コラム
公開日:2023.08.10
暑い夏の盛りに、冷たいスイカを思いっきり頬張りたいけど、種が気になる……そんな声を受けて、これまで多くの種無しスイカが生まれてきました。近年は、栽培がしやすくしっかり甘い種無しスイカの品種が市場に出回っています。この記事では、種無しスイカの仕組みや、栽培におすすめの品種をご紹介します。
種がないスイカの増やし方って?と疑問に思う方も少なくありません。種がないスイカを作るには、2つの方法があります。
1つは「コルヒチン」という植物ホルモンを利用する方法です。多くの生物は遺伝子情報を伝える染色体を2組持つ「2倍体」です。2倍体の植物は、親である「めしべ」と花粉が2組の染色体情報を持っています。受粉すると、2組の染色体のうち、1組ずつが子どもに遺伝し、親と同じように2倍体の植物が生まれます。
種無しスイカには、この染色体が大きく関係しています。一般的な2倍体の種ありスイカの芽が出た頃に植物ホルモンを使用すると、染色体が4倍体に変化します。この4倍体に変化したスイカのめしべに2倍体の花粉を受粉して育てると、結実した果実には3倍体の種が宿ります。植物ホルモンの働きによって染色体が両極に分かれる減数分裂が阻害されるためです。この3倍体の種を育てると、種無しスイカができあがります。
もう1つは、種ありスイカのめしべに、X線を当てることで種をつくる機能を低下させたスイカの花粉を受粉させる方法です。日本で開発された技術ですが、主にスイカの人気が高い韓国でこの技術を使ったスイカ栽培が盛んです。
種無しスイカの原理は以前から確立されていましたが、身近な商品としてスーパーの青果売り場などではあまり見かけません。種無しスイカが一般的に浸透していない理由には3つの要因があります。
種無しスイカの育てるためには、多くの手間がかかります。植物ホルモンを使うことで何度も交配を繰り返す必要があるためです。
手間をかけて作り上げた種無しスイカは、栽培に手間がかかるわりに甘みが弱い、水っぽくなってしまう弱点があります。
種無しスイカの栽培方法にはコストがかかることも難点です。収量が少ないため、かかったコストを商品に上乗せすると、どうしても作物の値段が上がってしまいます。 そのたおめ、割高感があり買い求める消費者はどうしても少なくなってしまいます。
マイナス面ばかりが目立つ種無しスイカですが、近年では、これまでの概念を打ち破る新たな品種「ブラックジャック」が注目を集めています。
ブラックジャックスイカとは、奈良県のナント種苗株式会社が品種改良を繰り返し、地道な研究を続けた結果生み出した品種です。表皮は黒に近い濃い色で、果実の果重は6kgから10kg。糖度は12から13度と、味や甘さもしっかりあります。種無しスイカは繊維質が多い、果実が割れやすいなどの難点がありましたが、ブラックジャックの果実は硬めで繊維が少ないため、どんな切り方でも崩れず、シャキシャキの食感が味わえます。そして、なんといっても未熟な種がほとんどできず、見栄えや食べやすさも良好です。
△ブラックジャックスイカ
ブラックジャックは、他の種無しスイカの品種と比べて低温でもよく着果するのが特徴です。ハウス栽培であれば4月下旬、トンネル栽培の場合は6月から8月中旬頃までが収穫時期となります。現在では熊本県、千葉県、山形県のほか、各地で栽培、出荷され、市場に出回っています。種は通販で手に入るため、家庭菜園でもチャレンジ可能です。
ブラックスイカは3倍体のため、単体では実をつけません。必ず2倍体のスイカを一緒に育てましょう。
甘くみずみずしく、そして種が気にならないスイカを食べたい、という声に答えて試行錯誤が繰り返された種無しスイカ。栽培しやすい品種が登場し、おいしい種無しスイカの栽培が身近になっています。皆さんもぜひ種無しスイカ作りにチャレンジしてみてください。
▼参考サイト
〇アグリサーチャー, 軟X線照射花粉の授粉による種なしスイカ作出法(普及)
https://agresearcher.maff.go.jp/seika/show/227584
〇毎日新聞, どんなスイカも種なしに 日本発の花粉技術 韓国で人気(2021.9.9.15:58)
https://mainichi.jp/articles/20210909/k00/00m/040/085000c
〇スイカ倶楽部
https://suika-club.com/
〇ナント種苗(株)
https://nantoseed.com/
▼参考文献
〇新技術による種なしスイカの作出マニュアル,独立法人農業・生物系特定産業技術研究機構 野菜茶業研究所
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/seedless.pdf
ライタープロフィール
高橋みさと
自然に近い場所を求めて2021年に都内から郊外へ移住。
ライター業をしながら米や野菜づくりを実践しています。
趣味は登山と外遊び。
発酵に興味があり、コンポストを利用して生ごみを捨てない生活にはまっています!