コラム
公開日:2026.06.08

花き類の中でも、バラは特に夏場の高温対策が重要な品目です。ここ10年は毎年厳しい暑さが続いているため、高温対策は欠かせないものになっています。
その理由の一つは、バラ栽培ではパイプハウスではなく、鉄骨ハウスや温室を使用することが多く、減価償却費が他の花き類より高額になりやすいためです。高温期の採花数や出荷数の減少は、他の花き類よりも農家経営に大きく影響します。
また、バラの葉が形成される時期の温度環境によって光合成能力が変化するため、真夏だけでなく春~初夏の対策も重要です。
そこで本記事では、バラ栽培における高温障害を解説するとともに、遮光・夜間冷房・炭酸ガス施用といった暑さ対策や、実際の成功事例を紹介します。

バラ栽培の高温障害は、主に高温自体で葉や花に障害が発生するものと、同化養分(光合成でつくられる栄養分)の不足(≒光合成効率の低下)により花が小型化したり、茎が短くなるものに大別されます。
以下、それぞれの具体例を簡単に説明します。
強い日射を受けたバラの葉は、葉先を中心に褐変して枯れる「葉焼け症状」が起きます。こうなると光合成効率がますます低下するほか、病害を誘発しやすくなります。
また、白バラの代表的品種「アバランチェ」では、採花前後の高温により花弁がオレンジ色に変色し、商品価値を大きく損ねることが知られています。
バラは、夏場には茎が短くなったり、花が小型化するため商品価値が大きく減少します。これらは、温度が高すぎて光合成量に占める呼吸量が多くなるために同化養分が不足することで起きます。
農研機構花き研究所では、バラの光合成に関する研究が進められており、以下のような知見が明らかになっています。
◆ 高温下(昼間30℃/夜間25℃)で育った葉は、展葉40日後までに光合成能力が最大時より約30%低下する。一方、低温下(昼間20℃/夜間15℃)で育った葉は、展葉40日後まで高い光合成能力を維持できる。
◆ 平均温度22℃で育った葉では、炭酸ガス濃度が大気水準の場合、25℃で最も光合成能力が高くなる。一方、高炭酸ガス濃度(約1,000ppm)では、30℃で最も高くなる。
◆ 高温下で生育した葉であっても、高炭酸ガス濃度であれば、30~40℃でも低温下で生育した葉と同程度の光合成能力を維持できる。
◆ 低温下で育った葉を持つ株は、高温下で育った葉を持つ株よりも、採花枝の到達日数が短く、切り花品質も優れる。
つまり、夏場にできるだけ葉の温度環境を良好に保ち、「できるだけ低温で葉を育てること」と、「高温期でも光合成能力を落とさないこと」が、採花本数や切り花品質の維持、さらには秋以降の収量・品質向上につながると考えられます。
バラの高温対策には、遮光で強い日射を防ぐこと、夜間冷房や日中の炭酸ガス局所施用で葉の光合成能力をできるだけ維持させる方法があります。 具体的な方法をみていきましょう。

△イメージ
遮光の方法は、暖房用カーテンを使用した内張り遮光、外張り遮光ネットの利用、塗布剤(遮光剤)の塗布に大別されます。
内張り遮光は、暖房用のカーテンをそのまま利用できるため、比較的導入しやすい方法です。ただし、内張り資材とハウスフィルム間で暖められた“資材由来の熱”が夜間の温度を下げにくくするため、注意が必要です。
外張り遮光ネットは、単棟型ビニールハウスでも施工でき、ハウス内への熱の侵入を抑えられるため、効果が高い点がメリットです。新たな設備投資(10a当たり40~80万円)が必要となります。
塗布剤による遮光は、5月上旬に行うのが一般的です。遮光開始が遅れると、高温環境で形成された葉の光合成能力が低下しやすくなります。そのため、春~初夏の段階から対策を始めることが重要です。塗布剤によっては、専用の除去材を用いて塗布剤を落とす必要があります。
なお、塗布剤による遮光は、近年のドローンの普及により改めて注目されています。
最近では、ドローン塗布専用の遮光剤「ファインシェードスカイ」が上市されたり、ドローンを持っていない農家向けの遮光剤・遮熱剤の散布サービスもあります。
※遮光剤を使用する場合は、作物の品種や栽培時期によって適切な遮光率が異なるため、事前に確認して使用してください。

△画像提供:アキレス株式会社

△イメージ
バラは最低温度18℃程度で管理する必要があることから、近年は燃油代節減のために多くの施設でヒートポンプが導入されています。 このヒートポンプを夏期(梅雨明け~9月)の夜間冷房に使用することで、花の小型化や短茎化を防ぐことができます。
ただし、終夜冷房すると電気代が高額になるため、日没からの4時間または深夜から日の出まで4時間冷房することで、電気代を半分程度に減らしつつ、終夜運転と変わらない切り花品質を維持できます。
なお、冷房利用時には、湿度上昇による病害発生を防ぐため、冷房終了後は早めに換気してください。日の出後に速やかに換気するためには、自動換気装置にタイマーを組み込むのがお勧めです。

