コラム
公開日:2026.08.06

農業用ハウスでは、温度や湿度、炭酸ガス濃度などを適切に管理するため、「換気」が重要な役割を果たしています。換気には様々な方法がありますが、近年注目を集めている技術の一つにダクトを利用した「外気導入システム」があります。
外気導入システムは、ハウス内へ強制的に新鮮な空気を送り込むことで、高温対策や湿度低減による病害対策、炭酸ガス不足の改善、さらには作業環境の改善などの効果が期待できる技術です。
この記事では、農業用ハウスの換気がどのように発達し、近年その重要性が増している理由を簡単にふれた後、外気導入システムの仕組みや効果を説明し、現在市販されているシステムをご紹介します。
目次

農業用ビニールの市販は1953年頃から始まりました。それまでの被覆資材であった油紙と比べてガラスに近い保温性を持っていたため、短期間で急速に普及し、今日の施設園芸の基礎となりました。
ところが、市販後まもなく“換気をしないと温度が上がりすぎる”ということが問題になりました。
例えば、換気が不十分だと3月の晴天日では外気との温度差が20℃になることや、冬期温暖な沖縄では換気をしないビニールハウスは真冬でも45℃に上がることがビニールハウス普及後10年ほどで指摘されるようになりました。
これを防ぐため、最初は出入口やサイドを手で開閉して自然換気していたのですが、それでは温度が十分に下がらないので、1965年頃から換気扇(固定ファン)が導入されるようになりました。
研究上でも、「170㎡のハウス妻面に換気扇を1台設置する場合は吸気口の面積を1.6㎡以上にすると、外気温近くまで温度が下がる」ことが、奈良県の研究(1968)で明らかになるなど、施設園芸での送風ファン利用が普及していきました。
一方、1960年代からは、不十分な換気によって施設内の炭酸ガス濃度が大幅に低下することが指摘されていました。
しかし、愛媛県での研究(1987)により、実際の促成トマトハウスで、「葉が繁茂してハウス内が込み合った状態(トマトの葉面積指数が3.5以上)では、固定ファンが設置されているハウス内でも炭酸ガス濃度が不足する場所が出てくる」ことが明らかとなり、後に炭酸ガス施用技術へと発展していきました。
以上のように、農業用ハウスにおける換気の歴史は、“研究で課題を提起されて10~20年後に実際の解決策が生み出される“ということを繰り返して発展してきたと言えます。

近年、ハウス換気の重要性が見直されている背景の一つに、病害虫管理の難化があると考えられます。
例えば、トマト黄化葉巻病はタバココナジラミによって媒介されます。黄化葉巻病が日本で初めて確認されたのは1996年であり、2002年の総説ではハウス側窓部からの侵入が多いので、換気部への防虫ネット設置が有効とされています。
防虫ネットが当面の生産を維持するうえで大きな役割を果たしたのは事実ですが、防虫ネットの設置が特に自然換気での通風を妨げるようになりました。
例えば、2005年の研究では、「側面だけでなく天井まで防虫ネットにした場合でも、繊維が太い0.75mm目合いのネットでは気温が外気より5℃以上高くなる」ことが明らかになっています。
一方、冬場の農業用ハウスでは、湿度が高いので病害が起きやすいことが以前より問題視されていました。
そこで、徳島県での研究(1998)で「温風暖房機によりダクトを通して送風のみを行うと、キュウリべと病の発生が大幅に抑制される」ことが明らかになりました。暖房機のファンやダクトが換気にも使えることが「発見」された興味深い研究と言えます。

