コラム

高糖度トマトとは?【厳選】おすすめ品種と栽培方法のポイントをご紹介!

公開日:2025.04.17

「高糖度トマト」は、その名のとおり、一般的なトマトと比較して糖度が高く、フルーツにも似た強い甘みが特徴です。近年、消費者の健康志向や食の多様化を背景に、高糖度トマトは付加価値の高い農産物として、生産者や消費者、小売店から注目を集めています。 本記事では、今後ますます需要が高まると予想される高糖度トマトについて、安定して生産するための栽培ポイントや、栽培におすすめの品種を厳選してご紹介していきます。

1.高糖度トマトとは?高い付加価値を望める理由

高糖度トマトには明確な定義や基準がありません。糖度8度以上のものを「高糖度トマト」として、販売していることが多いようです。「糖度8度以上」とは、一般的なイチゴと同じくらいの糖度です。
店頭では、「フルーツトマト」という名前でよく見かけます。ただし、「フルーツトマト」は品種名ではなく、トマト中の水分を極力抑えて完熟させ、糖度や酸度を高めたものの総称です。

高糖度トマトの中には、生産者が栽培方法を工夫するなどしてブランド化した結果、一般的なトマトと比べて、スーパーなどでの販売単価を上げているトマトもあります。静岡県産の高糖度トマト「アメーラ®」もその一つです。「アメーラ®」は、スーパーや百貨店で青果物の仕入れを担当しているバイヤーから高い評価を得ています。

2017年に日本政策金融金庫が実施した、トマトの消費動向に関する調査でも、半数以上の消費者が「一般的なトマトより割高でも高糖度トマトを購入してみたい」と回答しています。この調査結果からも、消費者の高糖度トマトに対する期待の高さがうかがえます。

高糖度トマトの栽培は、一般的なトマトと比べて高度な栽培技術や管理が必要となりますが、その分、高い販売単価が期待できるため、農業経営の安定化生産者の所得向上につながります。
消費者のニーズに応えながら、農業経営の新たな可能性を切り開く、魅力的な選択肢の1つと言えるでしょう。

2.高糖度トマトの栽培のポイント

高糖度トマトのおいしさに最も寄与する成分は、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)といった糖です。
トマトは本来、糖を果実中に積極的に蓄える能力はありません。トマトの糖度を高めるには、次のことが必要となります。



上述した(1)では、灌水(かんすい)量の調節などによって、根域の含水率を低レベルで維持する処理が必要です。与える水の量を管理するには、土壌水分センサーなどを利用するのが便利です。また、遮根シートや防根透水シートを使って根域を制限すれば、土壌水分を適切に把握できます。もっとも、水はけの良い土壌で栽培することが前提条件になります。
※土を使用して育てる「土耕栽培」では主に、灌水量の制限による水分ストレスが付与されています。

一方、上述の(2)では、高濃度培養液の利用によって、根域の肥料濃度を高める処理が必要です。これまでの研究では、トマトに高濃度培養液を与えることにより、葉から果実への光合成産物の転流・分配が促進されることや、果実内で糖代謝酵素の活性が高まることが報告されています。
※土を使わずに、トマトの成長に必要な栄養素を処方した培養液によって栽培する「養液栽培」では、水分ストレスの付与とともに、高濃度培養液を用いて果実中の糖度を高める処理を施します。

高糖度トマトは、糖の濃度が大幅に増加する代わりに、果実の肥大が一般的なトマトと比べて抑制されます。その結果、高糖度トマトの果実は、一般的なトマトよりも小玉化します。(サイズが小さくなります)

高糖度トマトの栽培には、1段果房※から3段果房までを収穫対象とする低段栽培が適しています。これは、多段栽培と比べて、低段栽培では、果実の糖度や果房間の果重のばらつきが少ないからです。ただし、通常の2倍~5倍の栽植密度(単位面積あたりの、植え付けた作物の個体数)と多作付けによって、年間の収穫対象果房数を確保する必要があります。

※果房とは、果実が房状に実る部分のこと

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3.厳選!栽培におすすめの高糖度トマト品種3選

「現在、日本で生産されるトマトの品種は120種以上あるともいわれていますが、おいしい高糖度トマトを作るためには品質選びが重要です。高糖度トマトの品種を選ぶ際には、栽培および品質の安定性や、消費者の嗜好(しこう)などから、次に示すことが重要になります。

品種選びのポイント💡 🍅裂果(果実が熟して割れてしまうこと)の発生が少ない品種を選ぶ
🍅病害虫に対して耐病性、抵抗性のある品種を選ぶ
🍅収量が多い品種を選ぶ
🍅果実が軟化しにくく、着色が良い品種を選ぶ
🍅果皮の色が鮮やかな品種を選ぶ
🍅食味(食べたときの味わい)が良い品種を選ぶ



以上のポイントを踏まえ、ここからはハウス栽培におすすめの高糖度トマトの品種とその特徴をご紹介します。

千果(ちか)

ミニトマト(チェリートマト)。果皮の色は、鮮やかな赤色で、美しい光沢がある。果重は15g~20g。果形はきれいな球形で、果ぞろいがよい。栽培しやすく、異常主茎(茎の中心が幅広くなって穴が開くこと。メガネとも呼ばれる)が少ない。トマトモザイクウイルスや萎(い)ちょう病などに対して強い。
緻密な肉質であるため、食感も楽しめる。糖度が高く、食味が特に優れている。

