コラム

ビニールハウスの保温対策2024!保温性が高い内張り資材の選び方

公開日:2024.11.15

ビニールハウスの中で冬場に作物を栽培する場合、特に夜温の維持が重要です。
読者の多くを占める農家のみなさまの中には、日々かさむ燃料代の心配をしながら栽培している方も多いと思います。燃料代を減らしながら温度を維持するためは、暖房機やヒートポンプでの「加温」をどうするかも確かに重要です。 しかし、昼間上昇した温度をできるだけ下げない「保温」も「加温」に劣らず重要です。もっと言うと、充分に「加温」するためには、「保温」をしっかりすることが欠かせません。
そこでこの記事では、保温性を示す「熱貫流係数」の解説と保温性が高い資材を3つ紹介します。

1.保温性を示す「熱貫流係数」とは?

昼間のハウスが冬場でも暖かいのは、太陽光による熱エネルギー供給を常に受けているためです。 しかし、日没後は太陽エネルギーの供給を受けなくなるため、ハウス外の気温がハウス内より低い場合、ハウスを密閉していても徐々にハウス内の気温が下がっていきます。言い換えると、ハウス内からハウス外に、被覆資材を通じて熱エネルギーが逃げているのです。

熱貫流係数は、大まかに言うと熱エネルギーの逃げやすさを示す指標です。言い換えると、熱貫流係数が大きい保温資材ほど保温性が悪く、小さいほど保温性が優れています。

2.ハウスの外張り資材別「熱貫流係数」の比較

まず、ハウスの外張りに用いられる代表的な資材の熱貫流係数を整理してみました。

もっとも熱貫流係数が大きい(=保温性が悪い)農業用ポリエチレンと農業用ガラスを比べてみても、熱貫流係数は20%程度の違いしかないことが分かります。言い換えると、農業用ポリエチレンでできたハウスが100リットルの燃油を消費するとした場合、分厚いガラスであっても20リットルの節約にしかならないのです。また、いわゆるビニールハウスに用いられる資材(農ビ、農ポリ、農PO)の熱貫流係数は大差がないのです。

以上の結果から、ハウスの外張りだけでは保温には極めて不十分であることが分かります。

3.ハウスの内張り資材別「熱貫流係数」の比較

▲画像提供:東京インキ




次に、ハウスの内張りに用いられる代表的な保温資材の熱貫流係数を整理してみました。

表1と見比べてみると、もっとも熱が逃げやすい不織布であっても、内張をしない場合より30%程度は熱貫流係数が低くなる点です。つまり、適切な資材がないので内張をしないというよりは、何かで内張り被覆した方が保温にはなるのです。
一方、不織布・農ポリ・農PO・農ビ等のよく使われる被覆資材の間では大きな差がないので、ハウスの保温性を高めるためにはもう一工夫必要であることが分かります。

なお、布団資材とは、「中綿としてポリエステル綿、フェルト地、発泡ポリエチレンなどが用いられ、繊維資材などで3~5層構造にした」資材の総称であり、韓国では15年ほど前からハウスの内張りに一般的に用いられています。

4.熱貫流係数から見た「保温性に優れる資材3選」



「エナジーキーパー」シリーズ 「EK-L」(東京インキ)

▲画像提供:東京インキ




韓国の布団資材は保温性だけを見ると非常に優れていますが、光をほとんど通さないのが欠点です。このため、きわめて寒い日の昼間に被覆したままにすると、作物の生育に悪影響を及ぼすことがあります。また、韓国製布団資材は、資材によっては10mm以上の厚さがあり人力での開閉が難しいこともデメリットになりえます。
この点、エナジーキーパーシリーズ 「EK-L」は、光を30%程度通しながら熱貫流係数3.0を維持しているので、野菜、特に果菜類の保温に最適です。また、夏場の遮光カーテンとしても使用できます。

保温性と光線透過性を両立できる理由は、エナジーキーパーが韓国製布団資材より薄いためであり、その秘密は中綿に通常の繊維よりきわめて細い「ナノファイバー繊維」を入れているためと言えます。

