コラム
公開日:2025.03.06
前編の記事では外国人材受け入れのための技能実習生制度と手続きの流れをご紹介しました。
技能実習生を受け入れることでみなさまの経営を維持させていくためには、「法的責任」を守ることが不可欠です。また、実習生受入を通じて経営を発展していくためには、「心遣い」も必要です。
そこで【後編】の記事では、筆者の体験談を交えながら外国人材を受け入れるための注意点を「法的責任」と「心遣い」にわけてご紹介します。
労働基準法には、労働時間や休日等のほか、労働契約は書面で定めることや割増賃金の規定などがあります。また、最低賃金以上の給与を全額日本円で支払わねばなりません。
このうち、間違いやすい給与割増の事例を具体的に示します。
A県は最低賃金が時給960円なので、B農園は技能実習生の勤務時間を1日8時間・時給1,000円にしています。ある日、仕事が終わらないので、技能実習生に3時間残業を命じたとします。
この日、技能実習生がもらえる賃金は、実は11,000円ではなく11,750円です。
■ 計算方法
8,000円(所定分)+1,000円×3時間×1.25(残業分)=11,750円
また、労働安全衛生法に従う必要があります。
具体的には、受入機関は労働災害を防止するように講ずるほか、定期健康診断を受けさせること、1ヶ月当たり80時間を超える時間外・休日労働をした技能実習生がいる場合は医師による面接指導を受けさせるようにする必要があります。
技能実習生に加入させるべき社会保険は以下のものがあります。
ここでは法人化されていない農家を対象としたものを記しました。
■ 必須であるもの:労災保険、雇用保険、国民健康保険
■ 年齢条件があるもの:国民年金(20歳~)、介護保険(40~64歳)
となっています。
※規模が大きな農業法人などは、事前に社会保険労務士等に相談しましょう。
先に述べたとおり、技能実習生を巡り様々な不祥事例が起きたことを受けて、2017年に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(以下、技能実習法)」が制定されました。
技能実習法での禁止事項のうち、受入機関に関係するものを下に整理しました。
上記は刑罰を定めたものですが、他にも認定取消や事業所名公表などのペナルティも科せられます。
作物や地域によっては、農閑期の技能実習が難しい期間があると思います。
しかし、技能実習生がアルバイトをすることは、認められていません。これは、出入国在留管理庁が「技能実習」で日本にいる外国人に「資格外活動許可」を出すことがないためです。
技能実習生がアルバイトをした場合、受入機関ばかりかアルバイト先まで不法就労させたことになってしまいます。
△画像提供:株式会社神戸物産
2023年から一貫して円安基調で推移していることもあり、特に食料品の価格が高騰しています。
加えて、大半の技能実習生は母国の家族に送金しているので、とかく食費を切り詰めがちです。
また、人間は疲れていると故郷の味を特に求めるものです(海外旅行の後半に和食が食べたくなった方は多いと思います)。さらに、近年急増しているインドネシア人実習生の大部分はイスラム教徒であり、彼らが安心して食べられるハラール食品があるとなおよいでしょう。
以上を解決する手段として、安くてエスニック食材が豊富なスーパーを見つけ、定期的に技能実習生を連れて行ってあげましょう。
筆者は「業務スーパー」をお勧めしています。「業務スーパー」は、全ての都道府県に店舗があり、ベトナムなど東南アジア諸国から輸入した食材やハラール食品も豊富だからです。
技能実習生の円滑な定着を図るために、バーベキューをしたり遊園地に連れて行くなどする受入機関が多いと聞いています。
ここで注意したいのが、すでに技能実習生を受け入れている機関とかけ離れた水準にはしないことです。
例えば、周辺農家が近隣の遊園地に連れていっているのに、みなさまが東京ディズニーランドに連れていくと、周辺農家の技能実習生が強い不満を抱きます。逆の場合も同様です。
そして、この種の話は、地域に住む技能実習生にあっという間に広がります。
それは、例えばベトナムの場合、16~64歳の90%以上がFacebookを利用しているなど、SNS利用が日本と同等以上に盛んだからです。
技能実習生に寄り添い、気持ちよく働いてもらうためには、出身国の言葉や習慣を理解しておくとなおよいでしょう。
最低限の言葉を知るための参考書としては、例えば「指さし会話帳」が有効です。旅行用ではありますが、中国語はもちろん、ベトナム語・インドネシア語・タガログ語(フィリピン語)・カンボジア語・ビルマ語(ミャンマー公用語)版まであります。
さらに、出身国の習慣や社会を理解するためには、明石書店から発行されている「エリア・スタディーズ 〇〇を知るためのXX章」シリーズが有効です。図書館で借りれる場合も多いと思いますので、一読してみるとよいかと思います。
余談ですが、上記に挙げた技能実習生の出身国は、我々日本人が想像するほど暑くありません。
ベトナム北部の月平均最高気温は暑い月でも35℃程度です。暑い国の出身だからと言って暑さに強いわけではないのです。
以上、【後編】の記事では外国人材受け入れのための注意点をまとめました。
次回は、2027年6月までに廃止予定の「技能実習」に代わるビザ「育成就労」について解説します。お楽しみに。
▼参考
〇外国人技能実習機構「技能実習生の安全衛生管理に関する留意点及び安全衛生対策マニュアルについて」, 令和4年12月19日技能実習生安全衛生対策オンラインセミナー
https://www.otit.go.jp/files/user/12%E6%9C%8819%E6%97%A5%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC%E8%B3%87%E6%96%99%E2%91%A0.pdf
〇公益財団法人国際人材協力機構,外国人技能実習生と労働・社会保険Q&A(改訂第8版)
https://www.jitco.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/03/roudou_hoken.pdf
〇厚生労働省,第6章 技能実習生の保護
https://www.mhlw.go.jp/content/001243773.pdf
〇出国在留管理庁, 資格外活動許可について
https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/nyuukokukanri07_00045.html