コラム
公開日:2023.01.18
飲料や料理、美容・健康効果の流行に合わせてレモンブームがたびたび起こります。レモンの国内消費の9割以上が輸入で占められますが、輸入レモンはポストハーベスト農薬の発がん性が指摘されていることなどもあり、価格の高い国産レモンにも底堅い需要が見られます。 レモン栽培には温暖な気候が適しており、国内の主要産地は瀬戸内地域を中心とする柑橘類の産地に限られるのが現状です。この記事ではレモンのハウス栽培の可能性について、各自の事例を含めて解説します。
レモン栽培に適しているのは、年間平均気温が15〜16℃以上、最低気温がー3〜ー4℃を下回らないことに加えて雨量もそれほど多くなく風の影響も少ない温暖な地域です。国内では広島県と愛媛県が主要な産地であり、この2つの県で全国の栽培面積の7割、出荷量の8割を占めています。
国内で露地栽培されるレモンの北限は千葉県で、安房地域で6haほどの作付けが行われ産地化が進められています。東京都もレモンの生産を行う都道府県に入りますが、産地は八丈島と小笠原諸島の温かい場所です。離島で作られるものは島レモンや菊池レモンとして流通しています。
関東以北ではハウス栽培による生産への取り組みが行われており、栃木県宇都宮市では安定供給に向けた数名の生産者による組織化の動きがあります。そのほかにも個人の生産者がハウス栽培を行っている事例は山形県、岩手県などの東北地方に見られます。
国内のハウス栽培は寒冷地に限らず、主要産地においても国産レモンの出荷量が途切れる7〜9月の需要に対応するものとして栽培が行われています。
レモン栽培の適地とされるのは温暖で風雨の影響が少なく水はけの良い傾斜地や海岸地域です。樹勢が強く四季咲き性のレモンは、暖地であれば年に数回収穫できるケースもあります。
先にも述べたとおり、レモンは温暖で水はけの良いことが栽培適地の条件です。気温がー3℃を下回る場合や、風の強さなどの兼ね合いで霜が降りるような環境では枯死する場合もあります。
レモンは柑橘系の果樹に多いかいよう病に罹病しやすい特性があります。雨量が多い場所ほど発生しやすく、風に晒されて葉の付け根にあるトゲが葉や果実を傷つけることで病害の発生が助長されます。
レモンは四季咲きで豊産性という特性を持っており、樹勢が強く枝の発生量も多い果樹です。手を加えずに栽培すると樹高が5mにも達するものもあるため、横方向に枝が伸びるような矯正を施す必要があります。柑橘類に共通して他の果樹よりも施肥量が多い傾向がありますが、なかでもレモンは多くの肥料を必要とします。
レモンが国内に導入されたのはリスボンが明治時代、ビラフランカが大正時代といわれており、古くからレモン栽培は行われていました。レモンの2大品種はリスボンとユーレカ種ですが、これ以外にも国内ではいくつかの品種が栽培されています。
ポルトガル原産でレモンのなかでは耐寒性が高く、国内栽培のレモンの大きな割合を占めている品種です。トゲも多く樹姿は直立する傾向があり樹勢が強い特性を持っています。樹齢に達するまで時間がかかりますが、内成り果が多く豊産性です。
オレンジとレモンの自然交雑種で原産国は中国です。国内では小笠原諸島と八丈島で栽培されるものが菊池レモンやサイパンレモンとして流通しているほか、千葉県の新松戸でも栽培されています。寒さには比較的強く開張性の樹姿を持ちトゲは少なめです。丸い形をした果実と少ない酸味、薄い果皮が特徴です。
カリフォルニア原産で輸入品としても広く出回っている品種です。耐寒性は低いものの四季咲き性が強いため、国内ではハウス栽培で多く作られています。開張性の樹姿でトゲは少なく、ジューシーで柔らかい果実が特徴です。
シチリア原産の系統であり、国内でもリスボンに次いで早くから導入されて以降、広く栽培されています。樹姿は直立性でトゲは少なく、耐寒性は中程度の品種です。果実はユーレカと似た球形で、春咲きが主である開花習性はリスボンと同じです。
農研機構果樹研究所で開発されたリスボンと日向夏の交配種です。耐寒性とともに国内レモン栽培のネックとなるかいよう病への抵抗性を持たせることを主眼に置いたもので、強い病害抵抗性と高い収量性を持つのが特徴です。宇都宮市のハウス栽培にも採用されています。果肉の割合と搾汁性が高く、加工性にも優れています。
各産地のレモンの収量(※1)から、市場性のある農産品として流通している国内産のレモンは主要産地で栽培されるものがほとんどであると考えられます。