フルティカ

果重は、40g~50g程度の中玉トマト(ミディトマト)。裂果が少ない。比較的栽培しやすい。草勢(茎葉が伸長する勢力)が強く、吸肥力(養分を吸収する力)が持続するため、長期栽培も可能。トマトモザイクウイルス、葉かび病や斑点病などに耐性がある。
皮は薄くて口に残りにくく、かんでも中身の飛び出しが少ない。なめらかな果肉。フルーツのような甘さが特徴である。

シンディースイート®

果重は40g程度。裂果が少ない品種である。トマトモザイクウイルスや斑点病などに対して抵抗性がある。色鮮やかで、甘さと酸味とのバランスが良い。食味が良く、安定した人気がある中玉トマト。

消費者が生鮮トマトを購入する際、甘さは重要なポイントになっています。
高糖度トマトは、その優れた食味が消費者に支持され、トマトの新たなカテゴリーを築くまでになりました。「甘くておいしいトマト」としてのステイタスは維持され、今後も安定した消費需要が期待できます。

トマト栽培技術の専門家によれば、高糖度トマトは同じシステムで作っても、生産者によって味が違うとのことです。高糖度トマトは、作り手の性格が反映されるといっても過言ではありません。
他方で、高糖度トマトの新たな販路の開拓に取り組まれている生産者の方もいます。ふるさと納税の返礼品、サブスク型の通販(定期便)、いちご狩りならぬ“トマト狩り”、駅構内での自動販売機の設置など、さまざまな販売形態があります。
この記事を読んで、「我こそは!」と思われた方は、高糖度トマトの栽培にチャレンジされてみてはいかがでしょうか。

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▼参考
〇川城英夫編. 新野菜つくりの実際 : 誰でもできる露地・トンネル・無加温ハウス栽培. 果菜1. 第2版, 農山漁村文化協会, 2023.
〇大石直記. おいしいトマトの栽培法 : 高糖度トマトの周年生産を目指して(第1回)高糖度トマトとは…. 園芸新知識タキイ最前線 : 農業人へ信頼のタネを届ける情報誌. 2013, vol. 32, p. 53-56.
〇大石直記. おいしいトマトの栽培法 : 高糖度トマトの周年生産を目指して(第2回)おいしいトマト作りのメカニズム. 園芸新知識タキイ最前線 : 農業人へ信頼のタネを届ける情報誌. 2014, vol. 33, p. 59-62.
〇大石直記. おいしいトマトの栽培法 : 高糖度トマトの周年生産を目指して(第3回)おいしいトマト作りの栽培方式. 園芸新知識タキイ最前線 : 農業人へ信頼のタネを届ける情報誌. 2014, vol. 34, p. 59-62.
〇大石直記. おいしいトマトの栽培法 : 高糖度トマトの周年生産を目指して(最終回)おいしいトマトにこれから必要なこと. 園芸新知識タキイ最前線 : 農業人へ信頼のタネを届ける情報誌. 2015, vol. 40, p. 61-64.
〇静岡県広報室. 静岡こだわりの味 : 高糖度トマト. Myしずおか : 静岡県総合情報誌. 2001, vol. 10, p. 19-20.
〇農林水産省大臣官房. おいしい夏野菜の代表格 「トマト」の種類と見分け方. aff. 2017, vol. 48, no. 8, p. 8-9.
〇「アメーラ」酸味・うま味熟す バイヤー調査 トマト ネーミング高評価で首位. 日経MJ(流通新聞). 2022-04-13.
“〇“生鮮トマト購入の際のポイント「鮮度」と「価格」~新品種、新ブランドトマトを「割高でも購入してみたい」が4割弱~<平成29年度上半期消費者動向調査>”. 日本政策金融公庫. 2017-09-21.
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_170921a.pdf, (参照 2025-04-06).”
“〇杵渕純平. “野菜価格上がらぬ事情 20年で3割高、果物2倍と広がる差 価格は語る”. 日本経済新聞. 2024-05-08, 日本経済新聞電子版.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB150HX0V10C24A4000000/, (参照 2025-04-06).”
“〇杉山麻衣子. “トマトが高機能サプリに 彩りやギャバ成分で単価上昇”. 日本経済新聞. 2022-05-18, 日本経済新聞電子版.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC029TW0S2A500C2000000/, (参照 2025-04-06).”
“〇タキイ種苗Webサイト. “千果”.
https://www.takii.co.jp/CGI/tsk/shohin/shohin.cgi?breed_seq=00000576, (参照 2025-04-06).”
“〇タキイ種苗Webサイト. “フルティカ”.
https://www.takii.co.jp/CGI/tsk/shohin/shohin.cgi?breed_seq=00000559, (参照 2025-04-06).”
“〇サカタのタネ 園芸通信. “中玉トマト シンディースイート(R)”.
https://sakata-tsushin.com/oyakudachi/directory/vegetable/004642.html, (参照 2025-04-06).”

ライタープロフィール

【清原 筆養父】
ライター・翻訳家・一級知的財産管理技能士の三刀流。農学修士。野菜(特に、小松菜、豆類、山芋)が大好き。農産物の栽培・加工・包装、農業資材、園芸用品、肥料、農薬、農機具などに関する技術・特許調査・分析、技術・法律文書作成、翻訳などの経験がある。アグリテックやフードテック、テロワールなどに注目している。








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