コラム
公開日:2021.05.19
アミノ酸やタンパク質などとして植物のからだを構成している窒素は、作物の生育に欠かせない重要な成分。肥料の三大要素のひとつで、作物の葉や茎、根の生長を支えるためにさまざまな窒素肥料が使われています。
「硫安(硫酸アンモニウム)」は、そんな窒素肥料の代表選手。あらゆる作物に使われるおなじみの肥料ですが、よく知らずになんとなく使っている方も多いのではないでしょうか?この機会に、硫安の特徴や使い方をあらためて確認しておきましょう!
塩安(塩化アンモニウム)・硝安(硝酸アンモニウム)・尿素・石灰窒素など、窒素肥料には硫安以外にもさまざまな種類があります。ほかの肥料との違いに着目して、硫安の特徴をまとめてみました。
ほかの窒素肥料に比べて、硫安はいくらか安く購入することができます。
主要な肥料のうち、ほぼ唯一、国内で生産されている肥料です。
硫安の成分は、施用後比較的すぐに効果が表れるアンモニア態窒素。ブルーベリーやお茶など、アンモニア態窒素を好んで吸収する作物ではとくに迅速な効果が期待できます。
硫安に含まれる窒素成分は20~21%。43%以上も窒素を含んでいる尿素などに比べると少ない分、慣れていない人でも施肥量をコントロールしやすく、窒素過多による徒長や病害虫の発生を防ぐことができます。
硫安は土壌のpHを徐々に低下させるので、この原理を利用して、アルカリ性土壌などの酸度矯正に使われる場合があります。一方で、硫安を施用する際は、土壌が酸性に傾きすぎないよう気を配ることも大切です。
硫安は、そのまま基肥として土壌に混ぜ込んだり、追肥として株元に散布したりして使用します。速効性の特徴を活かして、施用のタイミングが重要な追肥としてよく用いられます。
硫安の粒や結晶を水に溶かして株元に潅注すると、そのまま散布するよりもスピーディーに肥料効果があらわれます。葉面散布で応急的に窒素成分を補給したい場合は、硫安よりも葉面吸収されやすい尿素を使うのが一般的です。
気温・地温が高いハウス栽培では、硫安の施用後に土壌中のアンモニアや亜硝酸がガス化してしまい、作物の生育を抑制するリスクがあります。これを防ぐためには、一度に大量に施用しないこと、ハウス内を十分に換気することが重要です。硫安は、石灰などのアルカリ性資材と混ざった場合にもガスを発生させますので、この2つの同時施用は避ける必要があります。
今回は、硫安の特徴や使い方について解説しました。定番の肥料だからこそ、正しく使ってその効果を最大限に引き出しましょう!
▼参考文献
○秋田県野菜栽培技術指針 生理障害,農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/attach/pdf/aki3-26.pdf
○化学肥料に関する知識 硝酸態窒素とアンモニア態窒素の違い,BSI生物科学研究所
http://bsikagaku.jp/f-knowledge/knowledge80.pdf
○化学肥料に関する知識 硫安と塩安,BSI生物科学研究所
http://bsikagaku.jp/f-knowledge/knowledge82.pdf
▼参考サイト
○宇部興産株式会社
https://www.ube-ind.co.jp/ube/jp/index.html
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!