コラム
公開日:2019.10.30
新たにイチゴの栽培に取り組もうと思った場合、まず最初に決めなくてはいけないのが栽培方法です。品種の選定もさることながら、栽培方法によって栽培全体の構造が決まるのでその選択はとても重要になります。
イチゴの栽培方法は露地での土耕栽培や石垣栽培、ビニールハウスなど施設内での土耕栽培や養液栽培、植物工場など様々です。何となく比較しているだけでは栽培方法が多すぎて、いつまでたっても栽培方法が決まらないということになりかねません。
そこでここからは栽培方法の選択に役立つよう、代表的なイチゴの栽培方法についてそれぞれの特徴を紹介していきたいと思います。
ビニールハウスやガラス室など施設内で一般的な土耕栽培を行う方法です。
施設栽培の中では費用が低いことが特徴です。一方で摘果やランナー取り、収穫などの作業姿勢が低く腰への負担がかかり労力が大きいことが難点です。養液栽培に比べて栽培環境のコントロールも難しいといえます。新規で始める場合には土づくりを通して味にこだわりたい、有機栽培にチャレンジしたいなど並々ならぬ思い入れがないと難しいかもしれません。
養液栽培の中でも土壌やヤシガラ、ロックウールなどの固形培地を用いた栽培方法です。
土耕栽培に比べると初期コストがかかり、寒い時期に根圏環境を加温するなどランニングコストもかかります。一方で水や肥料のコントロールが容易で高収量が望めます。また多くの場合は胸程の高さに長いプランターのような栽培ベッドのある高設ベンチで栽培するので作業の労力も少なくて済みます。現在の主流な栽培方法のため就農支援や栽培マニュアルが豊富で、収益化しやすく初心者でも取り組みやすい方法です。
養液栽培の中でも培地を用いない栽培方法です。
養液土耕・固形培地耕と同様に土耕栽培より高収量が望め、労力も少なく済みます。また土壌や培地のように根と養液の間に緩衝となるものが何も無いので追肥などが効きやすく根圏環境をより細かくコントロールできます。その反面、土壌病害には細心の注意を払う必要があり、一度発生すると養液を通じあっという間に広がってしまうという難点があります。従来のイチゴ農家が土耕栽培から高設ベンチ栽培を導入していく際に土耕栽培で培った経験を活かせないという理由からあまり普及は進んでいません。
露地の土耕栽培や石垣栽培は高品質のイチゴを大量に栽培することが難しいので、経営の面でイチゴをメイン作物とする場合には避けた方がよいでしょう。植物工場は葉物が主流でしたが近年、人工光を利用する完全制御植物工場用のいちご栽培設備を栽培マニュアルとセットで日清紡が販売を始めました。億単位の初期投資が可能なら挑戦してみるのもありです。
イチゴの栽培は様々ですが基本は施設栽培です。その中でも低リスクですぐに経営を軌道に乗せたいなら培地を使った養液栽培、味や減農薬などに拘りたいなら土耕栽培など、自分が取り組みたいスタイルに合った栽培方法を選びましょう。
▼参考サイト
●ニュースリリース 完全制御型植物工場用イチゴ栽培設備の販売開始、ノウハウも提供~ 栽培情報をビッグデータ化して、植物工場のスマートファクトリー化も~、日清紡ホールディングス(株)、2017.
<https://www.nisshinbo.co.jp/news/news20170809_1631.html>
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。