コラム
公開日:2022.10.06
葉物野菜に多く含まれると言われている硝酸塩。厚生労働省が実施した食品添加物の1日摂取量の調査結果では、許容されている一日の摂取量を上回る結果になっていたようです。さらにこの調査では、硝酸塩の総摂取量のうち、ほとんどが野菜由来のものということがわかっています。
食品添加物としても使用されているため、危険性は低い物質であるものの野菜に含まれる硝酸塩をできるだけ減らしたいと考える方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、硝酸塩がどんな物質であるかをはじめ、安心安全でおいしい野菜作りに役立つ栽培ポイントを解説します。
硝酸塩は植物がアミノ酸やたんぱく質を合成するために必要な物質のひとつです。土壌など自然界にも広く存在していますが、吸収される硝酸塩の量が多すぎたり、日光不足になることで吸収された硝酸塩がアミノ酸やたんぱく質に合成されず、植物の中に蓄積されてしまいます。 硝酸塩の含有量が多い野菜は、ほうれん草や春菊、サラダ菜などの葉物野菜ですが、茹でることで減少することもわかっています。
硝酸塩は、通常の摂取量であれば人体にとって危険な物質ではありませんが、体内で還元され亜硝酸塩に変化することで、メトヘモグロビン血症や発ガン性物質であるニトロソ化合物の生成に関与する可能性があることが指摘されています。
一方で、アスリートなどのパフォーマンス向上などに効果があるとして、硝酸塩が含有されたサプリメントなども販売されているので過剰に摂取しなければ特に問題がない物質だと言えるでしょう。
日本では、ハム・ソーセージといった加工肉やチーズ、漬け物などの加工品に使われている食品添加物としての硝酸塩の使用基準は設けられていますが、野菜など天然由来の食品に含まれる硝酸塩については基準値が設定されていないのが現状です。
国際連合食糧農業機関(FAO) と世界保健機関(WHO)が合同で運営する合同食品添加物専門家会議(JECFA) によると、硝酸塩の主要な摂取源は野菜であることがわかっていますが、野菜を食べることのメリットの方が大きいと考えられています。また、野菜の中に含まれる硝酸塩がどの程度血液中に取り込まれるかについても明らかになっていません。
日本で生産されている野菜は硝酸塩の含有濃度が比較的高い傾向にあるようです。硝酸塩はえぐみを感じさせる成分のひとつでもあるので、できるだけ少なくしたいと思う方も多いのでしょうか。ここでは、安心・安全でおいしい野菜づくりを目指す農家の方のために、硝酸塩を低減させる栽培ポイントを3つ紹介します。
農研機構が行ったコマツナの水耕栽培の試験では、光強度が強く生育温度が低いほど硝酸塩の濃度が低くなることがわかっています。硝酸塩の還元速度を速めるには、以下の4つを実践することが有効です。
● 被覆資材の透明度を保つ
● 遮光しない
● 晴天が続いた日の午後に収獲する
● 施設内の温度を低くする
硝酸塩の吸収を抑えるには、窒素成分をできるだけ少なくすることが重要です。収量や品質にも影響が出てしまうので慎重に行う必要がありますが、肥料の種類は即効性肥料よりも緩効性、施肥方法は全層施肥よりも局所施肥を行うことで硝酸塩の過剰吸収を抑える効果があるとされています。
野菜には、同じ条件で栽培をしても硝酸塩の濃度が高いものと低いものがあります。そのため、硝酸塩の蓄積が少ない品種を選ぶというのも有効な手段のひとつです。特に硝酸塩が多いとされているほうれん草では、硝酸塩やシュウ酸が少ない品種もあるので、それらを利用してみるのもおすすめです。
今回は、硝酸塩と野菜の関係についてまとめました。人体にそれほど影響がないとはいえ、野菜の味を左右することもある硝酸塩の濃度は低い方がいいですよね。気になる方はぜひ、管理方法や品種選択など、紹介した野菜の栽培ポイントを実践してみてください。
▼参考サイト
〇農林水産省「食品からの硝酸塩の摂取量」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/syosanen/ganyu/
▼参考文献
〇農林水産省「食品中の硝酸塩に関する基礎情報」
〇農研機構「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/shousanmanual.pdf
ライタープロフィール
かくやさゆり
種苗会社で培った経験と知識を活かしライターとして活動。
家庭菜園とアウトドア遊びが趣味の半農半ライターです。農業を中心にアウトドアをテーマにしたメディアでも執筆中。