以上を前提に、主な換気システムと外気導入システムを以下の表に整理しました。

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・ハウス内温度の上昇抑制
・湿度ムラの改善による病害発生リスクの低減
・炭酸ガス不足の緩和
・作業者の暑熱環境の改善
自然換気は安価である一方、換気の成否は環境条件に大きく依存する特徴があります。
手動やモーター開閉方式では、ハウス外の風速が小さいと外気導入の効果が少ない欠点があります。
また、温度によって自動的に換気窓を開閉する形状記憶合金式では、ハウス内温度が低いと換気窓が開かないため、必要なタイミングで外気を導入できない場合があります。
強制換気のうち、従来からある固定ファン方式は、背丈が高い作物が繁茂したハウスでは換気扇から離れた位置の換気が十分にできないのが欠点です。
これらの従来型の外気導入システムの欠点を解消できるのが、今からご紹介する「ダクトファン」方式や「暖房機ファン」方式です。
ハウス入口付近にファンを置いて比較的涼しい外気を導入し、ダクトを通じてハウス各所に空気を配給する方式です。
ハウス入口付近に専用のファンを設置する必要があり、施設によっては複数台を導入しなければならないため、やや割高です。反面、構造が簡単で1台のファンが故障したくらいではハウス全体の外気導入に影響しにくいのが長所と言えます。
ハウス温風暖房機にもともと備わっているファンで風を起こし、ダクトを通じてハウス各所に空気を配給する方式です。
夏場には暖房機を比較的涼しい外気を取り込めるようにする必要があるので、中央部に暖房機を設置しているハウスでは、導入が難しい場合があります。
反面、施設園芸農家が使い慣れた暖房機をそのまま転用でき、初期費用が少ないのが長所と言えます。

△画像提供:(株)誠和アグリカルチャ
「アウトサイダー」は、ダクトファン方式の外気導入システムです。
ファンは、携帯で持ち運ぶにはやや重い(約9.2kg) 反面、出力300~400Wと大型で送風能力自体は高いです。このことにより、1台で最大330㎡のハウスの換気を行うことができます。いちご栽培であれば、育苗用ハウスに合ったサイズと言えます。

△画像提供:フルタ電機(株)
「プッシュエア」も、「アウトサイダー」同様、ダクトファン方式の外気導入システムです。
ファンは、出力70Wと小型ですが、持ち運びに便利な大きさです。また、出力が小さい分、商用電源以外にポータブル電源と連結することで4時間以上運転が可能であり、内蔵タイマーが付いているなど付加機能が充実しています。

△画像提供:株式会社大仙
大仙の外気導入システムは暖房機を活用する方式で商品化されている数少ないシステムです。
専用の環境制御盤を備えており、ハウス内外の環境条件に応じて外窓・内窓の開度を調整します。また、暖房機に接続されたダクトを介して外気を取り込むため、外気の炭酸ガスを株元付近へ局所施用ができます。

△画像提供:(株)大仙
以上、本記事では、ハウス環境管理のうち最も基礎的な換気について、技術発達の歴史や近年重要性が見直されている理由を説明するとともに、換気方法や効果を比較した後、最近注目されている外気導入システムを紹介しました。
外気導入システムは、作物の生育環境の改善だけでなく、作業者の暑熱対策にも役立ちます。一般生活の場面では、風速が0.8m/sから1.5m/sに増加すると、暑さ指数が0.4(筆者注:体感温度で1℃近く)下がるとされています。
わずかな風速の違いでも体感は大きく変わるため、外気導入による送風は、作物の生育環境の改善だけでなく、作業者の暑熱対策としても有効な手段の一つと言えるでしょう。
▼参考文献
〇清水 茂「施設園芸と気象[ソ菜]」,1964
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/20/2/20_2_69/_pdf/-char/en
〇内嶋 善兵衛「ガラス室・ビニールハウス内の温度環境とCO₂環境」
https://js-soilphysics.com/downloads/pdf/026006.pdf
〇沖縄農業研究会「沖縄におけるビニールハウス微気象観測の1例 ―気温・地温―」,2009
https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/records/2015300
〇藤本 幸平,内藤 潔,卜部 昇治「ビニールハウスにおける換気扇による強制換気に関する研究(第一報)」
https://www.pref.nara.lg.jp/documents/7616/2-32-38.pdf
〇河野 徳義「促成栽培トマトの生育に伴う換気ハウスの気象特性およびCO2濃度の変化」,1987
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010371492.pdf
〇芳賀 一,土井 誠「静岡県におけるトマト黄化葉巻病の多発性要因と防除対策」
https://jppa.or.jp/archive/pdf/56_04_13.pdf
〇Miho OBU,Taichi MAKI「Meteorological Characteristics of Covered with ProofNet」,2005
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet/60/5/60_693/_article/-char/ja
〇金磯 泰雄「温風暖房機による送風が施設内の環境並びにキュウリ病害の発 生に及ぼす影響」
https://www.pref.tokushima.lg.jp/file/attachment/432454.pdf
〇環境省「まちなかの暑さ対策ガイドライン 令和4年度部分改訂版」2023
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/city_gline/city_guideline_03.pdf
▼参考サイト
〇愛媛県生涯学習センター「愛媛県史 社会経済1 農林水産」, 1986年
https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:2/38/view/5241