー庁, 石油製品価格調査 調査の結果
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl007/results.html
〇千葉県,トマト・キュウリにおける炭酸ガス施用の技術指導マニュアル 千葉県・千葉県農林水産技術会議
https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/seikafukyu/documents/03_tomato-cucumber-co2.pdf
〇千葉県,促成イチゴ栽培における効率的な炭酸ガス施用方法
https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/seikafukyu/documents/r5-08-ichigotansangas.pdf
〇農林水産省,トマト栽培における液化炭酸ガスの効果的な施用方法
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/smart_agri_technology/smart_agri_catalog_hinmoku/pdf/smartagri_catalog_shisetsu-8.pdf
〇農研機構, 局所CO2施用技術によりイチゴの増収とCO2施用にかかる燃油使用量の削減を両立できる
https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/karc/2022/karc22_s05.html
〇三重県,[成果情報名]液化炭酸ガス気化方式を用いたCO2局所施用による増収効果
https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000399664.pdf
〇農研機構, 研究の紹介1「イチゴの局所適時CO2施用技術の開発とスマ農実証への展開」
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/P3_karc_naro_news_67.pdf

ライタープロフィール

【石坂晃】
1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。










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