国内最大の産地である広島県が公開している柑橘系農家の経営指標(※2)から、レモン栽培の採算性について考えてみます。
レモン主要産地は柑橘系果樹の大産地であり、レモン栽培はみかんを中心とする他の柑橘類と合わせた複合経営であることが一般的です。広島県の経営指標では柑橘系農家の経営規模別に3種類の収支モデルが設定されています。このなかのレモン栽培面積の規模が小さい60aのケースについて見てみます。
・売上高:4,914,000円
・売上原価:1,190,121円(肥料、農薬、光熱費、修繕費、減価償却など)
・販管費:1,495,432円(出荷資材費、販売手数料、共済金・租税公課など)
・雇用労賃:65,700円(900円/時間 雇用労働時間73時間)
・所得:2,228,447円
●1a当たり売上高:81,900円
東京都中央卸売市場における2021年のレモンの平均価格:336円/kg
●1a当たりの年間必要収量:243.8kg
【栃木県宇都宮市(ハウス栽培)の栽培面積と出荷量(2019年)】
・栽培面積:0.5ha(50a)
・出荷量:0.6t(600kg)
●1a当たり年間出荷量:12kg
安定した経済栽培を実現している主要産地とハウス栽培での産地化を目指す宇都宮の例を比較すると収量で約20倍の差があり、さらに、施設栽培ではハウスの施工費だけを取っても、原価を押し上げる要素となります。これらの条件を考えると、レモンの寒冷地でのハウス栽培による収益化は容易ではないことがわかります。しかし、ワックスや農薬が懸念される輸入レモンに対する安全性が現在の国産レモンの優位性であり、通販などを通じて1,000円/kgを超える価格で販売されています。また、栽培面積が小さい主要産地以外では地元の飲食店への直販や加工向けとして出荷される割合も大きく、市場価格に縛られない販路を開拓している例も少なくありません。
市場価格はレモンの出荷量が減少する7〜8月に高騰すること、また、主要産地の生産量も冬季の寒波により大きく変動するといった市場特性があります。このようなレモンの市場特性に対しハウス栽培の強みを活かす戦略を取っていくことが儲かるレモンのハウス栽培につながります。
(※1) 農林水産省 特産果樹生産調査 2019年 種類別栽培状況 柑橘類の果樹
(※2) 広島県農林水産局農業技術課 経営指標【果樹】
食の安全意識の高まりを背景に国産レモンの栽培面積は増加傾向にあり、産地化への取り組みの動きも各地で行われています。高単価での販売を実現している例も少なくないことから、レモンのハウス栽培における生産技術の高度化が期待されます。
▼参考文献
〇農林水産省 果樹品種別生産動向調査累年統計
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500503&tstat=000001020907&cycle=0&year=20190&month=0&tclass1=000001034278
〇農林水産省 果樹品種別生産動向調査 かんきつ系の果樹
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500503&tstat=000001020907&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001032892&tclass2=000001163131&tclass3val=0
〇広島県 経営指標 【果樹】
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/84/1268022523165.html
〇レモンの栽培技術 千葉県農林水産技術会議
https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/seikafukyu/documents/h25-5-lemmon.pdf
ライタープロフィール
【矢射尽春】
宮城県の米どころに住んでいます。調査会社に所属し大手シンクタンクの地方振興プロジェクトに携わるなどの経験から、マーケティング視点の重要性を農業にも広めていきたいと考えています。農協に務めていたこともあるので、ハウス栽培に役立つ情報を広く発信していきます。