△イメージ
バラ栽培は、主にロックウール等の養液栽培で行われてきたため、土からの炭酸ガス供給が期待できません。よって、冬場には炭酸ガス施用が早くから実用化されてきました。
先述したとおり、高温下で生育した葉であっても炭酸ガス施用により光合成能力が高まるため、夏場にも炭酸ガスの施用は有効です。しかし、夏期の日中は施設を換気しているため、施設全体に炭酸ガスを施用する方法は経済的ではありません。
そこで、灯油式炭酸ガス発生機を用い、ベンチ下にダクトを配管し、炭酸ガス濃度が420ppm以下になると発生機が作動する方式が有望と考えられます。

最後に、これまで紹介した技術を組み合わせて、バラの暑さ対策に成功している農家事例を紹介します。
遮熱剤の塗布は4月下旬と7月中旬、夜間冷房は6~9月に20℃に設定し、20時~翌5時まで行いました。その結果、5~10月の累計採花本数が33%増加しました。
また、8月の切り花長は約15cm、切り花重量は約10g、茎径は約1mm増加しました。
処理に伴い、遮熱剤が17.3万円/10a、夜間冷房に伴う電気代が24.4万円/10aかかりましたが、それでも収益性は改善しました。
ロックウール栽培において、6月下旬から9月中旬まで株元・根域をスポットクーラー(2.2Kw 2馬力)を用いて20℃設定で冷却したところ、処理時間帯(昼間、夜間、全日)に関わらず、無処理より切り花収量が18~25%増加し、切り花の品質も同等でした。
また、夜間冷却処理では、電気代や冷風ダクト用資材費などが33.4万円かかりましたが、収穫本数増加により販売額が43万円増加したため、10a当たり約10万円の所得が増加しました。
以上、本記事では、バラ栽培における高温障害を簡単に説明し、対策技術として遮光・ヒートポンプによる夜間冷房・炭酸ガス施用を解説した後、高温対策に成功した事例を紹介しました。
バラは、12月(クリスマス)や3月(卒業・送別シーズン)が需要のピークですが、盆や秋の彼岸時期にも根強い需要があります。
初夏までに遮光や夜間冷房を開始することで、盆や秋の需要に向けた収量が増え、コストを取り返すだけの収益が得られることが期待できます。近年は猛暑が常態化していますので、この時期に収量が伸び悩んでおられる方は、ぜひ早めの導入を検討してみてください。
▼参考文献
〇さいたまの花普及促進協議会「バラ栽培における 遮熱塗料を利用した高温障害対策マニュアル」,2021
http://park10.wakwak.com/~sai-hana29/033innovation/r02manual/R02_B7.pdf
〇犬伏加恵・山内雄太・上田浩史・保富正行・二村幹雄「白色バラ‘アバランチェ’の高温期の花色変化における発生条件の解明と対策」,2024
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/23/1/23_37/_pdf/-char/ja
〇牛尾亜由子「バラ同化専用枝葉の光合成能力の発達と維持に関する研究」,2008
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/naro-se/NIFS08-03.pdf
〇神奈川県農業技術センターほか「バラ株元加温システム導入による生産性・品質および省エネルギー効果」,2012
https://www.naro.go.jp/laboratory/carc/kenkyu_koryu/files/kantoseika01007.pdf
〇広島県立総合技術研究所農業技術センター「高温期の夜間短時間冷房によるバラの切り花生産」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/kihon_sisin/attach/pdf/sisin2-3-3-1.pdf
〇渡辺寛之「バラ栽培へのCO2施用に関する研究」,1997
https://www.pref.nara.lg.jp/documents/7616/56-0125.pdf
〇奥村義秀・吉田龍博・新井和俊「バラ切り花栽培の夏季高温期における CO2 施用と培養液管理が収量・品質に及ぼす影響」,2019
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/329805.pdf
〇静岡県経済産業部「農畜産業における 暑さ対策事例集」,2025
https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/056/749/atsusataisaku4.pdf
〇栃木県農業試験場「夏季におけるバラの株元・根域冷却処理が収益性向上に及ぼす影響」,2021
https://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/nousi/seikasyu/seika39/seika_hu8bara.pdf
〇静岡県「バラ光環境制御技術実証マニュアル(夏季の塗布剤散布)」,2025
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kaki/flower/attach/pdf/f_japanflower-269.pdf
▼参考サイト
〇アキレス株式会社「ドローン散布専用遮光剤ファインシェードスカイ」
https://www.achilles.jp/product/agriculture/horticulture/fine-shade-sky/
〇株式会社オプティム「ドローン遮光・遮熱剤散布AXサービス」
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/shading-agent-spray/