「エコポカプチ」(川上産業)

▲画像提供:川上産業




包装に用いる緩衝材(俗にプチプチ)をハウス保温に用いる試みは2008年頃からありましたが、エコポカプチシリーズは対候性資材を練りこんでいるうえ、一般的な農業用フィルムと同様に光を通す性質があるなど、最初からハウス用に開発された商品です。
また、オプションで防曇剤による水滴落下防止も可能であるほか、専用巻取り資材「マキエース」と組み合わせることで水稲育苗の夜間保温にもよく用いられています。

空気膜ハウス「ふくら~夢」(東罐興産)

▲画像提供:東罐興産




空気膜ハウスとは、専用フィルムを二重に重ねて送風口を付けて展張し、送風機で風を送り込み膨らませることで空気の層を形成し、保温性能を向上させたハウスのことです。
「ふくら~夢」は、2006年頃に商品化されたロングセラーですが、北海道での試験では加温設定温度12℃で対照の慣行ハウスに比べ1~2月で約30%の燃料を節約できるとされています。また、空気膜ハウスを天井部に設置することで、空気膜の振動による「雪落ち効果」も期待できます。
ただし、フィルムを二重に重ねていることにより、慣行ハウスより照度が10~20%低くなるため、光を好む品目は避けるなど栽培品目の選定には注意が必要です。

なお、内張りフィルム自体を二重にして空気膜を作ることで保温性を高めた資材「W快適エアーカーテン(MKVアドバンス)」もあります。

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以上この記事では、みなさまのハウスの暖房代節減対策のお役に立てればと思い「ビニールハウスの保温性やおすすめ保温資材」について解説しました。
この30年で保温資材の種類が非常に多様化してきました。選ぶのに困る状況ですが、適切な資材を選べば暖房代の30%減程度は実現できるものが多く、保温資材の寿命までに採算が取れるものも多くなっています。この記事が燃料費節減対策に保温資材をご検討頂くときの参考になれば幸いです。

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▼参考サイト
〇農林水産省, 温室の保温性向上技術
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/attach/pdf/index-107.pdf
〇千葉大学,NPO植物工場研究会 夏の学校(太陽光型) 栽培環境制御 I 2014年8月4日 10:30‐12:00 古在豊樹(NPO植物工場研究会)
https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900120160/kozai_slide_20140804.pdf
〇農研機構,[成果情報名]高断熱資材はパイプハウスの保温性能向上に有効である
https://www.naro.affrc.go.jp/org/warc/research_results/h23/pdf/05_kougaku/36_0304.pdf
〇YouTubeチャンネルKAMICO, (주)육일 01 다겹보온커튼
https://www.youtube.com/watch?v=UXhZONBnqSY
〇東京インキ,カタログ「EK総合」
https://www.tokyoink.co.jp/product_file/file/ek_sogo.pdf
〇川上産業,カタログ「エコポカプチ」
https://www.putiputi.co.jp/_assets/wp-content/uploads/2020/10/eco-poca-puti.pdf
〇全農,営農経済トピック№347
https://www.zennoh.or.jp/gm/data_migration/wp/wp-content/uploads/2014/09/523ed83535182232c7579a4630776f29.pdf
〇東罐興産(株),カタログ「トーカンふくら~夢」
https://tokan.co.jp/tokankousan/wp/wp-content/uploads/2019/06/1030_%E3%81%B5%E3%81%8F%E3%82%89%E3%83%BC%E3%82%80%E6%94%B9%E8%A8%82_2020.pdf
〇農研機構,研究成果情報,北海道農業研究成果情報,平成20年度,空気膜フィルムハウスの特性および燃料節減効果
https://www.naro.affrc.go.jp/org/harc/seika/h20/09.06/022/main.htm
〇MKVアドバンス,カタログ「W快適エアーカーテン™」
https://mkv-a.co.jp/wp-content/uploads/catalog/23.0920_Wkaiteki%20aircurtain_hi.pdf

ライタープロフィール

【石坂晃】
1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。










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